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~注意~ ・今回は、ジョジョTUEEEEEEEEEEEEEE!!な表現が過分に含まれています。 東方キャラが吉良吉影にフルボッコにされるのを見たくないかたは、絶 対に読まないでください。 ~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第三話 復讐と露見 前編 「やあ、あんたが件の外来人か。」 「そうだ。私は河尻浩作。君が案内してくれるのか?よろしく頼む。」 「いいっていいってそんな硬くならなくて。私は藤原妹紅。健康自慢の焼き鳥屋だ。こちらこそよろしく頼む。」 「済まないな。私のために危険な目に遭うかもしれないのに。」 「大丈夫さ。私は殺しても死なないって有名なんだ。 それにな、私も暇してんだ。ちょうどいい暇潰しになって、むしろこっちが………」 「も~こ~う~?」 「ははは、冗談冗談。」 睨む慧音に、妹紅が少々慌てて弁解する。 吉影が慧音の家で目覚めてから、彼は【外の世界】に帰るまでの間、慧音の家に泊めてもらうことになった。 “【幻想郷】を覆う結界を管理する博麗霊夢という巫女に、とりあえずいつでも【外の世界】に帰れるように手筈を整えるよう頼み、それから暫くは【幻想郷】で暮らしてみたい” という、吉影の我が儘を慧音は快く受け入れた。 が、診察所の判断で3日間養生することに決まり、その間【幻想郷】について慧音から詳しい話を聞いたり、人里を観光したりした。 吉影の噂は随分広まっていたらしく、外出時には目立たないよう和服を着ていたが、それでも彼は人々の、異質な存在を見る時の、好奇、そして時には敵意の視線に晒された。 実際には好奇心と好意を持って話しかけてきた人々が多数だったが、『植物のように穏やかな心』で暮らしたい彼にとってそれらは全て心の平穏を乱す攻撃に他ならなかった。 それでも彼は慧音の『手』を手に入れるまでの異世界ライフを平和に楽しむため、愛想よく振る舞っていた。内心早くもうんざりしていたのだが。 そして3日間は大した問題も起きず、予定の日、博麗神社へと向かう朝を迎えた。朝食を済ませ、案内兼護衛の妹紅という少女と挨拶を交わし、二人は博麗神社へと出発した。 水田の広がる、人里の門から少し離れた場所。 腰をひねったり、屈伸したりしている妹紅の後ろで、吉影は訝しげにその様子を見ていた。 「さあ、博麗神社までひとっ飛びと行くか!」 妹紅が準備体操を終え、吉影の方を振り向いた。 「ひとっ飛び?・・・私は飛べないが…」 「分かってるって。だからさ…」 妹紅が吉影に背を向け、中腰になる。 「さあ、乗ってくれ。」 「…え?」 「いや、だからさ、乗ってくれって言ったんだよ。」 「…大丈夫なのか?」 「心配ご無用。早くしてくれ、あまり遅くなると帰りの途中で日が暮れてしまうぞ。」 「…分かった、じゃ、じゃあ、よろしく頼む。」 吉影が恐る恐る妹紅の背におぶさる。30代の男が、(少なくとも外見は)10代の少女におぶさるという、かなり滑稽な絵が出来上がった。 「(こ、これは恥ずかしい… 人里の人間の誰かに見られていならなければいいが…)」 「さあ行くよ!歯を食い縛りな!!」 「~!!?」 一気に地から離れ、森の上空へと弾かれるように飛び出した。眼下を森の木々が流れていく、というか流れ去っていく。烏の横を嵐の如く過ぎ去り、空の交通安全を乱しながら飛行する。 「どうだい、河尻?これ程高い場所にいるのは初めてか?」 風に白い髪をなびかせて、妹紅は振り返り得意げに笑う。 「…初めての感覚だ…生身でこれ程高く速く飛んだことはなかったな…」 妹紅は、かなりの安全運転で飛行していた。それでもバイクで高速道路を爆走するくらいの風圧はある。 「『生身』?生身じゃなけりゃ、こんなふうに飛んだことはあるのかい?」 「ああ、飛行機といってね、上空何里もの高さを、ものすごい速さで飛ぶ乗り物があるんだ。種類によっては音の三倍の速さで飛行するものもある。」 「【音の速さ】…!?そ、それは凄い……想像できないな……… やっぱり魔法は科学には敵わないのかもしれないね………」 「いやいや、外の科学ではこんなふうに、何も道具を使わずに飛ぶなんてまだできない。コストも乗り物を造る年月もバカにならないものだ。」 「成る程、どちらもそれぞれ長所短所があるってことね。」 そんな会話をしながら、二人は博麗神社へと順調に近づいていた。 「・・・? おい、なんだあれは?」 「ん?どうした?」 妹紅は前を向き、吉影の指差す方角を見る。 そこには、鳥の群れらしきものがいた。それだけなら大したことないが、問題はその大きさである。普通の鷲だの鷹だの鳶だのの、5倍以上の巨躯。かなり離れた距離にいるにも関わらず、はっきりとその姿形が判別できる。 「おおっと、おいでなすったな。」 不敵に笑う妹紅。 「なんだあいつらは?まさか妖怪か?」 「その通り!久しく輝夜と殺し合いしてなかったんだ、血がたぎってきたよ…。」 群れはもう目前まで迫って来ていた。群れは列を組むわけでもなく、てんでバラバラにこちらに突っ込んで来る。 凶悪な嘴を打ち鳴らし、ゾッとするような甲高い咆哮を上げて襲いかかって来た。 「しっかり掴まってろよ!!」 「!!?」 ギュンと加速し、妖怪共の群れの中へ突入する。吉影を一気にGが襲った。耐え難い力に頭を大きく後ろに反らし、必死に妹紅の肩にすがる。 先頭の一頭が嘴を開き、妹紅を八つ裂きにせんと、襲い来る。 「キシェェェェェェ!!」 最小限の動きで嘴を避ける。その後ろの二頭の翼をくぐり、次の一頭の爪を左に避け、三頭の脇をすり抜ける。妹紅は妖怪共の間を縫うように、瞬く間に群れを突破した。 「チッ、このままじゃ分が悪い…」 後ろを確認した妹紅が呟く。妖怪達は既に急旋回し、追跡して来ていた。 「しょうがない、一旦地上に降りてあんたを下ろす!」 「なんだと!?ちょ、ちょっと待て―――――――――うおおおおお!!?」 頭から地面に向かって、一気にまっ逆さまに急降下する。さすがにこの衝撃には耐えられず、【キラークイーン】の腕を使わざるを得なかったが、幸い妹紅は気付く様子は無い。 真下の森の木々の葉をぶちまけ、枝をへし折って突入する。地面が見えた瞬間、ギュイン!と身体を回転させて見事に着地した。 「さあ、これから殺し合いするから、悪いけど自分の足で立ってもらうよ。」 「・・・ま、待てッ・・・!!ちょっと・・・待て・・・ッ!め、眩暈が…………!」 妹紅に下ろされた吉影は地面にへたれこみ、飛行初体験の自分をおかまいなしに飛ばしまくる妹紅への苛立ちからか、少し素の出た口調で妹紅を呼び止める。 「おいおい、大丈夫かい?そんなんじゃ本当に死…………、っ!? ………死んじまうな・・・」 軽い雰囲気だった妹紅の口調が、突如真剣になった。吉影は訝しげに、立ち尽くす妹紅の背から目をはなし、周囲を見回した。そして、絶句した。 樹木の蔭に蠢く、無数の眼。 ギラギラと紅く輝く、渇望に満ちた双眸。 二人を囲み、涎を溢れさせながら油断なく隙を伺う、野獣の眼光。 「か、囲まれている…だと・・・?」 「そういうことだ。私でもこの数相手に『護りながら』戦うのは厳しい。死にたくないなら早く立ち上がって…」 「御心配感謝する。だがそれは無用だ。」 妹紅が振り向くと、吉影は既に立ち上がっていた。 震え1つ起こさずに、背筋を伸ばして。 その瞳に、恐れや不安は感じられなかった。 「ほう、やるねあんた。もし私があんたみたいに力もなく、見たこともない化け物の群れに囲まれたら、とてもそんな風には振る舞えないね。」 「何を言っている?私には君という慧音が紹介してくれた『信頼できる護衛』がいる。 なにより、私は戦わない。ただ護ってもらうだけだ。何を足掻こうが無力なのなら、せめて何もしないのが最大のサポートというものじゃあないか。そうだろう?」 「・・・ははっ、確かに!戦うのは私だったな!」 空気が緩み、いつもの【幻想郷】に戻る。命をかけたりしない、『遊び感覚の決闘』の雰囲気に。 妹紅は気を引き締め、構える。 「私の背中に近寄れ。できるだけな。」 吉影は素直に従う。 森の暗さに慣れてきて、妖怪共の姿が徐々にはっきりと見えてきた。狼やヒヒ、熊を普通の5倍ほどに巨大化させたような、人との共通点など欠片もない獣ばかりだった。 「ふん、知性のあるヤツは居ないみたいだな。これなら遠慮なくぶっ殺すことができる。」 妹紅の放つ気配が豹変する。 近くにいると焼けてしまいそうなほど、強烈な殺気。 何度も殺し、殺されかけた者の持つ覇気。 妖怪共はあまりの迫力に、ジリジリと後退りし、萎縮する。 「(・・・! なんという殺気だ……此処の娘共は皆こうなのか?)」 吉影は内心焦っていた。【幻想郷】の住民が皆恐ろしく強かったなら、彼の安心は確立されず、なにより『彼女』を連れ帰るのに支障をきたす。 「―――――――――戦う前に一応言っておくが……、私がもし、万が一死んだら、すぐに死体から離れてくれ。猛ダッシュで逃げるんだ。 すぐに妖怪達は纏めて吹っ飛ばされる。その間に、一心不乱に逃げるんだ。」 「? ……、了解だ、妹紅。」 会話が終わると、妹紅は妖怪共の方に向き直った。 「なんだ、かかって来ないのか?食事をしに来たんじゃないのか?腹でも下したか?」 妹紅が一歩前に出る。正面の妖怪がたじろぐ。 「そっちが来ないってんなら…こっちから行かせてもらう!!」 妹紅が懐からスペルカードを取り出し、高らかに挙げ、宣言する。 「時効『月のいはかさの呪い』!」 妹紅を中心に、無数の光弾が放射状に放たれた! 光弾は妖怪共の肉を容赦なく抉り、骨を砕き、脳髄を撒き散らした。 「グオオオォォォォ!!」 妖怪共が恐怖を怒りでもみ潰して襲いかかって来る。 「フン、他愛もないね。」 妹紅は次のスペルカードを手に取り、宣言する。 「蓬莱『凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ―』」 大量の火球がばらまかれ、さらに炎の光線が放たれる。 妖怪共は避けながら迫って来たが、そこに追い討ちとばかりに巨大火球が放たれた。 向かって来た妖怪共は火球と光線に囲まれてやっと罠だったと気付いたようだが、もう遅い。身動きが取れず団子状態の妖怪に、巨大火球が突っ込む。 火球は着弾すると爆裂し、爆発に巻き込まれた何十頭もの妖怪は派手に内臓をぶちまけて吹き飛んだ。血飛沫が樹木の根や土をどぎつい色に染める。 「(す、凄い……!なんという闘いだ…これだけの数の妖怪を、たった一人で圧倒している。爆発の威力はほぼ互角だが、攻撃範囲、手数が桁違いだ。真正面から戦えば、確実に負ける。こんなやつらがごろごろ居るのか?この【幻想郷】には………)」 吉影の顔に影がさした。ハッと上を見上げる。 「妹紅!上だ!!」 さっき振り切ったと思っていた鳥の妖怪達が嘴を打ち鳴らし、急降下して来ていた。 「不死『火の鳥―鳳翼天翔』!!」 妹紅がスペルカードを抜き、宣言する。 不死鳥をかたどった三つの爆炎が迎撃する。爆炎は妖怪二、三頭を一瞬で消し炭にし、さらに後から突っ込んで来た四、五頭を骨にする。そのまま落ちて来た骨を、蹴り一発でぶち壊した。 「(しかも肉弾戦までこなすだとォ…ッ!?まさか妹紅、こいつも・・・!『人間』ではないのか!?)」 吉影の思考は、その対象の叫びによって中断された。 「危ないっ!!」 「ぐあっ!?」 妹紅に襟首を掴まれ、強引に空中へと引き摺られるようにして飛んだ。一瞬前まで立っていた場所に、巨大な岩が落ちてくる。 「畜生、あいつだ!!」 妹紅の視線の先、やや離れた場所にヒヒの妖怪がいた。どうやらこいつがこの岩を投げて寄越したようだ。 「ッ! また上だ!!」 「はっ!?」 まだ残っていた鳥妖怪が、目前まで迫っていた。 「まずい!!」 妹紅は急旋回し凶悪な嘴を避けた。だが……… 「うおッ!!」 「し、しまった!!」 吉影の襟首から手が放れてしまった。 吉影は地面に激突する直前に【キラークイーン】を出現させ、その腕でバレないように受け身をとる。 即座に立ち上がり、妹紅の様子を確認したが、怪しまれている様子は無い。 「河尻!危ない!!」 妹紅が必死の形相で吉影の方に、もの凄い速さで向かって来た。 「ハッ!!」 振り返ると、巨大岩が自分目掛け一直線に飛んできている。 「(まずいッ!!)」 【キラークイーン】を出現させ、自分は瞬時にその場に伏せる。【キラークイーン】は巨大岩を吉影に当たらないように、そして不自然に見えないように、絶妙に軌道修正して受け流した。 「(くそッ!一人でいるより何倍もやりにくい・・・ッ!妹紅に気を配る必要さえ無ければ、こんなケダモノ風情・・・!! 危なかった………だがこれでひとまず危機は回避でき……、…ッ!?)」 妹紅は、空中で静止していた。吉影に驚愕の表情を向けながら。 「(何ィ!?まさかバレたのか?そんな馬鹿な・・・!軌道修正は完璧だったはずだ!!なぜ…いったい何故ッ!?)」 妹紅は呆然とした表情のまま、吉影の背後を指差す。 「・・・『それ』…なんだ?」 吉影は振り返り、愕然とした。 吉影を狙ってきた岩は、彼に命中しなかったことによって、彼の背後へと迫っていた狼型の妖怪を押し潰していた。普通なら奇跡に喜ぶところなのだろうが、この場合は不幸に他ならなかった。 【キラークイーン】は、ソイツの血飛沫を浴びていた。『スタンド使い』でなくても、巨漢の人型の存在を認識できるほど、ベッタリと。 「 (な・・・ッ!なんだとォッ~!?)」 妹紅を見る。彼女は知ってしまった。彼女に知られてしまった。自分が『能力』を持っていると。自分は嘘をついていたと。 「(どうする?どうすればいい? 【始末】するか?いや、容易く骨にされるだけだろうし、今は周りの妖怪の始末が最優先・・・! 話し合い?そんな状況ではない。 無視して妖怪と戦う?そんなことをしても、彼女は納得しないだろう。 いったいどうするべきか…………、 っ!?)」 彼の中で、藤原妹紅は完璧に『タクシー』から『ジャマ者』へとクラスチェンジした。 “どうやって始末するか”、今自分が守っていた男が向けている眼差しが、自分のことをそんな視点でしか見ていないことに、妹紅が気付く術は無い。 ふっと、吉影は彼女の背後に目を移した。目を見開く。 「ハッ!?」 妹紅がふりかえったが、遅かった。 突然発生したどす黒い霧が、妹紅の全身を呑み込んだ。 「何ィ!?」 【キラークイーン】の脚でバックジャンプし、霧から逃れる。霧の中から、肉が引き裂かれ、液体の迸る音が聞こえた。 「この霧―――――――――冗談だろう…?クソッタレが・・・ッ!」 霧が晴れるとそこには、喉を喰い千切られ、動かない妹紅の身体が横たわっていた。 「そうだよ~。お久しぶりだね~♪」 森の暗がりの中、どこからともなく、あどけない少女の声が響く。 「やはりお前か…… こいつらはお前の『子分』か?」 「ううん、違うよ~ ただ“外来人がこの辺にいたよ。”って言ったら勝手に言うこと聞くようになっただけだよ?」 「成る程、私を消耗させてから襲うつもりか。とりあえず、まずは顔を見せてもらいたいんだが…?」 「や~だよ~♪あなたの『念力』の射程とか『能力』を観察するんだから。」 「ほう、完全に捨て駒扱いか。」 「そういうこと~♪じゃあ、せいぜい頑張ってね~♪」 ルーミアとの会話が終わると同時に、樹の上で待ち構えていた妖怪数十頭が、一斉に襲い掛かってきた。 「ギャアアアアアアア!!」 「グオオオオオオオオオ!!」 「ギシェエエエエエエエエエエエエ!!」 咆哮し、牙をむき出しにし、涎を撒き散らしながら、一人の人間に襲い掛かる。 「【キラークイーン】」 吉影は極めて冷静に、スタンドを出現させる。妹紅が死んだ今、彼の唯一の味方である、彼自身の精神の片割れを。 「しばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!!」 妖怪が吉影に飛び付き、牙を剥いたまま、硬直した。【キラークイーン】の腕が、拳が、残像すら残さないほどの速さで繰り出される。 「しばっ!!!!!!」 【キラークイーン】はギュイン!!と回転し、ビタッと停止して華麗にフィニッシュを決めた。その瞬間 ドドドドドドドドォォォォォォォォォォォォォォォォ!! 「「「ギャヒャバアァァァァァァァ!?」」」 砕け散り、へし折られ、へしゃげ、ねじ切られ、肉塊と成り果てた妖怪共は樹木の幹や苔に覆われた地面にぶち込まれ、埋没した。 「(おお、素晴らしい…!この世界に迷い込んでから力がみなぎっている気がしていたが、まさかこれほどとは……! スピードはクソッタレ仗助の【クレイジー・ダイヤモンド】と互角、パワーはそれ以上かもしれないッ!!)」 【キラークイーン】の脚を後ろに蹴り上げる。背後から飛び掛かってきた狼三頭が臓物をぶちまけて吹き飛び、樹木の幹に叩きつけられ、動かなくなった。 「(しかも【気配】にも敏感になっている。堪も冴えてきた……そういえば妹紅が言っていたな・・・昨日通過した森の茸の胞子は、『魔法使い』の力を高めるとか。これもその作用か?)」 【キラークイーン】の性能の向上を実感し、吉影はルーミアの居場所を探るべく辺りを見回す。 「うわぁ、すご~い♪でも残念、捨て駒はまだまだたくさんいるよ~」 「いい加減出て来たらどうだ?今ならまだ3分間痛め付けるだけで赦してやるが…」 「ま~だだよ~♪ かくれんぼはちゃんと自分で探さなくちゃ。」 「…分かった。探して見つけ出して気が済むまで嬲り殺してやる。」 自分に接近していた妖怪を片手間に殴り飛ばし、 「お前、【スペルカードルール】で戦うつもりはあるか?」 「何言ってるの?『外来人』のくせに。【スペルカードルール】はあくまで【幻想郷】の住民のための制度。あなたには適用されることはないよ。」 「つまり、これは【ルール】に則った決闘ではないということだな。よかった、私が断然有利というわけだ。」 「………本当に何言ってるの?【スペルカードルール】なしに人間が妖怪に敵うはずが………」 「『【殺し】なら得意分野だ』、と言っているんだよ。」 吉影の瞳が、殺人鬼のそれに変わった。 「フフッ、面白い冗談だね。」 ルーミアとの対話が終わり、声のした方向からおおよその位置を探り出した吉影は、さらに彼女の居場所を絞り込む策を実行する。 「さて、コイツも強化されているか実験してみるか。」 【キラークイーン】が左拳を突きだす。 「『【キラークイーン】第二の爆弾』、【シアーハートアタック】!!」 手の甲からドクロを模した一台の小型戦車が発射された。 「目標はクソケダモノ共より離れた場所にいる人型の熱源だ。途中の敵は爆破しろ。さあ、捜せ!!」 【シアーハートアタック】が頭上を旋回しルーミアを探している間、近寄る妖怪の頭を潰して【爆弾】に変えて投げつけ、牽制する。 すぐに見付けたらしく、地面に降り、キャタピラでパワフルに土を掴み走り出した。 「コッチヲミロォ~」 【シアーハートアタック】は地面の凹凸を利用して元気よく、体温高めの妖怪の腹を突き破り、口に飛び込み、内側から爆殺していく。妖怪は何が起こったかも分からず、大混乱に陥っていった。 【シアーハートアタック】は『標的』の探知は常時行えるが、追撃は他の熱源がある限り一直線とはいかない。そこで『本体』、吉良吉影の観察眼の出番である。 「成る程、そこか・・・」 暫く【シアーハートアタック】の動きを観察し、そのパターンからある程度の指向性を見抜くと、その方向に目を向ける。その先には特別巨大な樹木があった。 「【シアーハートアタック】、もういい。そいつを監視しながらコイツらを片付けてくれ。」 再び飛び掛かってきた妖怪をぶちのめしながら、命令を与える。 【シアーハートアタック】はそれに従い、吉影を囲む妖怪の群れに突っ込んで行った。たちまちの内に妖怪共は激減したが、恐慌に慣れたのか妖怪はかなり近くまで迫って来るようになった。 「まずいな…、下手に放っておくと爆発に巻き込まれる危険がある・・・ 仕方ない・・・」 【シアーハートアタック】を左手に戻し、両手でラッシュを叩き込む。 「しばばばばばばばばばばばばッ!!」 妖怪共を叩き、潰し、蹴り、ぶっ飛ばす。【キラークイーン】は全身に血を浴び、もはや元のショッキングピンクの肌は見えない。 「むっ?」 またしても飛んできた巨大岩を、片手で粉砕した。破片が妖怪共の肉を穿ち、痛みに吠える。 「さて、そろそろいいか。」 吉影は先ほど【シアーハートアタック】が示した方向に向き直る。妖怪は遠巻きに吉影を眺めるだけで、ただ震えている。 「そこにいるんだろう?出てこい。」 樹木の陰に呼び掛ける。 「うふふ、せ~かい♪」 ルーミアが陰から姿を現す。輝く金髪、紅い瞳、忘れもしない、その姿。 「あなた、本当に凄いんだね。これだけの数の妖怪を、弾幕も撃てないのに、たった一人で倒しちゃうなんて。」 ルーミアが可愛らしく、妖しく、不気味に笑う。 「でも、あなたも相当消耗しているはずよ。その状態で私と、残りの妖怪に勝てるかな~?♪」 吉影はただ彼女を睨み付けている。 「それに、あなたの『念力』の射程距離も形も分かったよ~ 形は人型、射程はだいたい2、3メートルってところでしょ?爆発は私の位置が分かっていたのにできなかったんだから、半径15メートルくらい―――――――――」 「―――――――――だな。」 「え?なになに?何て言ったの?」 「【かくれんぼ】はお終いだな、と言ったんだ。私の『勝ち』でな。」 「…まあ、そうだけど、でも―――――――――」 「じゃあ、罰ゲームだ。君はもうお終いだが、その前に『おいた』のことは謝ってもらわないと。 とりあえずそこに、ひざまづいてもらおうかな・・・」 静かな、しかし冷たい声色で吉影は語りかける。 “本気の自分が人間ごときに負けるわけがない。” そう考えていたルーミアには、彼の言葉は思い上がりも甚だしい只の世迷い言か新手のジョークに聞こえたのだろう。 「フフッ、そんなこと言って…――――――――」 クスクスと笑い、彼女が口を開いた時、 「ひざまづけッ!!」 ドグォォォォォォォォ!! 吉影の怒号が響いた瞬間、二人を囲んでいた妖怪が爆炎と共に吹き飛んだ。それと同時に、 「――――――――えっ………………っ?」 ルーミアがくずおれる。立ち上がろうと足に力を入れようとするが、意に反して全く動かない。恐る恐る自分の足を見た。 「きゃあああああああああああ!!」 彼女の両足はズタズタに崩れていた。 「――――――――先ほど飛んできた岩は、【キラークイーン】が【爆弾】に変えてから打ち砕いた。 小娘、貴様の隠れている樹のそばにばらまいておいた破片が、爆発したんだよ・・・」 両足を破壊され悲鳴を上げるルーミアに、吉影はゆっくりとした、だが確固たる足取りで歩み寄って行く。 「あっ、ああっ!足が!私の足が…」 「……この世界に流れ着く前、私が住んでいた町では、年に一回救急講習が開かれていたんだが……」 「いっ、痛い!痛い!!痛い!!!ああっ、足、足が…」 「君と戦った後、真剣に受けておくんだったと後悔したよ……技術を身につけなくっちゃあな……… でも、ああいうのに通っている連中ってのはどーなんだろうな?一週間も歯磨きしてないヤツが、人形相手に人口呼吸練習したり、それを使い回したりしてるのかな…?」 「ああっ、立てない!立ち上がれない―――――――――」 「【キラークイーン】に抱えられて樹の上を移動していた時が一番応急処置の必要性を実感したよ………抉れた傷口が開いてね……立ち止まったらまた君みたいなのに襲われるかも知れなかったのだし………」 ルーミアは歩み寄る吉影から離れようと体を引き摺る。 「イヤ…、来ないで…来ないで!!」 「どうした、足が二本使い物にならなくなっただけじゃないか…かかって来い………」 「ひぃっ!?」 「関節をはめ直せ!傷口に唾をつけろ!足を再構築して立ち上がれ!さあ、お楽しみはまだまだこれからだ! ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ハリィィィ!!」 「ぐっ…」 ルーミアが唇をきつく噛みしめた。血がサァッと流れる。 「(何を怯えているの、私・・・!? あなたは宵闇の妖怪、人里の人間がその名を聞けば震え上がる、妖怪ルーミアよ!! いくら騙し討ちされたとはいえ、相手は人間じゃない!それにこの『外来人』の言うように、まだ足を二本やられただけ・・・!恐れる必要なんてないわ・・・ さあ、この生意気な人間を食べるのよ、ルーミアっ!!)」 恐怖を押し殺し、両足に力を込め、上半身を起こす。 「妖怪をなめるなッ!!人間ッッ!!」 宙に飛び上がり、吉影を睨み返す。 「足なんてなくても、飛ぶことはできる!!」 ルーミアは一気に吉影との距離を開き、 「ブラックアウトッ!!」 闇で森を覆い尽くした。 「ぬっ!?」 闇に包まれる瞬間、【キラークイーン】の拳で背後を殴り付けた。妖怪二、三頭が頭を吹き飛ばされてくたばる。 「・・・あのクソガキ、私が接近している間に妖怪の包囲を縮めていたのか……まずいな、十分に近づいてから【シアーハートアタック】を叩き込むつもりだったが、これほど至近距離に妖怪がいると自分も巻き込まれてしまう…」 気配と音だけで襲い掛かって来る妖怪を見切り、ラッシュを叩き込む。 「しかもコイツら、やたらと感覚が鋭い。若干私の方が不利か…」 その時だった。 ドドドドドドドドドド!! 聞き覚えのある地鳴りのような轟音が響いてきた。 「!! まさか!?」 弾幕が襲い掛かってきた!! 「うおおおおおおおお!!」 【キラークイーン】で妖怪一頭を掴み、ぶん回した。 盾にされた妖怪は他の妖怪や弾幕にぶつけられ、ボロ雑巾のような醜い姿に成り果てる。 どうやらルーミアは無差別に弾幕を張っているらしく、弾幕に巻き込まれた妖怪の肉片が吉影の顔にへばりつく。 「クソッ、大切な一張羅を!!」 弾幕が止んだことを確認し、原型が分からなくなるほど崩れて憐れな肉塊と化した(実際には見えてないが)妖怪を投げ棄て、人の頭ほどの大きさの石を拾い上げる。 「光が消滅か吸収かされるというのなら………コイツでどうだッ!ン!?」 【キラークイーン】の指先が石に触れる。 「『だいたい』で良いんだよ……この大きさなら、かなりの威力を発揮できるからな………」 弾幕が向かって来た方向に向き直り、【キラークイーン】に投擲姿勢をとらせる。 「やれっ!【キラークイーン】!!」 【キラークイーン】が石を大砲のごときパワーで投げ飛ばした。 ドグオオォォォォォォォォォォ!! 最大威力の【第一の爆弾】が爆発し、耳をつんざくような爆発音が轟いた! 「きゃあああああああああああ!!」 「「「グオオオオオオオオ!!」」」 金切り声と共に闇が晴れていく。 やがて完全に闇は消え失せ、気絶した妖怪と、宙に浮きながら目を回し、耳を押さえて呻いているルーミアの姿が見えた。 「――――――――爆風を受けた時、最も傷付きやすいのは眼球と鼓膜だそうだ。初めてこのような使い方をしたが………上手くいったようだな………」 耳を塞いでいた手を下ろし、【キラークイーン】の脚で跳躍する。 「ううっ、耳が…頭が…ジンジンするぅ…」 昏倒寸前の彼女の前に、突然吉影が現れる。 「あっ―――――――――」 ドグシュ!! 【キラークイーン】の拳が、ルーミアを貫いた。 「がはっ…!?」 ぶっ飛ばされ、樹の幹に背中を打ち付ける。骨がへし折れる音が聞こえた。 「ぐあっ…!!」 地面に倒れ込み、そのまま顔を伏せる。 腹から流れ出した大量の血液が、巨木が根を張る土に染み渡り、紅葉の落ち葉のように地面を赤黒く染め上げる。 ルーミアは苦しげに呻き、力を振り絞ってどうにか顔を上げた。 吉影の姿は無かった。ルーミアが何故彼はすぐに追い討ちを仕掛けないのか訝しく思った時、 「え…?」 突然、彼女の周りが陰った。上を見上げる。 妖怪の死体がグングンと迫って来た。 「えっ…!?」 ドグシャアァァァァ―――――――― ルーミアの体が死体の下敷きになった。 吉影はさらに5体10体20体と、死体を投げ飛ばす。瞬く間に死体の山が築かれ、破れた腹から飛び出した内蔵やら頭部から転げ落ちた脳髄やら眼球が、周囲に土手を築き上げる。 「――――――――さて、これだけやればペシャンコのグジュグジュになっているだろう。」 手をパンパンとはたきながら、自らが築いた死体の山を眺めて呟く。 「だが、まだしぶとく生きているかもしれない。確実なる安心のため死体を確認して髪の毛一本残さず爆破するとしよう。」 吉影は油断なく死体の山に歩み寄って行った。 吉影から見て死体の山の反対側に当たる場所。狼の妖怪の死体が、二度と光を見ることのない目を見開いていた。何も動くものはない。 狼の頭が、ピクリと動いた。 ゆっくりと顎を開いていく。 やがて顎がはずれるほど大きく開き、中から血と臓物にまみれた物体が顔を覗かせた。 それは周囲をキョロキョロと確認し、吉影の姿がないことを確かめると、おそるおそる死体から這い出てきた。 うっ、と呻いて傷を押さえる。腹にぽっかりと開いた穴が痛む。 「――――――――これだけやったんだから、私が生きているなんて夢にも思っていないだろうなあ…… そのままいなくなってくれれば、助かるんだけど………」 ルーミアは願いながら、這いずってこの場から離れようとした。しかしそのとき、最悪の知らせが敵によってもたらされた。 「さて、これだけやればペシャンコのグジュグジュになっているだろう。 だが、まだしぶとく生きているかもしれない。確実なる安心のため死体を確認して髪の毛一本残さず爆破するとしよう。」 ――――ゾォッ―――――――――――― ルーミアは死体の山の陰で戦慄した。 あの『外来人』の発する気配が、 其処らの妖怪なんかより遥かに冷たく、自分の造りだす闇よりどす黒い殺気が、彼女を襲った。 「(なに…なんなの…この人間?霊夢や魔理沙とは比べ物にならない…!二人より遥かに弱いはずなのに!!)」 彼女は彼に見つからないように身を縮め、必死に震えを抑えつけて、這いずって逃げようとした。しかし…… 「何処に行こうというのかね?」 「ひぃっ!?」 背後から掛けられた声に縮みあがる。駄目だと分かっているのに、逆らえず振り返ってしまった。 そこには吉良吉影――――――――殺人鬼が、全身血みどろの姿で、彼女を見下ろしている姿があった。 「あ…ああ…、 あああっ!!」 ルーミアが声にならない悲鳴を上げる。目が涙で滲む。震えが止まらない。身体がいうことを聞かない。 「こ、来ないで!!お願い!た、助け―――――――――」 涙声で赦しを請おうとした時、吉影は世間話でもするように彼女に語りかけた。 「『傷薬』…持ってるかね?『消毒液』でもいいが?」 「…え………?」 「ン?持っているかと聞いているんだよ。『傷薬』か『消毒液』持ってるかね?」 唐突すぎる質問に戸惑いながらも答える。 「う、ううん、持ってない……なんのこ…と?」 「持ってない…か…… じゃあ私のを使いたまえ。」 吉影が、慧音に渡された小物入れの中から傷薬の瓶を取り出し、ルーミアに差し出す。訝しげにそれを見るルーミア。 彼女が瓶を凝視している前で、吉影は瓶の蓋を開け、指先で中の塗り薬を掬い―――――――― ビッ ルーミアの両目目掛けて、塗り薬を飛ばした。 「きゃあああああああああああ!?」 激痛のあまり泣き声を上げ、うずくまるルーミア。 「強盗とかの人質は目隠しをされると、とてつもない恐怖感に襲われ、パニックに陥るそうだ…宵闇の妖怪には効かないかとも思ったが、効果てきめんだな。」 「ううっ、目が、目がぁ…、痛い…見えない…!」 激しく目を擦るが、逆に目を傷つけるだけだ。 「私は君に近づかない。もう前のように油断してノコノコ近づいて足を潰されるのはゴメンだ…… だから…」 小石を拾い上げ、【キラークイーン】にいつでもルーミアを狙撃できるように構えさせる。 「君から少し離れた位置から、狙撃することにする。だが…いくらか精密動作性が上がったとはいえ、この距離でこんな不細工な小石を命中させる自信はないな…… もう少し近寄ってから、じっくりと狙い撃ちするとしよう…」 苦しげにうずくまるルーミアに、少しずつ歩み寄る吉影。 ルーミアは這いずって逃げようともせず、ただ泣いていた。 吉影は隙を見せずに、慎重に足を進める。 一歩…二歩…、小石を確実にぶち込める射程距離まであと一歩まで迫った時… 「―――――――― …………フフッ…」 吉影がハッと足を止める。【キラークイーン】の目でルーミアを凝視し、観察。 いつでも小石を撃ち出せるよう、【キラークイーン】に照準を定めさせる。 「…?」 「フフッ、アハハ…クスクス………」 ルーミアが上半身をゆっくりと起こす。吉影の方に向き直り、見えない目を強引にこじ開ける。涙が頬を伝う。 「ハハッ、プフッ、アハハハハハハハハハッ!!」 「……………………」 吉影の身体に緊張が走る。拳を震わせ、目の前で可愛らしい声で不気味に笑う宵闇の妖怪を睨み付けた。 「キャハハッハハハアハハアハハハハハハハハハ…!!」 西部劇の早撃ちのように瞬時に狙いをルーミアの眉間に定め、発射しようとした瞬間!! 「ブラックアウトォォォッッ!!」 ガバッと飛び起き、渾身の声で叫ぶ! 闇が爆風のように拡散し、吉影を呑み込もうと迫る!! 「遅いッ!!」 【キラークイーン】の親指が小石を弾き出す、その瞬間、 ビュオォォォォンッ! 「なにィッ!?」 背後から襲い掛かってきた鳥妖怪を、左拳で殴り飛ばした。 「クソッ!まだ残っていたのかッ!?」 その一瞬の動作のために、【キラークイーン】の手元が、僅かにずれる。 「ッ、しまった!!」 もう遅い。すでに放たれた小石は、闇に呑まれてしまった。一瞬後、吉影も闇に呑み込まれる。 ―――――――――小石がルーミアを貫く音が聴こえてくることは、なかった。
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J-386 吉良吉廣(よしひろ) J-386 ST キャラ ダイヤモンドは砕けない 悪 P0 S1 T(1) ☆ ●おまえは今とても『絶望』しているのだね…………… このカードが自分リネージに表向きである間、味方の『吉良』はバトルで敗北しても捨て札にならず、手札に戻る。 悪○ 吉廣 幽霊 出典: リネージにあるだけで効果を発揮するカード。 効果も強力で、このカードがある限り何度でも吉良が登場することになる。 本来キャラカードの効果は「バトルフィールド/ステージに存在する(=キャラクターである)」時にのみ効果を発揮するが、このカードはテキストによってその原則を例外的に適用しないようである。同種の例外に、手札で効果を発揮するJ-466 迫り来るDIOがある。 第8弾現在の『吉良』 J-253 吉良吉影 J-346 仗助VS川尻浩作 J-387 吉良吉影 J-388 川尻浩作 J-487 川尻浩作&早人 J-488 アルバムの吉良 J-489 吉良吉影 J-583 川尻浩作 J-764 吉良吉影
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~注意~ 前編同様、ジョジョTUEEEEEEEEEE!!な表現が過分に含まれています。吉良吉影に東方キャラがフルボッコにされるのを見たくない方は、絶対に見ないでください。 ~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第四話 復讐と露見 後編 目を潰され、聴覚に頼らざるをえなくなったルーミアは、吉影の位置を知ろうと必死に耳をすませた。 そして、彼のゆっくりとした足音とは別の音に気付いた。 「(――――――――これは………?)」 上空で、空気が切り裂かれる音。 風の流れを乱し、大気に巨大な穴を開けて、物凄い速さで落下してくる物体の動きが、振動となって伝わってくる。 「(これは!もしかして…!)」 「…フフッ………」 ルーミアの心に、希望が芽吹く。 「(やった、やったわ!勝ち目は…ある!!)」 「フフッ、アハハ……クスクス………」 ルーミアは渾身の力を振り絞り、上半身を起こした。痛み、涙が滲む目を強引に見開き、音を頼りに吉影を睨めつける。 「ハハッ、プフッ、アハハハハハハハハハッ!!」 「(ウフフ、今まで散々怖がらせてくれたわね…… まったくたいした人間よ…あなたは… …でも…!!)」 「キャハハッハハハアハハアハハハハハハハハハ………!! (甘かったわね、人間!!あなたはここでお終いよ!!)」 「ブラックアウトォォォッッ!!」 ガバッと飛び起き、渾身の声で叫ぶ! 闇を爆風のように拡散させ、吉影を呑み込もうと肉迫させる!! 「遅いわァッ!!」 吉影の咆哮が闇の向こう側から聞こえる。 だが、ルーミアは動こうとしなかった。 彼女は、ただ待っていたのだ。彼が狙いを外す、その時を。 「(さあッ!そいつを串刺しにしろ!!)」 鳥妖怪が吉影の背目掛けて突っ込む音、 そいつが返り討ちにされる音、 そして――――――――小石が、弾幕の何倍もの速さで発射される音。 「(お願い…!どうか…!どうか外れて!!)」 彼女の願いは、通じた。 小石が彼女の右の頬を掠め、髪の間を通り抜け、後方の闇の中へと過ぎ去っていった。 「(やった…!勝った!! 私の勝ちよ!!)」 心の底から歓喜の声をあげ、腹の底から笑う! 恐怖からの解放に復讐への喜びが合わさって無上の歓喜となる! 「キャハハハハハッ!!惜しかったね、あなたが油断してバカみたいに一人でくっちゃべってたからこうなったのよ!! あなたの敗因はただひとつッ!!その身の丈不釣り合いな過大評価よッ!! さあ、覚悟なさい!!明けない闇の中でガタガタ震えて命乞いする心の準備はオーケイ!? あなたには生まれてきたことを後悔しながら死んでもらうわッ!! さあ、歯を食い縛りなさいッ!!妖怪をなめたらどうなるか、その魂の奥底まで刻み込んであげるッ!! さあ、喰らえ―――――――――」 ドグォォォォッ!! 「――――――――………え?」 フッと全身から力が抜け、バタリと仰向けに倒れる。 何もしていないのに、闇が勝手に晴れていき森の様子が、徐々にはっきりと見えてくる。 やがて完全に闇は取り払われ、彼女の顏に柔らかな日の光が差した。 「…?」 気だるげに拒否する身体に鞭をあて、顎をひく。合わない焦点をなんとか合わせると、 ―――――――― 「…え?」 彼女の腹には、さらに大きな穴が口を開いていた。 ぐちゃぐちゃになった内臓が顏を覗かせ、血はもはや勢いを無くしてただ静かに流れ出るだけだった。 「『【キラークイーン】第一の爆弾』…君の腹を貫いたとき、既に内臓の一部を爆弾に変えておいたのだよ……」 吉良吉影が静かに、冷然と呟く。 【キラークイーン】が鳥妖怪の死体を掴み上げ、嘴を引き抜く。嘴は音もなく爆破され、死体も塵になり消滅した。 「私の【キラークイーン】の指先は、どんなものも爆弾に変え、髪の毛一本残さない・・・ じきに君もこうなる。」 「ひぃっ…!?」 唯一動かせる腕で身体を起こそうとするが、力が抜け、片肘が折れる。そのままガクリと横転して、うつ伏せになった。 ダメージが大きすぎて、もはや宙に浮くことすらかなわない。 「あ…あ…ああっ…!」 歩み寄る吉影。 「やめてッ…!いやッ…!助けて、死にたく…ない…!!」 這いずり、逃れようとするルーミア。 「助けて…、お願い…!もう…人間…食べない…から…!」 吉影は無言で次の小石を構える。 「本当…よ…、もう…絶対…人間食べたり…しないか…ら…!!何でも素直…に…いうこと聞…聞くから………、ッ!!」 ゴフッと咳き込むと、血が吹き出した。 血と涙と恐怖で喉が詰まる。 声が出ない。息も絶え絶えだ。 涙が溢れる。止めどなく溢れる。頬を伝い、土を湿らせる。 そんな虫の息の彼女を、吉影はただ冷酷に見下ろす。 当前だ。【殺人鬼】が、妖怪を殺すのに躊躇するだろうか? これから憎悪を込めて殺す相手に、存分にいたぶって殺す相手に、一片の同情でも持ち合わせているだろうか? 【キラークイーン】がルーミアの左肩に狙いを定める。 「――――――――人に【頼み事】をする時は、その人に尻を向けながら遠ざかれ・・・と、学校で教えているのか?」 ビシィッ! 小石がルーミアの左肩を貫通した。 「あぐッ…!」 「正解は歌にもある通り、『お化けにゃ学校も 試験も何にも無い』だ・・・覚えておけ。」 ドスッ! 「があッ…」 「さて、話の続きだ。私の【能力】を知ってしまった君には、生きていてもらっては困る。 また、私が君を始末したことも当然、露見してしまっては困るんだよ。 よって君には、『わたしが手を下したと発覚しない手段で』死んでもらわなくてはならない。 私の言っていること、分かるな?」 バシッ! 「ぐあッ…」 「そこで、私はさっきの鳥妖怪と同じく、君を塵も残さず消滅させようと考えた。 だが、私はそこまで血も涙もないわけではない………」 バスッ! 「いッ…?」 「死ぬその瞬間までは、せめて君の姿のままで殺してやろう。 嬉しいだろうッ?ええッ?!喜びたまえ。 だが、その対価として…、 おっと、だめ押しにもう一発。」 グシュッ! 「あっ…!」 バタンッ―――――――― 両肩と両肘を貫通され、背中に小石爆弾を埋め込まれたルーミアは、ついに這いずることすらできず、地面に突っ伏した。血と涙に濡れた顔は、土にまみれる。 「―――――――――これから君をなぶり殺すからな……… 君のような、どう見ても十歳未満のクソチビに、辛酸を舐めさせられるなどという、『赤っ恥のコキッ恥』をかかされたんだ……じゃなければこの気分がおさまらん………」 吉影は、ゆっくりと、悠然と、ルーミアのもとへと足を進める。 【キラークイーン】の目で、もう身動きひとつできないことを確認しながら。 「――――――――初めて出会った時は【君】に、私のもとへ来るよう言ったが… こうやってよく見てみると、実に醜いな・・・【君】は。」 元【彼女】候補を見下ろし、侮辱するように言い放つ。 「爪は無造作に伸びきっている。手入れがなされていない。 しかも爪の間に死肉がこびり付いている。まったくもって醜悪だ。」 吉影が【キラークイーン】の脚を上げ、ルーミアの右手を踏み潰そうとした。 その時… 「―――――――――うっ…」 ルーミアが、呻いた。 吉影はビクッと足を下ろし、後ずさる。 右手のスイッチに親指を添え、いつでも爆破できるように身構える。 だが… 「………んッ…… …くッ…うッ…うッ…う…… …うえっ…えっ…うええっ…」 ルーミアは、ただ、咽び泣いていた。 逃れようのない死の運命に、絶望して。 彼女の創る闇より暗く、全てを呑み込み隠す、深く冷たい哀しみに包まれて。 「――――――――ッ・・・ ―――――・・・泣くな、馬鹿者。」 興を削がれた吉影は舌打ちと供に吐き捨てると、振り返り、 『本命』のもとへと向かう。 『彼女』は、ルーミアから十メートルほど離れたところに倒れていた。 「私は『彼女』を二人以上作らない。」 吉影は、もう血も流れ出ない妹紅の死体のもとへと足を運ぶ。 「何故なら、『彼女』が二人以上いると、どちらも平等に愛することに無駄な神経を使わなければならないからだ。 だから私はいつも片手だけ連れて帰るし、『臭ってくる』までは他の女性に手出しはしない。」 妹紅の死体の傍に立ち、見下ろして囁く。 「さあ、『君』を迎え入れるために、元『彼女』とは手を切った。喜んで私のもとに来てくれるな?」 しゃがみ、まだ温かい右手を優しく持ち上げ、唇を寄せて語りかける。 「『君』の元持ち主は、私の秘密を知ってしまった。悲しいだろうが、これも我々の幸せのためだ… 大丈夫、ちゃんと火葬してあげるさ…、いや、『爆葬』かな…?」 ふっとため息をつき、【キラークイーン】の腕を振り上げる。 「さあッ!今ッ!私のもとにッ!!」 【キラークイーン】の手刀がまさに振り下ろされる瞬間ッ!! 「ッ!? ぐおあッ!!」 吉影が妹紅の手から手を放す。 「あ、熱いッ!!なんだ!?どういうことだ!?脈も無かったというのに!!」 ふと顏を上げると、妹紅の身体から煙が上がっていた。 「ま、まさかこれがッ…!?」 もしこれが妹紅の『遺言』の前兆であるならば、一刻も早くこの場から離れねばならない。 だが、すでに妹紅の死体は焔を上げて燃え始めていた。 「(まずいッ!!彼女の遺言がこれを指していたなら、今すぐ離れないと吹き飛ばされるッ!!)」 「【キラークイーン】!!」 吉影は後ろに高跳びの背面飛びのように飛び、【キラークイーン】の腹部のスペースに飛び込んだ。 【キラークイーン】がシャッターを閉め、大きくバックジャンプしたその時!! ドグォォォォォォォォォォォォォォォ!!!! 妹紅の死体が爆発し、爆炎が襲い掛かってきた!! それは【キラークイーン】の爆発とは比較しようもないほどの威力で迫り来る! 「(まずい!マズ過ぎるッ!!『こんなもの』を浴びてしまえば、跡形もなく燃え尽きてしまう!!)」 伊達に爆弾使ってない彼は、それが直撃したら火傷じゃ済まないことも、このままでは爆炎に呑み込まれてしまうことも分かっていた。 「(あれだッ!あれをやるしかない!!)」 「【キラークイーン】! 爆弾を解除しろォッ!!」 先程ルーミアの背中に撃ち込んだ爆弾を解除し、持っていた小石を爆弾に変化させる。 「うおおおおおおおおおお~ッ!!」 小石を爆発させ、その爆風で後ろに吹き飛ばされた。 皮膚が裂け、血が噴き出す。だが、そのおかげで爆炎から逃れることに成功した。 「ぐあぁッ!?」 樹木の幹に打ち付けられたが、【キラークイーン】がクッションになってくれたので、ダメージは少なくて済んだ。 「―――――――――な…なんだ…これ…は…!?」 ズルズルと木の根元に座り込んだ吉影の目の前では、人外魔境が展開されていた。 森は半径数十メートルが消し飛び、爆炎が渦を巻いていた。 その地獄の業火の竜巻は中央に圧縮されて、やがて消滅する。 煙がもうもうと立ち込める。何も見えない。 「ゲホッゲホッ…」 咳き込みながらも【キラークイーン】の目で警戒していると、徐々に煙は晴れていき… 「――――――――じょ・・・冗談だろう…?」 掠り傷ひとつなく、平然と立っている妹紅の姿があった。 「う~ん、気絶してから絶命するまで時間かかってしまったようだな…」 茫然としている吉影の視線の先で、妹紅は十時間バッチリ眠った後にスッキリお目覚めしたかのようにあくびをして、辺りをキョロキョロと見回し、 「うわっ…コイツら、もしかしてみんな川尻がやったのか…?」 妖怪の死体の山を発見し、今の吉影と同じく茫然とリアクションした。 「(ま、マズイ…どうすればいい・・・?)」 吉影が必死にこのハードな状況を切り抜ける方法を模索し始めた二秒後、 「おお、川尻!無事だったか!!」 あっさりと妹紅に見付かった。 「ッ―――――――! あ、ああ・・・ 妹紅こそ、何故…」 「―――――――――あんた、さっきも訊いたけど、そいつはなんだい?」 しかもあまりの焦りから、血飛沫を浴びた【キラークイーン】を引っ込めることを忘れていた。 ハッと気付いたが、時すでに時間切れ、妹紅は吉影の目の前まで歩み寄り、ジロジロと【キラークイーン】を観察した。 「慧音からは、お前が何か能力を持ってるなんて聞いてないが…彼女にも黙っていたのか?」 妹紅が疑惑の目を彼に向ける。 当前だ、無力だと言うから護ってやっていた者が、実際には自衛に十二分な程度の滅茶苦茶な強さを隠し持っていたのだから。 「・・・いや、違う、これは…」 「じゃあそいつはなんだ?この肥やしの山はなんだ?どうして隠していたんだ?」 もはや言い訳はできない。絶体絶命の大ピンチ。 そこで問題だ!この絶望的な状況をどうやって切り抜けるか? 三択―ひとつだけ選びなさい 答え①天才の吉影は突如打開策がひらめく 答え②困ったときはとりあえずSATSU★GAI 答え③大人しく白状しかない。現実は非情である。 「(①は期待できないな、②は逆に殺されかねない…そもそも『死ぬ』のかコイツは・・・ やはり③…か… だが、ただでは白状しない…!)」 吉影はふっ、と悲しげに笑い、宙を見上げると、独り言のように呟いた。 「――――――――君には……分からないだろうな。 自分の存在が【非常識】や【迷信】である者の気持ちは………」 妹紅がハッ、と息を飲むのを視界の隅に確認し、吉影は続ける。 「わたしは自分のこの【キラークイーン】を見る時、いつも思い出す……… 子供の頃、小学校――――【こちら】で言う寺子屋のことだが………そこでわたしの担任教師と母が話しているのを、【コイツ】で盗み聞きした。 『川尻さん、お宅の浩作くんは友達を全く作ろうとしません。そう、嫌われているというより全く人とうちとけないのです。担任教師としてとても心配です。』 母はこう答えた。 『それが… 恥ずかしいことですが…親である…私にも…なにが原因なのか…』 ――――――――子供の時から思っていた。町に住んでいるとそれはたくさんの人と出会う。しかし、普通の人たちは一生で真に気持ちがかよい合う人がいったい何人いるのだろうか…? 小学校のクラスの○○くんのアドレス帳は友人の名前と電話番号―――――連絡先、と言い換えれば伝わるかな―――でいっぱいだ。 50人ぐらいはいるのだろうか?100人ぐらいだろうか? 母には父がいる。父には母がいる。 『自分は違う。』 TVに出ている人とかロックスターはきっと何万人といるんだろうな。 『自分は違う。』 ――――――――『自分にはきっと一生誰ひとりとして現れないだろう。』 『なぜなら、この【キラークイーン】が見える友達は誰もいないのだから… 見えない人間と真に気持ちがかよう筈がない。』 ……だから、実を言うと、少し嬉しかった…あのルーミアという少女が、わたしのように【能力】を使った時は……… ………でも、彼女もわたしを認めてはくれなかった。わたしを人間だと、『外来人』だと言って。 だから、わたしはここでも秘密にしておこうと思ったんだ。誰もわたしを、このわたしのことを、本当の意味で理解してくれることは………」 「違う!!」 吉影は妹紅の張り上げた大声に驚き、彼女に目を向けた。 「違う、違うんだ!!あなたを理解してくれる人はきっといる! ――――――――いや、わ、私は分かる、分かるんだ、あなたの気持ちが………」 「分かる・・・?フフッ、気休めなら結構だ。 君はこの【非常識】の世界で暮らしているじゃないか。それなのに………」 「いや、私は……、私は、【外の世界】で生まれた。今から千年以上前に…」 「…なんだって…?千年…だと…?」 「そうだ、私は元々、普通の人間だった。それがある時、感情に身を任せてしまって… それからは、各地を転々として生きてきた。この外見でまったく成長しない私を、人々は不気味がって、長居はできなかった… そうしているうちに、この幻想の地にたどり着いた。驚いたよ、見たこともない化け物が、群れをなして襲ってくるもんだから… でも、この【幻想郷】にも、私のように不死身の者は居なかった…私は人も妖怪も見境なく襲っていった。憎かったんだ、私を置いて変化していくこの世が… 次第に生きる気力もなくして、ただ死んでいないだけの無為な暮らしをおくっていた。そんな時…」 死人のような生気のない目で淡々と話していた妹紅の目に、光が灯った。 「――――――――慧音に出会ったんだ。 彼女も私のように迫害を受けていた。 でも、彼女は諦めなかった。どれだけ避けられても、どれだけ罵声を浴びせられても、人間に認められようとしていた… そんな彼女に、私は言ったんだ、 “なんでそんなことをしてるんだ?認められるわけがないのに、なんで力も使わず、黙ってやられているんだ?”ってな。 そしたら彼女は笑顔でこう言うんだ、“なら試しに、君に認めてもらおうかな?” 私は鼻で笑ったが、それから毎日私の家に来てくれてな・・・手料理を作ってくれたり、服を繕ってくれたりした。 私は冷たくあしらったが・・・内心とても嬉しかったんだ・・・ 私を本気で理解しようとしてくれて… それからほどなく、私達は親友になった。 今では私達を蔑む人間はいない。慧音は念願の教師をやってるし、私は時たま竹林の医者への案内をやっている。私にとっては何でもないことなんだけど、みんなとても感謝してくれるんだ・・・ “ありがとう、これで病人は助かる”ってね。そんな言葉をもらえた時は・・・凄く、凄く・・・なんというか、私自身も救われた気分になるんだ・・・やりがいある仕事だよ。 だから今では、この肉体を憎んではいないよ。生きているのは素晴らしいことだと思えるようになった。全部慧音のお陰だ… あっ、アイツも加えるべきかな…?」 「アイツ・・・?」 「ああ、竹林の医者の屋敷にいるやつでね、私の宿敵だよ。そいつも不死身で、よく殺し合いしているんだ。 私と本気で殺り合えるのは、アイツだけだから…」 「…殺し合いを通して、生きている実感を得ようというのか… まったくもって【非常識】だな…」 「ハハッ、そうだろう?・・・だから、・・・川尻、あんたも怖れることはないんだ。 きっと慧音も・・・人里の人間も・・・理解してくれるだろうさ。」 「――――――――・・・フフッ・・・そうだ・・・確かにそうかもしれないな・・・ だが、頼む。まだ、誰にも言わないでくれ。 いつかこの世界を去る前に、人々と打ち解けてから、自分の口で話したい。慧音には神社から帰って、今日中に告げることにしよう。」 「・・・! そうか、分かってくれたんだな・・・!」 「ああ・・・それに今から思えば、君らも人間でありながら『能力』を持っている身だというのに、怖れる必要なんてなかったんだ。 まったく、自分自身が不甲斐ないな・・・」 「そんなことないよ。人がトラウマってものに抗うのは、頭で考えるよりはるかに難しいんだから。」 妹紅の目には、もう疑惑の色は見る影もなかった。 「・・・・・・ところで・・・、そんな血まみれの格好で神社に行く気か?」 吉影が自分の服に目を落とすと、それは血の池地獄にルパンダイブでも決めたかのような凄惨たる有様であった。 しかし彼は狼狽えたりしない。 「ああ、これのことなら問題無い。」 言うと、彼は出しっぱなしだった【キラークイーン】を引っ込めた。【キラークイーン】に付いていた血や臓物が支えを失い、ボタボタと地面に落ちる。 吉影は大して大きな素振りもせず、彼の最も信頼する相棒の名を呼んだ。 「【キラークイーン】!」 【キラークイーン】が彼の体表から膨張するようにして飛び出す。同時に、彼の服や顏に付いていた血肉が【キラークイーン】の身体に押し出されて弾かれ、一瞬で普段の綺麗な姿に戻った。 「おお、便利なモンだなぁ…」 妹紅が感心して呟く。 「――――――――ところで・・・、ルーミアのヤツはどうしたんだ?」 「ッ!?」 ハッと、吉影は彼女の倒れていた場所に視線を向けた。血溜まりは妹紅の爆炎で蒸発し、最早焼け焦げた地面と判別がつかないほどになっていたが、そこに彼女の死体はなかった。 跡形もなく蒸発してしまったのかと思ったが、どうやら違うらしい。そこから離れた場所に、小さな血溜まりができていた。さらにそこから点々と血痕が森の中へと続いている。 「――――――――さっきの爆発で吹き飛んで、逃げて行ったようだ。」 「ああ・・・そうみたいだな。 まあ、この程度の出血では死ぬことはないだろうね。」 ルーミアがどれほど手酷く吉影にいたぶられていたかを知らない妹紅が、呑気に言う。 「(・・・よし・・・ひとまず、わたしがあのクソッタレルーミアを半殺しにしたことはバレてはいない・・・ 息の根をとめることはできなかったが、あれだけ痛めつけ恐怖を植えつけてやったのだから、今後わたしに喧嘩を売るようなことはないだろう・・・ 妹紅もなんとか抑えられた・・・ あとは慧音だが・・・、三日間接してきたので確信できる・・・彼女は義理堅く、口も堅い・・・その点においてはまず信用して良いだろう・・・ 現状のまま【能力】を明かさずにいられれば、それに超したことはないが・・・ 今のように、再び『能力を使わざるをえない状況』に置かれ、その現場を目撃された時・・・よりいっそう面倒なことになる・・・ 持ち札を見せてしまうのは不安だが、問題を抱えたまま生活を送るよりは、事前に告げて後々被る損害を軽減しておくことを考えるのが吉かもしれない。 何もわたしの手の内、【キラークイーン】の全てを馬鹿正直に晒す必要も無いのだ・・・ 幸い、妹紅も未だ我が【爆弾】の威力には勘付いていない・・・ほんのチョッピリでいいのだ・・・少しばかり【キラークイーン】のパワーの片鱗を『表』として見せておき、真の【能力】はその『裏』に隠し持つ・・・! ローリスクローリターン・・・ッ!ククク・・・!!激しい『喜び』はいらない・・・そのかわり深い『絶望』もない・・・ わたしの『植物の心のような平穏な生活』の土台造りとしては、まったくもって意に沿った流れができあがった、というところか・・・!!)」 しんみりとした面持ちの裏、黒い知略を巡らせほくそ笑んでいる吉影の前で、妹紅は背を向け中腰になった。 「さあ、予定よりだいぶ遅れてしまった。早く乗ってくれ!」 「・・・ああ、そうだな、分かった。」 吉影が妹紅におぶさると、 「さあて、ぶっ飛ばして行くよ!!しっかり掴まりな!!」 「よし、さっきのようにはいかない。急降下だろうがヘアピンカーブだろうが、わたしを怯ませられると思うなよ」 「ハハッ、覚悟しなよ!」 森の木々の枝をぶち折って、日がやや西に傾き始めた空へと飛び出して行った。 二人は気付かなかった。二人を見つめる二つの眼に。その智謀に富んだ狡猾そうな双眸に。 その瞳の持ち主は、ニヤニヤと期待に満ちた薄笑いを浮かべ、 「―――――――――フフフ、特ダネの匂いがプンプンするわね…! 記者として、胸が高鳴らずにはいられないわ・・・・・・!!」 小さくなっていく二人の後ろ姿に、シャッターを切った。 ――――――――――――――――――――――――― ――――――――「死体のない亡霊…!?」 「ええ、そうね。【外】の幽霊や亡霊には詳しくないけれど・・・、彼の霊体からは、死体とのリンクの反応は出ていないわ。」 「…亡霊ということは、周囲の生き物に害を与える可能性は…」 「その心配は無いわね。彼の精神は比較的安定しているし、【幻想郷】の環境と適応して、殆ど『生身』と変わらない状態をとっているわ。 “霊体が『パワーあるヴィジョン』として実体化している”と捉えてもらって構わないわね。・・・彼の魂が元々『そういった特性』を持っていたりするからなのかは不明だけど・・・」 「・・・?」 「・・・兎に角、魂に対し有害な性質を持つことはないでしょう。 ただ…」 「ただ…?」 「亡霊に死体が無いなんてケースは専門外だから、慎重に検証していかないと何とも言えないのだけど、 もし、彼が―――――――――――」 ――――――――――――生、――――――先生―――――― 「――――――先生、どうしたの?もう答えを書き終わったよ?」 ハッと、慧音は我に返る。 「・・・あ、ああ、すまなかった・・・、3日前の歴史編纂の疲れが残っているようだ・・・」 慧音は誤魔化したが、その時生徒の一人―――貸本屋の娘、本居小鈴―――が、ニヤリと笑ってからかった。 「・・・先生・・・、も~し~か~し~て~・・・、あの『外来人』のこと、考えてたりしました~?」 「うっ!!」 ビクッと体を震わせた慧音の様子を見て、やはり図星かと生徒達はニヤニヤしながら追い打ちをかける。 「ねえ、あの『外来人』とはどこまでいったの?」 「あっ、もしかしてもう【お楽しみ】…」 「ああ、そのせいで寝不足なんだね!」 慧音は、俗に言う『カタブツ』に分類される人間である。このような話題に対する耐性は全く備えていない。 慧音は生徒達の囃し立てに顏を真っ赤にして、 「だぁぁぁ~!!静かにしろ!!今日の授業はここまで!!早く帰ってお母さんの手伝いをするんだ!!」 「「「わぁ~先生が怒った~!!」」」 生徒達はキャッキャッと笑いながらバタバタと教室を出ていった。 「・・・・・・ふぅ~、まったく…」 慧音は一人ため息をついた。 「―――――――――しかし、心配だな…」 慧音は窓から、日がかなり西に傾いた空を見上げた。 「―――――――――私のしたことは、本当に、正しかったのだろうか…」 慧音は再び、深い溜め息をついた―――――――――
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バヂバヂィッ! 【キラークイーン】の指が咲夜に触れようとする寸前、突如吉影を閃光が包み、電撃に撃たれたような衝撃が全身を駆け巡った。 「な………あッ…ッ!?」 身体を仰け反らせ、吉影は硬直する。 【キラークイーン】もその空間に縫い付けられたかのように、微動だにできない。 「くっ……… こ…っ、これ……ッ…は………ッ!!」 鉄の棺の中に閉じ込められたように、強烈な重圧に縛られ身動きできない吉影は、辛うじて瞳だけ動かし、【それ】をみた。 「まあ、酷いこと。 天人の地震騒ぎの時の比じゃないわね。 地盤や植林から修理していかないと。 いっそ、里の傍にでも移転したらどうかしら? 参拝者も増えるわよ。」 日傘を差し、金髪を夜風に靡かせて、優雅に佇む妙齢の美女。 彼女の後ろには黄金色の九本の尾を持つ女が、咲夜と【ストレイ・キャット】を抱え控えている。 「う……… うう…………う… 吉影………吉影ェェ…………」 その女性の後ろには、全身バラバラにされ、輪切りのハムのように成り果てた吉良吉廣が、半透明で妖しく紫に光る結界の中に無造作に放り込まれていた。 「(親父……ッ!!)」 ギリッと歯を軋ませ、凶悪に表情を歪める。 スッ――――――― 金髪の美女が指で空中を撫でると、空間が割け、中から【シアーハートアタック】が飛び出した。 「コッチヲミロォ~!」 美女に向かって突進しようとするが、空間の裂け目が【シアーハートアタック】を挟み、動きを封じる。 美女は人差し指と中指を立て、【シアーハートアタック】を斬るような仕草をした。 シッパアァァァ―――――――ン 空条承太郎の【スタープラチナ】の、『オラオラのラッシュ』でも砕けなかった【シアーハートアタック】が、バラバラに切り裂かれた。 ブシャァッ―― 【シアーハートアタック】のダメージがフィードバックし、左手甲がサイコロステーキのように切り刻まれ、抉れ飛んだ。 「ぐううゥ……ッ!?」 ぽっかりと穴があいた左手甲は、十字架に釘で打ち付けられた【遺体】のそれとぴったり重なっていた。 まるで、【あの御方】の救済劇をなぞるように、これから吉影にも降り掛かる【受難】を予言しているかのようだ。 紅い華の如く弾けた血飛沫が指先まで飛散し、滴となって手首に伝う。 【シアーハートアタック】の体内から【咲夜の懐中時計】が落ち、開いた空間にキャッチされた。 空間は咲夜の上に繋がり、【懐中時計】は彼女の胸の上に落ちた。 「バカ言わないでよ。 ここから神社を移動なんてできないことくらい、貴女が一番分かってるでしょ?」 美女の前に歩み出た少女を視認して、吉影は愕然と表情を強張らせる。 ―――――――紅いリボン、 紅白を基調とした衣装、 どうやってくっついているのか不明な袖、 右手に握った祈祷棒、 神技『八方鬼縛陣』で吉影を拘束し、養豚場の豚を流し見るような目で、博麗霊夢が彼を睨んだ。 ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― ~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第二十六話 メシアの影―C.h.a.o.s.m.y.t.h.― OP♪ Epica 『sancta terra』【ttp //www.youtube.com/watch?v=3xrakyBNzvs nofeather=True】 ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― ――――――――それはただ こう言われるものだった ――――――――【絶望】と―――――――― 無惨に倒れ伏すレミリア達も ガヤガヤと口々に騒ぎ立てる魔理沙や命蓮寺の連中も 彼の最終の目的であったはずの博麗霊夢でさえも 何一つ目に入らない 神技『八方鬼縛陣』に雁字絡めに拘束され、微動だにできない吉影の視線の先 恐怖に揺らぐその瞳は、吸い込まれるように、ただひとつの存在を映していた 日傘をさし、優雅に微笑を湛え、彼を見据える、妙齢の美女―――――――【八雲 紫】 彼女の気配を間近で受け、吉影は、即座に理解した。 「(―――――――ああ 駄目だ 殺される―――――――)」 全身を氷柱で貫かれたような 身体中を針金で縫い付けられたかのような 背骨に鉄芯を通されたかのような 震えさえ起こらない、圧倒的な重圧 彼の宇宙の一切合切が、その絶対応報に頭をあげたかのようだった 自身の未来を知った吉影の風貌は、一瞬にして百余年が過ぎたかのごとく変わり果てた。 「(――――――――なんだ………… 【あれ】は……… なぜ……このわたしが……… 『植物のような平穏な人生』を望む…このわたしが……… 【こんなもの】と相対しているんだ………)」 【これほどの脅威】が、この世に存在する事を知ったなら その時点で【平穏な人生】など望むべくもないことを確信する そんな絶対の【恐怖】 偉大な科学者パスカルの言った有名な言葉に、以下のようなものがある。 『人間はひとくきの葦にすぎない。 自然の中で最も弱いものである。 だが、それは考える葦である。 ……蒸気や一滴の水でも彼を殺すのに十分である。 だが、たとい宇宙が彼をおしつぶしても、人間は彼を殺すものよりも尊いだろう。 なぜなら、彼は自分が死ぬことと、宇宙の自分に対する優勢とを知っているからである。 宇宙は何も知らない。』 とんでもない稚拙な屁理屈だ。 彼が【この存在】を目の当たりにしたなら、あまりに浅い見識を交えた冒涜とも言える世迷い言への償いとして、或いはその場で首を括った事だろう。 【それ】は、『考える宇宙』―――――――― 人智など【それ】の前では歩き回りのたうつ陽炎にすぎない。 『悪の救世主』、 『恐怖の大王』、 『這い寄る混沌』、 『メシアの影』、 果ての無い【深淵】が、吉影を覗き込んでいた。 涙、汗、涎、鼻水、顔から出るものを全て流し、死人のように光の無い瞳を剥いてうちひしがれる吉影の姿は、幾星霜の時を経たかのように、一瞬で干からびた。 一切の水分が抜け落ちたかのように、げっそりと痩け落ち、膝をつく。 【キラークイーン】の右手に握られていた【12.7mmM2重機関銃】が、ガシャンと音をたて地面に落ちた。 「……宝具『陰陽鬼神玉』」 吉影の異常な衰弱ぶりなど気にも留めず、博麗霊夢はスペル宣言し、詠唱を始める。 彼女が掲げた両手の上で、巨大な陰陽玉が形成されていく。 掠めただけでも肉が溶け、骨が灰と化す、本気の殺傷弾。 しかし吉影は、平生の彼のように迫る危機に対策を講じようとはしない。 身動きできないからではない。 そもそも、目に入っていなかった。 大妖怪、八雲紫の覇気を目の当たりにし、戦意を完全に消失していた。 勝てる筈がない。 逃げられる筈がない。 一抹の希望さえ見出だせない絶望の暗闇の中、突如彼に手を差し伸べたのは―――――― 『………聴くのだ…… 吉良吉影……』 「(――――――っ………!?)」 二度彼を救った、【あの御方】の言葉だった。 指先ひとつ動かせない吉影の背後、光り輝くような神々しい気配が佇み、言葉を授ける。 『…吉良吉影……… 心するのだ…… 「【全て】を敢えて差し出した者が、最後には真の【全て】を得る ましてや、【自分の最も大切な者】を捧げたなら……」―――――― 覚えておきなさい』 男の声でそれだけを告げると、気配は雲散霧消した。 ただのそれだけだ。 何もしない。 ただ、『預言』するのみだ。 状況は何も変わっていない。 …………………だが………… ガギィッ! たったそれだけで、十分だった。 「(――――――ッ…! 馬鹿か…ッ!わたしは……ッ!?)」 ギリギリと歯を食い縛り、吉影は霊夢を睨んだ。 生気の失せていたその双眸には光が宿り、凶悪な視線を紅白の少女にぶつける。 「(心などッ…! 何度も折られて来ただろうが…ッ! その度にわたしは…! 繋ぎ合わせて、修繕して…ッ! そうやって、ここまで来たのだろうッ…!? 来てしまったのだろうッ!!)」 生への執着と、不可避の死との境界で、かつてなく目まぐるしく働く吉影の脳細胞。 「(諦めるな…! 諦めが人を殺す! 【運命】はッ! 【あの御方】はッ!! このわたしに味方してくれている! まだだッ! まだ【敗北】してなどいないッ!)」 盲人の目に突然光が宿ったように、吉影の思考は冴え渡る。 「(【八雲紫】……! ヤツが出てきた時点で、【計画】は失敗……そのつもりだった… だが…!ヤツの気配には【敵意】こそあれ、【戦意】【殺意】は無いッ! ヤツが前面に出てわたしを葬ろうとしないなら……ッ! 【可能性】は…あるッ!!)」 にわかに射した光芒を見据え、吉影の心に【闘志】と【覚悟】の炎が揺らめく。 「(このためだ…! このためだけに!わたしは何もかもひっくり返してかき集めて来たのだッ! 【奴ら】を打ち倒す勝率を限界まで引き上げるために! 【運】以外の全ての要素を塗り潰せるように! 【外】も【幻想郷】も引っ掻き回して、『勝てる手段』を引き摺り出して来たのだ! 今この時のためにッ!わたしは『あの時』咄嗟に残した!! 再び状況を回天させるための、『起死回生の仕掛け』を!)」 詠唱が終盤を迎え、霊夢が宝具『陰陽鬼神玉』を掲げる。 彼女の霊力を凝集した必殺の一撃が、吉良吉影に向けて撃ち出されようとしていた。 「(早く……!早くだ…ッ! 【あれ】が作動すれば、戦局は一気に逆転する! あの瞬間、その可能性に賭けたのだ!)」 霊夢が詠唱を終え、宝具『陰陽鬼神玉』を力一杯投擲した。 『陰陽鬼神玉』は陽炎を靡かせながら弧を描き、吉影の脳天に迫る。 襲い来る退魔の鉄槌を、拘束された吉影は祈る思いで凝視する。 「(『間に合え』――――――ッッ!!)」 ポンッ――― 宝具『陰陽鬼神玉』が吉影の頭を砕く寸前、張り詰めた空気を通って軽い破裂音が響いた。 咲夜に触れようと振り上げていた吉影の左手の甲、【シアーハートアタック】が切り刻まれたことによりポッカリ口をあけた穴。 そこから流れ出し伝い落ちた血が、固まっている。 そして、その先端は【腕時計】の竜頭に伸び―――――― 【第一の爆弾】に変えられていた【血】が固体化したことによって、爆発し竜頭を回す。 吉影の仕掛けた血の『時限爆弾』によって【マンダム】が発動し、時間が『六秒』巻き戻された。 ドオォォォォ―――――z――ンンン…… BGM♪ K2 SOUND 『Playback more』【ttp //m.youtube.com/watch?gl=JP hl=ja client=mv-google v=8nsBES-Kl1U fulldescription=1】 「――――――え……っ?」 霊夢の口から、思わず疑問符が溢れた。 跡形も無く消滅させる筈だった吉影は相変わらず憎悪の視線を向けて来ており、逆に『陰陽鬼神玉』が一瞬の内に雲散霧消してしまったからだ。 「…え? ええっ?」 霊夢は慌てて頭上を仰ぎ見た。 彼女の掲げる両手の上、形成段階の『陰陽鬼神玉』がそこにあった。 「なんだ!? 【陰陽玉】が霊夢のとこに戻ってるぜ!」 「しかも、小さくなってるような……!」 「時間が戻されたんです! それがヤツの能力! 【肩】に羽織っているマントのような【スタンド】を破壊しないと、何度でも復活されます!」 魔理沙、村紗、美鈴が口々に声を上げる。 『陰陽鬼神玉』が小さい理由、それは『六秒前』であるために、詠唱が完了していなかったのだ。 宝具『陰陽鬼神玉』はまだ『未完成』の詠唱途中であるが、彼女はすでに詠唱を『終了』してしまっている。 ピキィッ――― 霊力供給が途絶えたため『陰陽鬼神玉』にヒビが走り、バラバラと崩れて消滅した。 さらに大規模な術を不自然に中断したために霊夢自身の霊力バランスにも綻びが生じ、神技『八方鬼縛陣』が崩壊を始める。 バヂバヂィッ 吉影を捕らえていた光の柱に、稲光のようにヒビが走った。 「(動けるッ! 今だッ!!) うおおおおオオオオオオォォォ――――――ッ!!」 全身全霊を籠めて【キラークイーン】を駆動させ、『八方鬼縛陣』のヒビを抉じ開ける。 満身の力で地面を蹴り、一瞬の隙を突いて『八方鬼縛陣』の範囲から飛び出すと、空中で身体を捻り着地する。 刹那、両の眼で霊夢を睨み、懐から一丁の大型拳銃を抜いた。 ――――――【ワルサー・カンプピストル】、全長245mm、重量 1.45kg、口径 26.6mm、装弾数1発。 拳銃型の【グレネードランチャー】。 銃口側から差し込む大口径で威力の高い榴弾が使用可能で、成形炸薬弾タイプも存在し、軽装甲を打ち抜くほどの威力を持つ。小型の対装甲車両兵器として使われた武器である。 銃などという外の兵器に関する知識は持ち得ない霊夢だが、持ち前の勘で『ヤバい』と直感した。 「夢符『二重結界』!」 咄嗟に【結界】を張り、迎撃態勢をとる。 「死ねッ!!」 西部劇の早撃ちのように瞬時に【カンプピストル】の照準を霊夢に定め、引き金を引いた。 ドンッ! 野太い銃声と共に、一発の【成形炸薬弾】が射出された。 【成形炸薬弾】は高速で飛翔し、『二重結界』に着弾する。 弾内の炸薬が爆発し、金属内の音速を超える速さの爆発が発生、スリバチ状の薄い金属の内張りの凹型の中央部に爆発エネルギーが集中する。 爆轟が進行して金属の内張りに達し、爆轟波により内張りは動的超高圧に晒されユゴニオ弾性限界を超える圧力に達した。 固体の内張りの金属が可塑流動性を持ち、液体に近似した挙動を示す融着体と呼ばれる金属塊に変化し、 スリバチの上方――――――前方に向かって、金属噴流が超音速で飛び出した。 パキィンッ 超高速の金属噴流は、『二重結界』を紙のごとく容易く貫通した。 さらに極悪の槍はその勢いを弱めることなく結界内部に突入、霊夢の胸を貫いた。 それら一連の現象は、所詮生身の人間である霊夢には到底感知できない一瞬の内に終了していた。 吸血鬼、鴉天狗、不死者、超人、人外の者共が集結したこの場で、誰一人認識できなかった刹那を、 弾丸を見切る【キラークイーン】を持つ、吉影ただ一人だけが、一部始終を目撃していた。 「【キラークイーン】ッ!!」 【結界】内に融着体が侵入し、霊夢の肉体を貫徹した瞬間、【キラークイーン】は右手のスイッチで『起爆』した。 ドグオオォォォォォォ――――――ッ!! 融着体が爆裂し、【結界】内の空間は爆炎に満たされた。 爆破エネルギーは狭い【結界】の中で反射し、内部を徹底的に破壊し尽くす。 ボォォンッ――――! 内部からの圧力に耐えきれず、霊夢御自慢の『二重結界』は粉微塵に弾け飛んだ。 「………えっ…?」 魔理沙、命蓮寺一同が認識できたのは、【カンプピストル】の銃声と発射炎、そしてそれらと同時に霊夢を呑み込んだ爆発だけだった。 「…………え……? れ……、霊…夢…………?」 魔理沙は茫然と、崩落していく『二重結界』の破片と、立ち上る爆煙を見る。 「…嘘……だろう……? あの……博麗の巫女が……」 ナズーリンが双眸を見開き、愕然と呟く。 満身創痍で倒れ伏すレミリア達も、ただただ言葉を失っていた。 吉影は【カンプピストル】を投げ捨て、即座に次の行動へ移る。 「(隙が生じたッ! 今が【チャンス】だッ! 誰でもいい! 【キラークイーン】を憑依させ、【バイツァ・ダスト】を発動させるッ!)」 立ち上がり、思考が中断している妖怪達の所へ駆け出そうとした、その時だった。 「ッ――――――!? なにィ…ッ!?!?」 爆煙を引き裂き飛来した『陰陽玉』を、吉影は身を翻し咄嗟に避けた。 「(馬鹿な……! 確かに見たッ! 【メタルジェット】は奴の身体を貫通していた! 例え一瞬で【結界】を再発動したとしても、すでに体内に侵入した物体の爆発は防ぎようもない…ッ! 一体…何をした……ッ!?)」 吉影は【12.7mmM2重機関銃】を拾い上げ、立ち込める煙を睨み付ける。 「こ…これは……!? きゃあっ!?」 レミリア、美鈴、妹紅、射命丸の真下の地面が裂け、【紫の空間】が口を開いた。 四人はその中に落下し、 「あぐゥっ!?」 「痛っ!?」 「ひゃうっ!?」 「むぎゅっ!?」 紫の背後に開いた【スキマ】から、妹紅、射命丸、美鈴、レミリアと吐き出され、折り重なるように地面に落ちた。 「い、痛たたたた……」 「ぐえぇっ! お、重い……!ど、どいて…っ!」 無造作に放り出した四人を一瞥すると、八雲紫は吉影と爆煙に目をやり、 ビッ―――――― 人指し指で空を切った。 次の瞬間、 「うおっ!?」 吉影と爆煙を閉じ込めるように、半径30メートルほどの【結界】が現れた。 【結界】は半透明の紫色で、ドーム状に吉影を囲い、他の一同から隔離している。 「おい紫、なんでヤツから私達を遠ざけるんだ? 全員で立ち向かえば、簡単に叩き潰せるだろうに……」 「ええ。 確かに、今の彼は弱っているわ。 これだけの手勢がいれば、瞬きする間に塵に変えることができるでしょう。 でも、万が一ということもあるの。 こちらの一人でも彼に捕まれば、彼は状況を指先ひとつで逆転できる。 そういう【能力】なのよ。 ……それに、この【結界】にはもうひとつ意味があるわ。 『本気のあの娘』の巻き添えを被らないためよ。」 「なるほど……そりゃあ是非とも『必要』だな。 で、私らは何すりゃ良いんだ? 『ああっ! あれは博麗霊夢の真骨頂その①、【無関心平等主義】!!』 とか言って、解説役に徹すればいいのか?」 霊夢の無事を確認し、安心と照れ隠しで、魔理沙は茶化しを入れて紫と会話する。 「自由にしてもらって構わないわ。 ――――――ほら、早速出番のようね。」 魔理沙から目を離し、紫は【結界】内の煙に目を向ける。 魔理沙、命蓮寺、レミリア達一同も、視線を集中させる。 BGM♪ Linkin Park 『Breaking The Habit』【ttp //m.youtube.com/watch?gl=JP hl=ja client=mv-google v=46_vy76HJIU】 「――――――ッ…!!」 爆煙が晴れ、視界が開けた時、その姿を目の当たりにして、吉影は戦慄した。 風も無いのにフワフワと紅いリボンと黒髪を靡かせ、宙に佇む霊夢。 その身体は、服は、埃ひとつ付いておらず、半透明に透けていた。 「おおっ! ついに出たかっ!! 博麗神社一子相伝の秘技、奥義中の奥義、『夢想天生』!! ちなみに、【ゴッドファーザー(名付け親)】は私だぜ!」 【結界】の外、魔理沙がノリノリで茶化す。 「(これが……! 博麗霊夢の【奥義】、『夢想天生』……!!)」 ギリッと歯軋りし、吉影は【12.7mmM2重機関銃】を構える。 現世の理から『浮く』ことで、他の一切を無視しすり抜ける、【無敵】の術。 レミリアの【霧化】した肉体を吹き千切り、妹紅の魂に触れられる【キラークイーン】でも、最早届かない高み。 前方には決して敵わない相手、四方は【結界】。 もはや万策尽きた。 逃れる術は皆無。 籠の中で火にくべられる鼠のように、逃れられない死を直視するしかない。 ――――――だが、一度折れ補強された吉影の心は、再び折れることはなかった。 「(【無敵】だと……? 違う…【あの御方】がわたしに授けた【能力】でさえ、【無敵】ではなかったのだ…… こんな辺境の、一介の巫女ごときに、【あの御方】を超える力など持ち得るはずがない…!)」 吉影の目がキッと細められ、無重力に佇む霊夢を睨む。 霊夢の両目は閉じられ、口は静かに何かを詠唱しているようだった。 「(何かあるはずだ…! 『誰も気付かなかった【弱点】』が! 考えうる【可能性】は! 隅から隅まで徹底的に残らず洗い出し試みる! この吉良吉影いつだってそうして来たのだ…… これまで乗り越えられなかった物事(トラブル)など……!!)」 【12.7mmM2重機関銃】を霊夢に向け、引き金に指を掛ける。 「一度たりともッ! ありはしないのだッ!!」 猛然と地面を蹴り、駆け出した。 霊夢は両目を閉じたまま、無数の大玉陰陽弾を発射する。 「うおオオオォォォォォォ――――――ッ!!」 襲い来る弾幕の嵐を、【M2重機関銃】で迎撃する。 【キラークイーン】右手で【M2重機関銃】を構え、左手は銃口に添えて次々と銃弾を【爆弾化】していく。 【M2重機関銃】は発射速度485-635発/分、銃口初速887.1m/s、発射された弾が次の発射までに進む距離は単純計算でおよそ80メートル。 【第一の爆弾】が陰陽弾に命中するまでには十分な距離だ。 ドグオォォォォォォッ! 超音速の弾丸が着弾する度、吉影の背丈ほどもある巨大陰陽玉が爆破されていく。 「おおオォォォォォォあああアアァァァァァ――――――ッッ!!」 矢鱈めったら撃ちまくり、吉影はひたすら前進する。 正面から向かって来る陰陽弾のみを撃墜し、左右や上方から襲い来るものは巧みな足さばきで回避していく。 「ぐッ……!?」 だが、霊夢の放つ陰陽弾の膨大な数たるや、尋常ではなかった。 「(正面からの物のみ選んで落としているというのに…! 駄目だ……!一秒十発程度では全く追い付かん…ッ!)」 ビッ―――――― 吉影が頭を下げた直後、巨大陰陽弾が彼の背中を僅かに掠めた。 「ぐうッ―――!?」 瞬間、彼の背中に鋭い熱さが走る。 「(掠っただけでこの痛み…! しかも…クソッ! 全弾わたしを狙って軌道を曲げてくる…!! 目を閉じているのに、なんという正確さだ…! いや……だからこそ、ああやって相手も見ずに悠長に構えていられるのか……?)」 ギリギリの攻防戦を繰り広げ、なおも前進を続ける吉影。 その脚が止まったのは、鳴り響いていた轟音が止んだのと同時だった。 「なッ――――ッ!?」 【12.7mmM2重機関銃】が、弾切れを起こしていた。 何度か死ぬ度に【BITE THE DUST -Channel to 0- 】で『六秒分』撃った弾丸を回収してはいたが、全てを回収してきたわけではない。 フルオートで撃ちまくってきたのだから、弾が尽きるのも無理はなかった。 一瞬歩みを止めた吉影に、左側面から陰陽弾が襲って来た。 「くそッ――――――」 【キラークイーン】の左手で弾こうとした、が、 グシャァッ! 『陰陽弾』に触れた瞬間、【キラークイーン】の左手はゼリーをスプーンで掬うかのように容易く抉られた。 「なにィッ!?」 愕然と叫ぶ吉影に、勢いを落とさず陰陽弾が迫る。 「【マンダム】ッ!時を戻せ――――ッ!!」 【重機関銃】を投げ捨て、【キラークイーン】が左手首の【腕時計】に手を伸ばす。 ドオォォォォ―――――z――ンンン…… 「むっ……?」 魔理沙が目を細め、口を開く。 「今あの男、瞬間移動したぜ。 さては、また『時間を戻した』な?」 「そのようね…… でも、それって将棋で言うところの『千日手』じゃないの? そんな悪足掻きしたところで、霊夢がミスするわけないし。」 「いいえ、そうでもないわよ。」 一輪が疑問を口にし、紫がそれに答える。 「御覧なさい、彼の動きと、霊夢の弾幕の様子を。」 吉影は再び力強く地面を蹴り、霊夢に向かって猛進する。 だが、その手に持つ【12.7mmM2重機関銃】の銃口は下に下げてあり、指も引き金に当てていない。 と、吉影の前方で、陰陽弾がひとりでに爆発した。 「なんだ!? なんで弾幕が勝手に……?」 驚く魔理沙に、紫はあの不吉な微笑を崩さず説明した。 「凄いわね。 彼、『記憶の層』に干渉できるようよ。 『戻した時間』の中で起こった出来事を、『二度目』に投影して【運命】を固定しているわ。 それで弾幕は自動的に再び爆破され、弾も温存、同じ軌跡を辿れば絶対安全に霊夢に近付ける、というわけ。」 紫の言葉を聴き、ピクンと白蓮が反応する。 「フフ、流石大魔法使いさま、気付いたようね。」 笑みを溢し、白蓮を流し見る。 白蓮はゴクンと唾を飲むと、緊張した面持ちで口を開いた。 「――――――【運】を操るなんて…… そんなことが可能だとしたら、あの人間は……どんな魔法使いをも超越した、最強の魔法使いになれるのでは……?」 そう、そのとおり。 魔法の実行は六つの要素から成り立っている。 術者の【技量】、魂の性質である【気質】、道具や材料といった【物質】、行う場所である【空間】、実行した時の【時間】、そして最後に【運】である。 このうち、最後の運が占めるウエイトは最も重く、運さえあれば他の要素はある程度カバーできるし、逆にこれが無ければどんな簡単な魔法でも失敗する。 すなわち、【運】を味方につければ大抵の魔法は使え、さらに相手の魔法を封じるという鬼のような術が可能になるのだ。 「御名答。 さっきも言ったとおり、彼は弱っているけれど、決して侮れる相手ではないの。」 「マジか…… そう言えばかなり前、霊夢が似たような話してたぜ。 『この世の物質、心理はすべて確率で出来ていて、それを決定するのが記憶が持つ運』 みたいな事言ってたな。」 そう言うと、魔理沙は慧音の【巻物】に目を落とし、【結界】の中の吉影と見比べている。 おおかた、その『運を操る【スタンド】』を探して、あわよくばぶん獲ってしまう魂胆なのだろう。 もっとも、魔理沙では【スタンド】に触れられないうえ、『【運命】を固定する【スタンド】』は吉影固有のものなので、もし触れられるとしても『借りる』のは不可能であるのだが。 と、紫の頭に嫌な予感がよぎった。 もし慧音の【巻物】に、あの忌々しい【左腕】の記述が載っていたとしたら。 『運を操る力』の出所を吉影の観察から調べている魔理沙が、偶然【それ】に関する知識を、吉影以上に『深い段階』まで身に付けてしまうかもしれない。 それだけは、あってはならなかった。 ヒョイ 「あっ?」 【スキマ】から伸びた手が慧音の【巻物】をひったくり、魔理沙は紫を振り返る。 「【出し物】の佳境くらい、静かに観なさい。 ……そう言えば、あなたあの外来人を叩きのめすって散々息巻いていたじゃない。 いいのかしら、このまま霊夢に任せきりで。」 魔理沙の注意を逸らすために、紫は別の話題を振る。 「お前が手を出すなっていったんだろ。 あと、私はなにも別に自分の憂さ晴らしのためにヤツをぶっ飛ばそうと思ったわけじゃないぜ。 ただ、【悪いヤツ】がのさばっているのをとっちめる人間がいないと、悪が蔓延ってしまうからだ。 それに、あいつに任せておいた方がもっとヒドイ目に遭わせられるだろうし。 私は情が深いからなぁ、相手がどんな【ゲス野郎】でも手加減してしまうだろうけど、あいつは容赦無いもんな。」 【出し物】という言葉が引っ掛かったが、魔理沙は大真面目な素振りで返事をする。 「あれだけ盗みをやってる人間が、どの口でそんなことをほざいているんだい?」 ナズーリンが突っ込みをいれ、 『だから借りてるだけだぜ!』 と、いつもの弁解をした。 「ほらアンタたち、中見て中!」 村紗が慌てたようすで、【結界】の中を指差す。 「ん?」 一同の眼が【結界】内部へと向く。 吉影は、霊夢の目前に迫っていた。 「うおおおおおオオォォォッ!!」 『六秒』経過し、【運命】による自動爆破が止まったため、吉影は【12.7mmM2重機関銃】の引き金に指を掛けた。 霊夢に銃の先を向け、再び鼓膜を叩く銃声が【結界】内に満ちる。 「(さあ、【振り出し】に戻った! 弾は一発も使ってない……まだまだやれるッ!)」 先程までと同じようにひたすら直進し、正面からの弾幕だけを撃ち落とす。 左右から飛んで来る陰陽弾が掠めるたび、熱が皮膚を焼くが、意に介さず吉影は前進を続ける。 「(今だッ!)」 『六秒』たった瞬間、弾切れした【M2重機関銃】を力の限り投げ、【キラークイーン】の脚で足下の『それ』を蹴り上げた。 【キラークイーン】は『それ』―――――― 【エニグマ】が解除された時地面に撒き散らされた大量の銃器の内の一つ、【バレットM82A1】、【M2重機関銃】と同じく【12.7×99mmNATO弾】を使用する【対物ライフル】―――――― を掴むと、スイッチを押した。 ドグオオォォォォォォォォォ――――ッッ!! 前方に投擲した【M2重機関銃】が爆発し、強力な爆風が陰陽弾を吹き飛ばす。 「【キラークイーン】ッ!!」 吉影の叫びと同時に、【キラークイーン】は【対物ライフル】を両手に構える。 「(どれほど【ダメージ】を受けなかろうと、奴も【感覚】はある筈……! そうでなければ、わたしの動きを正確に探知できるはずがない。 今、奴は目を閉じているが、耳は塞いでいない! 耳元に【爆音】を叩き込み、昏倒させるッ!!)」 最初に交戦した時、霊夢に対して有効であると判明した【音攻撃】。 経験と実績を頼りに、その一点のみに賭け、吉影は反撃の瞬間を待ち受ける。 爆炎が消え、霊夢の姿があらわになった。 陰陽弾は爆圧に消し飛ばされ、二人を遮るものは無い。 吉影の読みどおり、耳は塞いでおらず、相変わらず目だけを閉じて何事か詠唱していた。 「(やれるッ!!)」 【キラークイーン】が【対物ライフル】の引き金を引いた。 野太い銃声を後ろに、【爆弾】に変えられた【12.7×99mmNATO弾】が霊夢の眉間に向かって飛翔する。 ――――――ガッ!! 「―――――― ………え……?」 吉影の口から、思わず溢れた疑問符。 何が起こったのか、理解できないでいた。 爆音も爆炎も起こらなかった。 霊夢は昏倒などしていない。 さっきと何も変わらず、目を閉じて、――――――握った右手を額の前にかざしていた。 その拳の中から、シュウゥゥ―――という音をたて、少量の煙が立ち上っている。 「………え…?」 吉影と【キラークイーン】、一人と一体の四つの目は、確かに見た。 彼女の小さな拳からはみ出すほどの、巨大な弾丸が、その手に握られているのを。 「なんだとォッ!?」 吉影は愕然と叫んだ。 【キラークイーン】ですら見切れない、超音速の弾丸を、このチート巫女は片手で、事も無げに『受け止めた』のだ。 ヒュンッ―――――― 霊夢は軽々と『キャッチ』した【12.7×99mmNATO弾】を握り直すと、吉影に投げ返した。 「ッ!? 解除しろッ【キラークイーン】ッ!!」 【爆弾】を解除し、弾丸を弾いた。 「(何…ッ!? 『なんだ』!? 『何を』したッ!? 滅茶苦茶過ぎる……! 【超音速弾】を、【素手】で、【片腕】で、【砕かず】に、受け止めただとッ!? あり得ない……!!)」 戦慄し、背筋を震わせ、吉影は思わず後ずさる。 だが、 「(――――――『違うッ』!! そうじゃないッ!! そうじゃあないだろう!? 退いている場合ではない……ッ!! ここまで接近できたのだ…! 【悪い方向】ばかり考えるな…… 『奴に銃は通用しない』、そう理解したのは紛れもなく【プラス】だ。 【絶望】に呑まれるな……!)」 片足を引き、身構える。 「(『接近』するんだ……! さらに『肉薄』すれば、【あれ】が使える…! 奴の『夢想天生』の【正体】にも、朧気だが『近付いて』来た…… 『やれる』はずだ……!)」 両目の先、霊夢だけを視界の中心に見据え、吉影はグッと脚に力を籠める。 「(暴いてやるぞ…!! 貴様の【弱点】をッ!!)」 ザンッ!! 【キラークイーン】の脚で跳躍し、吉影は霊夢に肉薄していった。 あの外来人が、近付いて来る。 すぐ目の前にいて、土を蹴りあげて走って来ている。 目を閉じているが、手に取るように分かる。 神通力とも呼べる彼女の【勘】の前では、強い殺気はさながら暗闇の灯火のように目立つ【目印】のようなものだ。 敵にとって不利なもの以外の何物でもない。 そんな事にも気付かず、殺意を撒き散らして突撃して来る男に引導を渡そうと、霊夢は最大出力の弾幕を叩き込もうとした。 「――――――霊夢」 霊夢の耳元に、突如魔の気配が現れた。 声で判断するまでもない。 八雲紫だ。 「(………なによ紫。 今【仕事】を終わらせようって時に……)」 目を閉じたまま、霊夢は不機嫌そうな声で呟いた。 「まあまあお待ちなさいな。 この外来人、まだまだ闘志盛んよ。 貴女の役割は、この外来人に『完勝』すること。 心を完全に折って、初めて【仕事】が成就するの。 見たところ、この殿方は貴女と肉弾戦をご希望のようよ。 そう素っ気なくあしらわずに、お相手してあげなさい。」 小さく開いた【スキマ】から、艶っぽい声色で紫が耳打ちした。 「(――――――分かったわよ)」 紫の気配が消え、霊夢は眼前の敵に集中する。 【スペルカード】を懐にしまうと、霊夢は一直線に吉影に向かって行った。 「(――――――ッ!?)」 霊夢が肉迫して来たのを見て、吉影は息を呑んだ。 「(わざわざ接近して来ただと!? 接近戦にも自信はあるということか……?)」 吉影は怯まず、さらに強く地面を蹴った。 高く跳躍し、一瞬で間合いが2メートルまで詰まる。 「【キラークイーン】ッ!!」 【キラークイーン】の右拳が、霊夢の顔面を砕こうと繰り出された。 スッ―――――― 鉄をも砕く必殺の一撃は、半透明の霊夢を実体の無い虚像のごとくすり抜けただけだった。 「くッ、やはり――――――ッ!」 吉影は表情を歪め霊夢の蹴りをかわすと、腕を引き距離を離す。 だが霊夢は音もなく彼を追い、右の拳で殴りかかった。 「(速――――ッ!?)」 咄嗟に【キラークイーン】の腕を交差させ、防御しようとした。 ガアァンッ! 霊夢の一撃は容易くガードを弾き、吉影の身体を吹き飛ばした。 「なにィッ!?」 受け身をとって素早く起き上がり、吉影は迎撃体勢をとる。 「(なんだ……ッ!? 確かに博麗霊夢の力は常人の比じゃないとは言え、我が【キラークイーン】以上のパワーなど……!!)」 吉影の表情に、焦燥の色が濃くなる。 『【パワー】だけなら勝てる』、その自信がいとも簡単に崩れ去ったのだ。 最早霊夢に対して、何一つ有利な点は無い。 そう宣告されたも同然だった。 「(だが……ッ! まだ【手段】はある!! 今の攻撃で分かった! ヤツの【無敵さ】が崩れる【瞬間】が!)」 フッ―――――― 霊夢は【慣性】を無視したような急加速で吉影の目前に迫り、右拳をグッと後ろに引く。 「(攻撃の瞬間には【実体化】するはず!! その瞬間が貴様の最期だッ!!)」 引き絞った矢のように、霊夢の右拳が繰り出される。 「(もらった!)」 【キラークイーン】の左手の突きが、霊夢の小さな右手と激突した! バギイィッ! 骨が砕ける不快な音色が、【結界】内の空間に響き渡った。 「ウガアァァァァ―――ッ!!」 同時に反響する、【キラークイーン】の絶叫。 【キラークイーン】の左手の指は、バキバキに破砕されそれぞれバラバラの方向を向いていた。 「ぐおおォォォッ!?」 吉影の左手にダメージがフィードバックし、苦悶の声を漏らす。 「(『夢想天生』――――――!! 『すり抜ける』だけじゃない…! 『触れた』のに【爆弾】にできなかった!! そのうえ、真正面からの突きのパワー比べで【キラークイーン】の方が手がへし折れ、ヤツの手は無傷など――――――!!)」 ガヅン、という重い衝撃が、吉影の脳天を突き抜けた。 霊夢の踵が【キラークイーン】の頭頂部に叩き込まれたのだ。 「ガブッ―――ッ!?」 衝撃で頭を叩き下ろされ、【キラークイーン】の動きが止まる。 ドズッ!! 「ああっ!?」 【結界】の外、妖怪一同が息を呑む。 霊夢の腕が【キラークイーン】の腹を、肘まで貫いていた。 「なんだ!? 何が起こった!?」 【スタンド】が見えない魔理沙、妹紅は、周りの妖怪たちに問う。 「『勝負あり』よ。 霊夢がヤツのお腹を突き破ったわ。」 一輪がそう答えた時、他の妖怪たちがどよめいた。 「ええっ!?」 「なんで!? あの【背後霊】が傷つくと、本体も傷つくんでしょ!?」 彼女らの驚愕の視線の先、顔をあげ吉影は霊夢を睨む。 「(危なかった…… だが、狙われたのが【腹部】だったことが幸いだったな……)」 吉影の腹部からは、一滴の血も流れ出てはいなかった。 霊夢の腕は【キラークイーン】腹部の空間に入り込んだだけだった。 ジャカッ―――! 懐から拳銃を抜き顔を上げた瞬間、霊夢にその銃口を向け、引き金を引いた。 【キラークイーン】の巨体を透過し、弾丸は一瞬で霊夢の頭部に到達し、 ドグオオォォォッ!! 【Grip & Break down !!】の能力で、小爆発を起こした。 「レイムっ!?」 魔理沙たちは思わず声をあげ、固唾を飲んで見守る。 霊夢の頭は爆炎に呑み込まれ、彼女の表情は見えない。 「(効いたか…ッ!? もう一発撃ち込むッ!!)」 吉影が二発目を発射しようとした時、 グンッ! 突如、霊夢の身体が高速で駆動し、宙で身を翻した。 「な――――ッ!?」 バギィッ! 霊夢が鋭い回し蹴りを、【キラークイーン】の側頭部に叩き込んだ! 「ぐぶあァッ!?」 強烈な威力で蹴り抜かれ、吉影の意識が軽く飛ぶ。 「(な……なんだ…!? なぜ耳元に【爆音】を喰らって平気でいられるッ……!?)」 体勢を崩した【キラークイーン】に、霊夢は容赦なく連続攻撃を加える。 「ぐばァッ!? ぐゥッ! あぐあァ!?」 胸、肩、頬、次々と霊夢の拳が突き刺さり、骨が悲鳴をあげる。 「くッ――――――!!」 吉影本体はギリギリ体勢を立て直し、咄嗟に引き金を引いた。 亜音速の弾丸は【キラークイーン】の身体を透過し、その指先と交差した。 バチィッ! その瞬間、【第一の爆弾】を発動させ、弾丸の【目】が右手人差し指のスイッチに移動する。 【接触弾】となった弾丸は到底見切れない高速で霊夢に迫り、 ドグオオォォォッ!! 霊夢の握り拳の中で爆発し、塵となった。 「なにッ…!?」 吉影が驚愕に目を見開いた瞬間、 ドバギャッ! 【キラークイーン】の額に、飛び膝蹴りが突っ込んだ。 「ぐおォォォッ!?」 衝撃で仰け反り、脳が揺らされる。 「(まただ……!! また…弾丸を『受け止めた』!!) 【キラァァァクイィィィィン】ッ!!」 薄れかけた意識を繋ぎ止め、吉影は【キラークイーン】に戦線死守を言い渡す。 「ウガアァァ――――――ッ!!」 主の命を受け、【キラークイーン】は霊夢の前に立ちはだかる。 傷付いた身体を死に物狂いで使役しラッシュを繰り出すが、全て空しく空を切るのみだった。 霊夢は相も変わらず目を閉じ、打撃の嵐をさも涼風であるかのごとく受け流し、 バシッ! 【キラークイーン】の右拳を『受け止めた』。 ギシッ……!ミシッ………!! 手を引き抜こうとするが、ビクともしない。 鉄の型の中にでも詰め込まれているかのようだ。 指で触れている筈なのに、手のひらで触れられている筈なのに、【爆弾】にもできなかった。 ヒュッ―――――― と、霊夢が右足を後ろに引いた。 蹴りの襲来を察知し、【キラークイーン】は左腕を掲げ防御しようとする。 だが、 ガアァンッ! 霊夢の右脚は左腕を素通りし、【キラークイーン】の顔面を正確に蹴り抜いた。 「ぶげあァァァァァッ!?!?」 【キラークイーン】の巨躯が蹴鞠のごとく吹き飛ばされる。 「(そしてこの【攻撃力】………!! おかしい…博麗霊夢は規格外とはいえ生身の人間、それが【クレイジー・ダイヤモンド】と互角に渡り合える我が【キラークイーン】を、赤子のように軽くあしらうなど……!!)」 後方にぶっ飛ばされ、空を仰いだ。 目に入ったのは、【結界】を通して紫に輝く満月。 狂気と魔力を振り撒いて、夜空に浮き彼を見下ろしている。 「(『すり抜ける』だとか……… 『自分にダメージが無いから限界のパワーで殴れる』だとか……!! そんなんじゃあない………!! とにかく【無敵】だ…! そして『強い』……! 銃弾を素手で止め、【キラークイーン】の腕を押さえ付ける…… まるで『外部からの力』を一切ゼロにしてしまうように……!!)」 受け身をとり、背中から地面に落ちた。 「(コイツまさか……! 【反作用】が無いのか……!? それなら全て納得いく… 【反作用】を受けないなら、どんな重さの物体でも支えられるし、どんな速度の弾丸でも受け止められる…… どんな力で手を振りほどこうとしても、ビクともしない。 銃弾や【キラークイーン】のラッシュを『受け止めた』のは、破壊エネルギーを受けないからだ…… そしてしかも、なんということだ……! どれだけ重量のある物体であっても、たとえ1ミリでも動かせるなら、減速されることなく【最高速度】で吹き飛ばせる……! この人間離れしたパワーの正体はそれだ……)」 咄嗟に飛び起き、よろめきつつも身体を支え、なんとか立ち上がる。 だが、霊夢が彼に立ち直る隙など与えてくれるはずもなく、 「ぐぶアァッ!!」 起き上がりざまに顔面を横殴りされ、グラリと身体が傾く。 口から血が吐き出された。 「GYAAAAAAAA――――――ッ!!」 【キラークイーン】が咆哮し、霊夢に掴み掛かろうとするが、立て続けに全身を殴打され、数メートルも後方に飛ばされた。 「(今のこいつには物理攻撃、魔法攻撃、特殊攻撃、精神攻撃……何もかも通用しない……! 彼女がいる場所は私の『上』だ…何者にも影響されず漂って、ただ『浮いている』。 彼女はただの【無敵】じゃない……【最強】だ……ッ!!)」 身体中を苛む鈍痛に顔を歪ませ、吉影は拳銃を構える。 だが、 ドバキィッ! 霊夢に【キラークイーン】の右腕を強かに殴られ、ダメージがフィードバックし拳銃を離してしまった。 「ぐグッ……!?」 吉影が呻き動きを止めたその時、 ガシャン! 【キラークイーン】腹部のシャッターを掴んで強引に閉じ、 霊夢のラッシュが無慈悲に【キラークイーン】を打ちすえた。 「がはッ―――――!?」 腹に強烈な一撃を叩き込まれ、吉影の口から血混じりの胃液が滴る。 「(たとえ【BITE THE DUST -Channel to 0- 】を使えたとしても、こいつには手も脚も出ない…… 勝てる気がしない…!! 【無敵】は【最強】には敵わない… 【不敗】では【常勝】を撃ち破ることはできない!)」 フッ―――――― 霊夢が足を後方に振り上げ、 ドムンッ! 内臓まで響く蹴りを、土手っ腹に見舞った。 「がッ――――は――――――ッ!?」 両の目を見開き、胃液を吐き散らして、吉影の身体は激しく吹き飛ばされた。 「入った!」 「勝負ありか!?」 「――――――いえ……違うわ… なんか…おかしくない? 『飛びすぎ』って言うか……」 【結界】の外で口々に口走り、一同は吉影に視線を集中させる。 吉影は十数メートルも後方に飛んだが、未だ地に足を着けていなかった。 まるで『浮いている』かのように、【減速】はしているが【落下】はしない。 「――――――?」 目を閉じている霊夢も、【勘】で異常を察知した。 何かがおかしい。 蹴りをぶちこんだ瞬間、ほとんど【手応え】を感じなかった。 まるで【重み】が無いかのような―――――― ギリッ…… 空中で吉影が歯軋りし、眼光鋭く霊夢を睨む。 彼の動きは完全に止まっていた。 にもかかわらず、吉影の足は地面を離れ、虚空を踏み締めている。 いや、それはあたかも水中に身を沈め、全身を水に『支えられている』かのようだった。 「……ゲホッ…ゲホッ―――――― かはっ………ハァ…、 ……どうだ……? 『博麗の巫女』……? いつもと比べて、気分はどうかね……? 『本物の【無重力】の世界』は……?」 口角をつり上げ、吉影はニヤリと笑う。 未だ苦しげにひきつってはいるが、それを引っくり返すように笑いが顔に広がっていく。 「――――――……?」 霊夢の閉じられた両目の上、眉がピクリ、と僅かに動いた。 「ああっ――――っ!?」 霊夢を見つめる白蓮の瞳が見開かれる。 「霊夢の………身体の……色が……!」 『夢想天生』により半透明となっていた霊夢の身体が、みるみるその色を濃くしていく。 「こ……これは……まさか……っ!?」 魔理沙が愕然と息を呑む。 「『夢想天生』が…! 解けかかっているっ!?」 霊夢の身体の色が、完全に元に戻った。 フワフワと浮かぶのみだった黒髪とリボンは、風を受けてたなびいている。 『夢想天生』が解除された、いや、解除『させられた』のだ。 「――――――これは……… 浮き上がっているんじゃあないッ!! 漂っているんだ霊夢はッ!」 霊夢自身の『空を飛ぶ程度の能力』ではない、別の【力】によって、霊夢の四肢は中空に放逐されていた。 吉影は口についた胃液を拭い、煌々と黒く輝く瞳で霊夢を眺める。 「【浮力】………という力は…【質量の差】だ…… 空気より重いゆえ人は空を飛べず……水より軽いため、身体は浮き上がる。 だが……!! 【無重力空間】では【浮力】は働かない! 【空気の泡】は水中に留まり! 蝋燭の火は楕円にならず球状をなすッ!」 吉影の額から覗く、円盤上の物体。 【ジャンピン・ジャック・フラッシュ】の『DISC』、重力というエネルギーを無効にし、大気さえも退け、地上に【宇宙空間】を造り出す能力。 先程吉影が吐き散らした血ヘドが、霊夢の周囲一体を【無重力ゾーン】に変貌させたのだ。 「博麗霊夢、貴様は他のいかなるものよりも【上】に『浮いていた』からこそ【無敵】でいられた…… ならば、お前をわたしと同じ位置まで引き摺り下ろすか、お前と同じ高みまで昇ればよい話……!! 【普遍性】という前提無くして【特殊性】は存在し得ない…… 【無重力】が普遍の物となった今、お前はもう【特別】ではない! お前は最早【浮く】事は出来ないッ! 貴様は【吉良(きちりょう)の巫女】ではなく只の小娘に成り下がったのだッ!!」 【スタンド】とは『魂のエネルギー』、通常の物理現象とはわけが違う。 霊夢の周囲の空間ごと『浮かし』、【能力】にまで影響を及ぼすことも当然可能なのである。 そして、『空を飛ぶ程度の能力』という天性の力を否定された今、飛行することすらままならなかった。 自由に身動きがとれない霊夢をじろりと睨み回し、吉影は愉悦の笑いを溢す。 「――――――崖に激突して死ぬツバメがいるそうだ…… そのツバメは得てして他のツバメよりもとても上手にエサを捕獲したりするのだが…… 宙返りの角度の危険の限界を親ツバメから教わっていないため、つい無謀な角度で飛行してしまう。 だが、その親は教えないのではなくそのまた親から教わっていないので教えられないのだ。 彼ら一族は短命な者が多く、なぜ事故に遭いやすいのか気付いてさえもいない。 博麗霊夢、お前は短命だったな…!!」 動けない霊夢に右腕の【発射器】を向け、回転させる。 「【極楽蝶】は地に堕ちた! ここはすでに【緋色猫】の射程内ッ!! 逃しはしないッ!!」 ギャルギャルギャル―――――― 【発射器】が唸りを上げて回転し、内部の弾丸に力を与え続ける。 【遠心力】は仮想の力、【反作用】は存在しない。 物理学的には全く支離滅裂だが、名と言葉が力を持つ【幻想郷】でなら、霊夢の『高み』に近付ける要素となりうるだろう。 「死ねッ!! 【ジャンピン・ジャック・フラッシュ】ッ!!」 【キラークイーン】に爆弾化された弾丸が、遠心力によって発射された! 【接触弾】が、『夢想天生』を解除され、無防備な霊夢の眉間を狙い飛翔する。 【無重力エリア】に突入した弾丸は、霊夢と同じ【高み】まで『浮き』、 ガゴンッ!! ――――――吉影の脳天に、霊夢の踵がめり込んでいた。 ガギッ、という嫌な音がして、吉影の歯が砕ける。 「え………?」 「は…?」 呆気にとられた表情で、【結界】の外の者たちは間抜けな声をあげた。 一同の目が吉影と霊夢の間を行き来する。 「――――――何だ………!? いったい……こりゃあ……?」 魔理沙は目を白黒させ、霊夢の姿を見つめた。 彼女の身体は、再び半透明に戻っていた。 『夢想天生』が発動している。 「(――――――『零時間移動(ワープ)』…………!?)」 金属バットでぶん殴られたような衝撃を脳に受け、吉影の意識は一瞬飛んだ。 死に物狂いで【キラークイーン】を維持させ、身を護ろうとする、が、 スッ 『夢想天生』を再発動させた霊夢は【キラークイーン】をスルリと透過し、 ズッ―――――― 札をたんまり握った右手を、昏倒寸前の吉影の腹に突っ込んだ。 カッ―――!! 瞬間、吉影の身体が透けるほどの劇烈な閃光が迸り、 【霊撃】が彼の腹腔を爆心に炸裂した。 衝撃波は内臓を内から破裂させ、骨、肉、と同心円状に彼の体内を駆け抜けると、 ドウゥゥゥッ――――――ッ!! 皮膚を突き抜けて体外に放出され、地面、空気を吹き飛ばした。 「うおわあぁぁ~っ!?」 【結界】に阻まれてもなお衰えず、爆風と地響きが外の魔理沙たちを襲う。 その威力を見れば、霊夢の放った【霊撃】が如何に強力であったか一目瞭然だろう。 ドオオォォォォォォ―――――― ――――――ドシャッ 爆風が収まると、クレーターの中心で、吉影は声も無く膝を折り、崩れるように倒れ落ちた。 「――――――『博麗の巫女』は………世襲制じゃないわ……」 霊夢の目は、開かれていた。 『本気』だ。 半透明の黒い瞳で、冷然と吉影を見下ろす。 BGM♪ 天野月子『花冠』【ttp //m.youtube.com/watch?gl=JP hl=ja client=mv-google v=oka6WOk4wZ4 fulldescription=1】 「―――――― ぐ……ッ が……アァァァ…ッ!?」 倒れ込み放心していた吉影が、突如苦痛に呻きをあげ始めた。 熱い。 内臓が焼けるほどに熱い。 熱い熱い熱い焼ける熱い焦げる熱い熱い熱い熔ける熱い熱い燃える熱い融ける熱い熱い熱い爛れる熱い熱い熱い熱い崩れる熱い熱い熱い 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い 「うがああアァァァァァァァァァァ―――ッッ!!」 灼熱に融解し煮えたぎる鉄を流し込まれたように、生涯感じたことも無いような熱さが、内側から彼を焼き焦がした。 「あぐオァァァ……ッ! ひギィィィッ…!! うぐおオあぁァァあァ………――――――ッ!!」 蹲り、 のたうち、 転げ回り、 身を捩り、 海老反りに悶え、 手足をバタつかせ、 掻きむしり、 腹を抱えるように背を丸め、 気が狂いそうな苦悶の荒波の只中、 「ギャアぁぁァ…ッ!? うげおォォォがぁぁ……!!」 ゴロンと横転し、うつ伏せた。 彼の口が裂けんばかりに開かれ、カッと両目を剥き、喉に込み上げて来たものが、嗚咽と共に流れ出た。 「うげええェェぇェ!! ゲボぁァァァぉぉォォォォ……!!」 口から出産しようかというほど、顎を外れんばかりに開き、大量の汚物を吐き出した。 「うえぇッ! おげえええええええええっ!!」 ビシャビシャと音を立て、反吐が地面に落ちる。 「がばァッ!? ゲボォォ……!! おぐガあァァぁァ…!!」 蛇口を全開にしたように、おびただしい量の生暖かい物体が彼の口から溢れ、土の上に滴り落ちる。 「げぁッ……!! ゴホッ… ゲボ……… ――――――ハア……ッ……ハァ………ッ!」 一頻り捻り出すと、吉影はバタリと地に倒れた。 彼の目の前には、吉影が吐いた『もの』が溜まりを作っている。 「ゲホッ……! ううっ…… うううあぁ……… ――――――……!?」 彼の眼前に広がる吐瀉物は、赤黒くぶよぶよとした、大量の気味の悪い破片だった。 シューシューと音をたて、焼け爛れ落ちるように崩れて、白く半透明なドロドロに変わり果て、それらの物体は気化していく。 それらが何であるか気付く前に、 「――――――ッッ!? ぐおおオオォォォォォォああアァァァァぁぁぁぁぁぁ――――z――ッ!!!!」 鼓膜が破れそうなほどの絶叫をあげ、さらに激しくのたうち回って苦しむ。 ショック死しない方が不思議だと思えるくらい、あり得ない超激痛が、彼の腹部を貫いた。 「ふぐあアアアァァ…………ッ!! ぎギぎぎィィぃィ……!! ウギゃああぁぁ……………!!」 吉影の両目は裏返り、白目を剥いてもがき苦しむ。 仰向けに倒れ、痙攣する手を空に伸ばす。 その双眸は、地の底から届くことのない天を見上げ、自身を焦がす怨嗟の炎に照らされた咎人の目。 その腕は、救済を誰よりも切実に願いながらも、道連れを欲し、生者にすがる亡者の腕。 悲壮極まりない断末魔の姿も、穢れを知らない少女らの目には、ただ醜く穢れきった悪鬼のそれとしか映らない。 【結界】の外、安全圏から投げ掛けられるのは、憐れみと侮蔑の入り雑じった、汚物を見る視線。 狂い悶え、ガクビクと震えうつ伏せる吉影が、焦点の定まっていない瞳で霊夢を睨む。 「ゲあぁ………っ!? …ハッ…………よ……よく…も……ッ! ハァ………よくもォ……ォォォ…ォッ……!!」 恨み骨髄とばかりにまなじりをつり上げ、回転する左手の【発射器】を彼女に向ける。 ドバキャッ!! 瞬間、吉影の左手甲に、鉄槌のごとき踵が振り下ろされた。 「うぐゥ…ッ!?」 骨が砕け、衝撃で【遺体左腕部】が弾き出された。 服の袖を引き千切り、露になった吉影の肩。 そこにはなんと、彼を殺した憎き敵の紋、【星形のアザ】が浮き上がっていたのだった。 「はッ――――――!?」 地面に落ちた【遺体左腕部】に、吉影の目は釘付けになる。 慌て手を伸ばし拾い上げようとするが、 ガオンッ! 突如【遺体】の下から現れた【手】が、【左腕部】を掴んだ。 バギィッ! 「へぶアァァッ!?」 【キラークイーン】右肩に重い蹴りがめり込み、吉影は地に叩きつけられる。 【遺体左腕部】は吉影の身体と地面とに『挟まれ』、消えた。 「ハァ…ッ!? なッ……なんだとォ……ッ!?」 芯から焼けつく熱さが嘘のように消え失せ、骨まで凍てつくようなゾッとする冷たさが彼の腹に広がる。 焦燥に駆られ、千切と乱れて、必死に土を堀り【遺体】を探す。 「ハァ――――ッ――、ハァ――――ッ……!! ハッ………ハア……ッ! ゲホッ!… 馬鹿な………! こんな…事が…ッ!?」 暗黒の洞穴の中で、松明が谷に落ちて行った。 そんなとてつもない絶望感が、彼の胸を締め上げる。 「ハァ……、ッ!? ゲボぉォ…ッ!」 既に半分以上無くなってしまった胃が捻り上がり、中に残っていた破片を押し出した。 ビタッ……、ビタビチャッ…… ペースト状の赤黒くヌラヌラと光る物体が、ぬめりを帯びて彼の口から滴り落ちた。 「ゲホッゲホッ……! かはっ… ――――――クソッ…!! よくも……貴様らァァァ………ッ!!」 右手を【腕時計】に伸ばし、【マンダム】を発動させようとするが、 ブヂィッ!! 霊夢の手が【マンダム】を引き千切るようにして奪い取り、 グシャァッ!! 両手で上下に『挟み』、握り潰した。 ガオンッ! 霊夢の手の中から、【マンダム】は霞のように消え失せた。 「グゥゥッ……!?」 残った右手の【発射器】を突きつけ、最後の抵抗をしようとするが、 バギャァッ!! フルスイングの右足が、顎を強かに蹴りあげた。 「ぎゃギッ……ッ!!」 仰け反り、吉影の身体が宙に浮く。 衝撃で額から『DISC』が弾け飛び、放物線を描いて地面に落ちた。 「……吐くか喋るか叫ぶか戦うか、どれか一つにしなさいよ。」 霊夢は俊敏に飛翔すると、蹴り飛ばした吉影の襟首を掴み、 「でなけりゃ、口を閉じてなさい。」 全身の捻りを利用して、力一杯吉影を頭から地面に叩きつけた。 『DISC』が吉影と地面とに『挟まれ』、影も形も無く消えた。 「がっ――――――」 ガグッ、車に轢き潰された蛙のように、力無く吉影は倒れ込み、動かなくなった。 「――――――す……… …すごい……………」 【結界】の外で、一同は絶句し、力尽きた吉影と余裕綽々の霊夢に驚愕の目を向ける。 高位悪魔、時を超えるメイド、中華妖怪、蓬莱人、鴉天狗。 幻想郷屈指の強者たちが束になっても敵わなかった男を、人間の、年端もいかぬ少女が圧倒している。 壮烈な光景、圧巻の一言だった。 「――――――勝負あり、ね。」 特別な感情もなく、紫はそう呟くと、【スキマ】を開き霊夢に声をかける。 「ご苦労様。 もう大丈夫よ、あとは私が処理する。 『夢想天生』はそのままにしておきなさい、万一のこともあるわ。」 「………対して苦労してないんだけどね。 『お疲れさま』は貴女の方じゃないの? 【結界】解いてちょっとは休みなさいよ。」 「お気遣いどうも。」 【結界】が解除され、満月の光が降り注いだ。 シュウシュウと泡立ち気化する臓物を、風が吹き払っていった。 「な………なあ……? 死んだ……のか?あれ………?」 おそるおそる吉影を指差し、魔理沙が問う。 端から見た限り、内臓破裂しピクリとも動かない彼は、生きている方が不思議といった有り様だった。 「――――――! ……いえ……… まだ…生きてます…! 辛うじて、ですが……」 美鈴の言葉を聞き、一同は気を張りつめる。 ――――――ピク…… 吉影の右手が、僅かに震えた。 手は徐々に力が蘇り、土を引っ掻いて指痕を刻む。 「――――――――――――………あ……… ……あ……う……………うぅ……… ハァ…………」 ヒュー、ヒュー、とか細く呼吸し、吉影は意識を取り戻した。 「(――――――ば……馬鹿……な… ……【あの御方】は……この吉良吉影……に… み……味方してくださった………はずなのに…… 『チャンス』は私に……訪れた……はず…なのに…………ッ!)」 暗闇の絶望の中、握り締めていた、ただ一つの光明。 それが彼の手を離れ、一人彼だけが残された。 闇を照らす光は、絶望を打ち払う松明は、無い。 「(――――――くそ…ッ!! このわたしに対して……ッ!! この手の中にッ! あの【御遺体】がこの手の中にないッ! よくも……ッ! こんなッ………!)」 「(ゆ…『夢』だ…… これは…『悪い夢』だ……… こんなことで………この吉良吉影が敗北するわけがない……! 『あの時』と同じだ…【幻覚】に決まってる…ッ!! このわたしが追い詰められてしまうなんて…………きっと…これは『夢』なんだ…)」 歯を喰い縛り、苦痛に顔を歪め、身体をブルブルと震わせて頭をあげる。 霊夢、そして彼を遠巻きに見ている連中を睨み回した。 「――――――貴様らは……ッ…!【糞】だッ……!!」 ギリギリと喰い縛った歯の隙間から、ドアが軋むような声を絞り出し、積もりに積もった怨嗟をぶちまけた。 「貴様らはッ…! 人間が垂れた糞だッ! 幾度も踏まれ風雨に曝されて、風化し土に埋もれかけた糞を、八雲紫が必死こいてひっかき集め積み上げた糞の山だ! 科学のふるいを持たない未開人どもが、少ない脳ミソで捻り出した愚論で自然現象を無理矢理曲解した、妄想の産物だッ! 貴様らなどッ!あの野蛮人共が未消化のままひり出した下痢糞がなければ、存在すらできない、負け犬の蛆虫共だッ!! 【幻想郷】…? フンッ……笑わせるな… 小綺麗な呼称で飾るんじゃあない……! ここは……【糞溜め】だ…!! 腐臭を撒き散らす汚物共が蠢く、【日陰者共の魔境】だッ!!」 ドス黒い殺意をみなぎらせ、湧くように喉に込み上げて来る罵倒を、絶叫にも似た荒い声で捲し立てた。 ひとしきり吼えると、今度は激しく咳き込み、赤黒い肉片をボドボドと吐き散らす。 その様相はこの上なく惨めで、痛ましかった。 「―――――――――――― ――――――…………わたし…は…ッ多くを望んだわけじゃないッ…… 【金】も【物】もいらない……【女の命】も奪わない… 【尊厳】も【風評】もどうでもいい…! 後から好きなように罵倒して書き立てて構わない……ッ! ただ……ッ! わたしはッ! …【この世界】から……この糞溜めからッ……!出て行ってやる…と!それだけを言っているんだ…… …なのに……ッ! 何故だ…!何故わたしから…ッ【何もかも】を奪おうとする…ッ! 【金】も【命】も【尊厳】も…! 当たり前の【望み】ひとつまでも…ッ!」 胸の内に逆巻く激情を、呪詛のように吐き出していく。 「――――――わたしは……『生き延びたい』……! ただ【静かに】……ッ…『生き延びたい』……ッ ただのそれだけだと言うのに…ッ!」 嗚咽混じりに紡がれる、吉影の憎悪の怒声。 たった一人の糾弾の声は、虚しく空へと消えていく。 魔性の満月が見下ろすのは、罪を重ね過ぎた極悪非道の亡者と、穢れを知らない純粋無垢の紅白少女。 祝福されるべきはどちらかは、歴然だった。 「――――――理由があれば……… 【納得】して、おとなしく消えてくれるというの?」 ポツリと、感情の籠らない声で、吉影以外の耳には届かないように、霊夢は呟いた。 「『それ』じゃダメなのよ。 あなたの最期は、『こう』でなければならないの。 皆のために。 私達のために。 幻想郷のために。」 無味乾燥、無色透明。 ただ、与えられた【使命】を全うする。 それ以外の感傷の一切を持ち出さない。 持ち出してはならない。 博麗霊夢は、『博麗の巫女』は、祈祷棒を抜き、掲げた。 魔理沙、白蓮、星、ナズーリン、村紗、一輪、雲山、レミリア、美鈴、妹紅、射命丸、そして吉良吉廣、 その場にある全てが、朽ち果てゆく亡者に固唾を飲んで視線を注いでいた。 理不尽と絶望にギリギリと顔を歪め、射抜くように霊夢を睨む吉影。 その視線を平然と受け止め、冷徹に見下ろす霊夢。 両者の間に立ち込める覇気は周囲の空気を極限まで緊張させ、震わせる。 片や煮えたぎる溶岩、片や吹き抜ける涼風。 相反する気質の衝突が、審判の鉄槌によって幕を閉じようとした、 その寸前であった。 「待てッ!!」 響き渡る轟声。 その場にいる全員が、反射的に声の方向に目を向けた。 碧の彗星のように、高速で魔理沙達の上を飛び越えた影。 紫、藍、魔理沙、命蓮寺組、紅魔館組、射命丸、妹紅、吉廣、 翠の人影は彼女達の前に降り立つと、蹲り息絶えようとしている敗者のみを、その双眸に映した。 闇に輝く紅い瞳、 月に煌めく薄緑の髪、 そして、頭に備えた双つの角。 上白沢慧音は満月の下、吉影を見据え佇んでいた。 ED♪ 天野月子『混沌-Chaos』【ttp //m.youtube.com/watch?gl=JP hl=ja client=mv-google v=UdZq3NVj-xY】 ―――――――――――――――――― ――――――――――――― ――――――『…吉良吉影……… 心するのだ…… 「【全て】を敢えて差し出した者が、最後には真の【全て】を得る ましてや、【自分の最も大切な者】を捧げたなら……」―――――― 覚えておきなさい』――――――
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――――もうひとつの 杜王町の顔 すれ違うたび 目に留まる 細い指 滑らかな肌 懐の君と 比べてしまう よくないな… 浮気は駄目だ なあ そうだろう? と 手首に 囁く シリアルキラー 手入れのされた ペディキュアの色 壊れそうな 華奢な「彼女」 次の獲物に 定め その手に 掛けた いらない部分 消してしまおう? キラー クィーン 私の 欲を 満たしておくれ 消すこと できはしない 生まれついての 衝動 初めて 自覚したのは 何時の事だっただろう? たまたま買った 雑誌に 載っていたその絵画 偶然が 人生と 倫理観 狂わせる モナリザの 肖像画 組まれた 手首 早鐘を打ち始めた 鼓動 熱く痺れた 心 初めて覚えた 欲情 歪んだ その性癖 切り抜いた 絵画を 現実のもの にしてしまおう、と 嗚呼 罪の意識など 煩悩の 前では 容易く 崩れ去る あの興奮、 あの官能を、 もういちど…… 最初の 犯行は 年若い 見知らぬ少女 ベッド の下にいる 愛犬へ 伸ばされた指 水音を 立てて 舐める 泣き声を 真似て 偽りの 安堵を 言葉で 恐怖へ 塗り替えて 切り裂いた 背を 月が 蒼く照らす その時 彼は酔いしれていた ――――後に起こることも知らずに 「もっと、もっと沢山の獲物を」 Then he intoxication ――――No he know after things “I want more sacrifice” その時 彼は酔いしれていた ――――彼女に殺される事になるとは知らずに 最早 後戻りは出来ない… Then he intoxication. ――――No he know she’ll kill him He can’t turn back now… そして男は 殺戮の女王を 手に入れた 原曲 リヴァイサン【闇の紳士録~召喚という儀式】 元動画URL【http //www.nicovideo.jp/watch/sm812785】
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女主人公について 何気に女主人公像もあまりできあがっていない気がする。 8 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ 幼なじみや妖精と過ごした楽しい少女時代 しかし、王子の許婚としてラインハット王国に呼び出されてから 彼女の運命は少しずつ坂を転がり落ちていく 9 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ 美人かもしれんな。5主人公は美形タイプらしいし。 奴隷時代を考えると、アレだが・・・ 10 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ 個人的な女主人公のイメージ 覚える特技 4.ホイミ 6.メラ 8.バギ 8.ギラ 10.ルカナン 11.べホイミ 14.リレミト 14.べギラマ 15.メラミ 16.バギマ 18.マホキテ 22.ベホマラー 28.メガザル 29.ザオリク 30.ベギラゴン 30.メラゾーマ 32.バギクロス イベント.ルーラ イベント.パルプンテ 伸び具合(5段階評価 『1<5』) HP.3 MP.5 ちから.3 まもり.3 すばやさ.5 かしこさ.4 うんのよさ.3 34 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ 男装の麗人という設定はどうだろうか。 …すまんベルばら読んだばっかりなんだ。 65 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ 自分の脳内設定では、 女主人公は女神のような慈愛の感情を持ち、悪に対して遠慮しないという感じの性格なんで、 仲間モンスターをさらに増やすことってできね? 106 名前 100 そういえば、サンチョには嬢ちゃんと呼ばれるのか? 107 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ 身分を隠すために「坊ちゃん」と呼ばれたりしてな 180 名前: 名前が無い@ただの名無しのようだ 65 増やさんでも ・男でしか仲間にできないモンスター ・女でしか仲間にできないモンスター で分けるだけで個性化できる。 簡単に例を挙げられそうなのは ♂のみ…ブリザードマン ♀のみ…ほのおのせんし とかな。 この区分を作るなら個人的にスミスは♀限定加入として外せないと思う。 小説のせいで純情死体が大好きだ。 ぜひとも腐ってることによるコンプレックスを解消してやって欲しい。 181 名前: 名前が無い@ただの名無しのようだ 男女差はストーリーと性別限定装備品だけにしたいと思う自分は少数派か? 主人公の男女を選べる3と4が両方ともそのスタンスだったせいか、 どうもフローラ兄みたいな女主人公限定キャラを出したり 男だけのモンスター、女だけのモンスターと分けたりしたくないと思っちまう。 フローラ兄は男主人公編でも何らかの形で出せば問題解決だが、 できればアンディを何とかして婿候補に持ってきたいんだよなぁ…… 321 名前: 名前が無い@ただの名無しのようだ よし、ここで流れを読まずに、主人公のステータスを若干低くしてでも 出来ればマダンテ、せめてグランドクロスを覚えて欲しいと言っておこう。 リメイクには4のギガソードみたいな最強技追加を期待していたのに。 あと、メタルキング装備が足りないんで 6で出たエンデの防具一式(男性、一部の魔物専用)も追加できたら嬉しい。 古い時代のいぶし銀の名職人の手による、 飾り気は無いが機能的な、無骨な一品。燃える。 激しく妄想の方向間違ってますね。 333 名前: 名前が無い@ただの名無しのようだ 主人公が戦士よりの万能系ってより 僧侶よりの戦士ってイメージがある。
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―――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― 『―――――――19 33 50(二度目)―――――――』 「―――――――ッッ!?!?」 ハッと頭上を仰ぎ見上げた咲夜の表情が、凍りついた。 「――――――あ……………ああ」 咲夜の唇から、嗚咽にも似た押し殺した叫びが漏れる。 空中に拡がる、おびただしい量の劇薬 宙に浮いた巨大な円筒形の容器の上、吉良吉影が、勝利の愉悦の笑みを浮かべ四人を見下ろしていた。 彼が乗っている【貯水タンク】は爆発寸前だった。 全体がヒビ割れ、その裂け目から爆炎が噴き出している。 ―――――――そして、大きく吹き飛んだ部分から流れ出す膨大な水の落ちる先は――――――― 彼女の愛しい主、レミリア・スカーレットの脳天をもぎ取らんと、無色透明無害の魔手を伸ばしていた。 「―――――――お……………… お嬢様ああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッッ!?!?」 『時の止まった世界』の中、咲夜の絶叫のみが木霊した――――――― ~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第二十五話『吉良の世界―Last One Channel to 0―』後編 OP 平沢進 『崇めよ我はTVなり』 「……あ………ああ…っ…… …あああぁぁぁぁ…………!」 咲夜は瞳を震わせ、頭上を見上げる。 殺人鬼の魔性に満ちた視線が、レミリア達を見下ろしていた。 さっきの【時間停止】と合わせて、既に三秒経過。 間もなく彼女自身が時の堰に縫い付けられ、身動きできなくなる。 そして咲夜が時の堰を切ったなら、その刹那膨大な清水が彼女の主の魔力をもぎ取るだろう。 無論、自分も、美鈴も、妹紅も、落下する薬品を浴びせられてしまう。 絶対絶命。 この状況にそれ以上似合う言葉なんて、ありはしなかった。 ――――――だが、紅魔館随一の従者、悪魔の側近中の側近、十六夜咲夜の頭脳は、停止していなかった。 「(――――――落ち着いて…… 落ち着くのよ……十六夜咲夜……!)」 彼女は、焦っていた。 混乱していた。 だが、『冷静でいよう』とする理性は残っていた。 「(お嬢様の身の安全…っ! それは【最優先事項】っ! でも…!この距離!この状況っ! 今をおいてコイツを仕留めるチャンスは…他に無いっ!)」 身を守ること、敵を撃滅すること。 追い詰められたこの状況でさえ、彼女の聡明な思考は両者をリスクの天秤にかける。 ナイフを投げれば仕留められるか? 否、【空気の防壁】で易々と防がれるだろう。 接近して直接ナイフを叩き込めば、仕留められるか? 否、薬品に阻まれてしまう。 そのために彼は撒いたのだ。 落下してくる脅威から逃れるため、横に逃げるか? 否、【貯水タンク】は今にも爆発しようとしている。 ギリギリ時を止めて移動できる程度の距離では、爆風を受け拡散する水飛沫からは逃れられない。 となると、残る手は―――――― 「くぅ…っ!」 咲夜はナイフを抜き、身体を反転させると、 ドスッ 妹紅の心臓にナイフを突き立てた。 そしてナイフを引き抜き、上方に投げる。 ビタァッ 吉影の眼前に切っ先を向け、銀の刃は停止する。 さらに心臓に風穴のあいた妹紅の襟を、両手でむずと掴むと、 「えぇぇぇいっ!!」 腰の回転を利用し、力一杯投げ上げた。 ビタァッ 妹紅はナイフが通過した軌跡を辿り、薬品のカーテンを突っ切って、【空気の防壁】に阻まれたナイフの後ろで停止した。 「……はあ……… …ハァ………ハッ…… はぁっ……」 咲夜の額に汗が浮かぶ。 動悸と息苦しさがみるみる増していき、潜水服を着ているかのような重苦しさが彼女にのし掛かる。 【時の止まった世界】での活動限界が近付いてきたのだ。 だが、まだだ。 まだ解除するわけにいかない。 グッ 踵を返し、すぐさまレミリア、美鈴を抱えると、咲夜は全速力で降下して行った。 「――――――――――――ッ!?」 『時間を巻き戻し』、レミリア達が足下に現れるのを見下ろしていた吉影は、次の瞬間、眼前で起こった小爆発に驚かされた。 「(この爆発……恐らく十六夜咲夜のナイフ……! まだ時を止められたとはな…… だがわたしの読み通り、レミリアを避難させたうえで、【劇薬】の幕を迂回してわたしに直接ナイフを突き立てる程の時間は、活動できなかったようだ――――――)」 爆発が治まり、視界が開けた瞬間、 「―――――――なぁッ!?」 彼の目に飛び込んで来たのは、瞳孔の開いた妹紅の顔だった。 【貯水タンク】が爆裂するのと、心臓を抉られ絶命した妹紅の亡骸が【リザレクション】するのは、同時だった。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――― 「――――――はっ!?」 レミリア、美鈴が気付いた時、彼女らは円陣を組んでいた位置の真下にいた。 頭上で轟音が轟き、爆炎が噴き上がる。 「えっ!? こ、これは…!?」 「…くっ……失敗したようね……」 美鈴、レミリアは真上で起きた爆発を見上げ、射命丸文の【作戦】が失敗したことを悟る。 「――――――……!?」 と、その時、レミリアは気付いた。 自分の左肩に掛かっている【重み】に。 はっと息を呑み、レミリアは左肩に目を向けた。 「っ! ああっ……!」 両目を見開き、レミリアは驚愕する。 彼女の目の先数センチのところに、虚ろな表情で彼女にもたれ掛かる咲夜の顔があった。 「さ、咲夜さん!?」 レミリアに寄り掛かり、ピクリとも動かない咲夜を見て、美鈴は大声で呼び掛ける。 「気を失っているわ… きっと時を止め過ぎたのよ…私達を助けるために………」 咲夜を左腕に抱え、レミリアは再び頭上を睨み付ける。 ザザアァァァァ―――――― 妹紅の【リザレクション】で蒸発し切らなかった水と薬品が、しかしその爆発で吹き飛ばされて、真下にいるレミリア達を避けるようにドーナツ状に拡がって降り注いだ。 「………妹紅は…この娘が【爆弾】代わりに使ったようね。 …文は?」 爆煙に紛れ見えない吉影の急襲に対抗できるよう、紅い魔力の防壁を展開しつつ、レミリアは辺りを見回す。 「――――――はぁっ……!?」 【それ】に気付き、美鈴は愕然として呼吸を乱す。 「お…お嬢様……! そこです…っ!!」 美鈴がレミリアの背後を指差し、彼女は振り返る。 「っ!? …えっ……? うそ…、文……っ!?」 レミリアの双眸が混乱と焦燥に揺れる。 彼女の視線の先、射命丸文が、血まみれの姿でうつ伏せに倒れていた。 「そんな……!!あいつが……!」 常に飄々と抜け目なく暗躍する射命丸が、【パープル・ヘイズ】を食らった鴉のように無惨に打ち棄てられている。 その情景が信じられなかった。 「………止まっています……心臓も…肺も…… ヤツの【爆弾】を食らって、原型留めてるだけでも奇跡なんですから……多分……もう…」 黒い翼は二つとも吹き飛び、背中には断面が消し炭のように真っ黒に変色した大穴があいている。 彼女の背中に、妖怪や蓬莱人をも塵に還す極悪の【爆弾】が命中したことを、雄弁に物語っていた。 「――――――美鈴! ヤツはどこにいるの!?」 余計な感傷を切り捨てるかのように射命丸に背を向け、レミリアは彼女に問う。 「……真上の爆煙の中です! 妹紅の【蘇生焔】に捲き込まれましたが軽傷、すぐ襲って来ます!」 二人は頭上に立ち込める爆煙を見上げ、戦闘態勢に入る。 「美鈴、貴女が先に攻撃なさい! ヤツを探知できるあなたの方が【早い】… ヤツの【爆破防壁】を解除した瞬間、私が貫通特化の【グングニル】を叩き込むわ! ヤツを殺したら、貴女が【左腕】に【気】をお見舞いして!」 「了解っ!」 レミリアは【スピア・ザ・グングニル】を右手に構え、美鈴は【気】を研ぎ澄まし攻撃の機会を待つ。 ボシュウゥゥゥゥ―――――― 「「っ!!」」 煙を突き破って、吉影が飛び出した。 【真空バルーン】に掴まって上空から二人を見下ろし、【重機関銃】を彼女達に向ける。 「今よッ!!」 レミリア、美鈴は一気に散開し、 「ええぇぇぇぇいっ!!」 「破っ!!」 満身の力を籠めて、一撃を放った。 「うおおォォォォォォ―――――――ッ!?!?」 目の前で妹紅の死体が爆発した瞬間、 「ギャアァァァァァァ―――――――スッ!!」 間一髪のところで【ストレイ・キャット】が、爆炎を空気ごと【固定】した。 「ぐぅあぁぁ……ッ!」 爆圧や火焔に直接呑まれはしなかったが、炎の熱を至近距離で浴び、吉影が顔を歪める。 「十六夜咲夜…ッ! あの女ァ…! 【止まった時の中】で妹紅を殺して、【爆弾】のように……!! なんてヤツだ…よくもあの状況で…!とんでもないことを思い付く……ッ!!」 射命丸が正体不明の攻撃で破れ、主の頭上に【瞬間移動】した吉影が【弱点】である水をぶち撒けてトドメを刺さんとしている。 常人なら混乱のあまり我を失うその絶体絶命の危機を、あのメイドはブッ飛んだ発想と冷酷さで凌いでみせた。 咲夜から【懐中時計】を奪取しておいて良かったと、吉影は心の底から痛感した。 「(咲夜の行動力から考えて、恐らくレミリア達はまだ無事だ… 時を止めていられる限度から考えて、そう遠くへは行っていまい。 大方、妹紅の爆風で安全圏となっている【真下】にいるだろう… ヤツらがあの圧倒的な弾数で無差別攻撃を仕掛けて来ないのは…、ヤツらも現状の把握に手間取っているということだ。 転がっている射命丸の死体を見付けて、わたしの【能力】を推察しようとしているのかもしれない…… 分かる筈ないがな…)」 現在自分の置かれている状況と、予想される相手の状態から、吉影は思考を巡らせる。 「(しかしすぐに体勢を立て直して、攻撃してきたら厄介だ… 向こうにはわたしを完璧に探知できる美鈴がいるうえ、弾数も無限、煙で視界を遮られているこちらは防戦一方を強いられる…… ならば―――――――ッ!)」 【空気弾】を作り、内部の圧縮空気を一気に噴出させる。 ロケットの要領で急加速し、吉影は立ち込める煙から脱出した。 「(先手を打つッ!)」 煙から飛び出し視界が開けた瞬間、煙の真下にいたレミリア達の姿を視認した。 「(やはりいたッ!)」 【キラークイーン】に【M2重機関銃】を構えさせ、三人に銃口を向けた。 その時、 ボンッ パンパンパンッ 【空気の腕】に当たった【髪針】の一本が爆破され、残りが【空気の腕】を構成する小さな【空気弾】を弾けさせた。 「(なにィ!? まッマズイ! 【先】なら良い! どんな威力でも【爆破】できるならだ…! だが【後】は駄目だッ!) 【キラークイーン】ッ!!」 吉影は【空気の腕】を再び【第一の爆弾】に変えようと、咄嗟に腕を伸ばす。 だが、レミリアは既に攻撃を終了しようとしていた。 「【スピア・ザ・グングニル】ッ!!」 美鈴の【髪針】が尖兵として【空気の防壁】に突っ込み塵と化した瞬間、レミリアは極限まで力を溜めた右肩を解放し、必殺の紅槍を吉影の顔面に命中させんと、全身の捻りを乗せて投擲した。 その時だった。 ズパァァン―――――― ! 「(―――――――っえ……?)」 レミリアの左腕が、何の前触れもなく弾け飛んだ。 左腕に抱えていた咲夜の身体が宙へ投げ出され、驚愕とバランスの喪失により投擲モーションが著しく乱れる。 ドッシュウゥゥゥゥ――――ッ!! 何者をも貫き粉微塵にする極悪の紅い槍は、吉影のこめかみを掠め、後方の夜空に消えていった。 「(ま………また…………勝手に……?)」 レミリアは主人の行動を阻むがごとく吹き飛んだ左腕に目を落とし、そこから下方へと視線を移す。 「……っ!!」 レミリアは息を呑んだ。 彼女の足下、気を失っていたため受け身も取れず真っ逆さまに地面に叩きつけられた咲夜が、銀髪を赤く染め倒れていた。 「くっ……!!」 【空気の腕】を突き破り、【スピア・ザ・グングニル】がこめかみを掠め飛び去って行った後、吉影は唇を噛み締める。 「ぎ…ギリギリだった……! もし【前の六秒】で、ヤツの左腕を撃ち抜いた【運命】が発現していなかったら……」 ドッと冷や汗が噴き出し、しかし同時に口角を歪め笑う。 「やはり【あの御方】は…! このわたしに【味方】して下さっている! この【御遺体】がわたしのもとにある限り、わたしの【勝利】は揺るがないッ!」 ―――――――愉悦に浸る吉影の背後で、静かに炎がとぐろを巻いた。 炎は凝集し、人の形を成して、燃え上がる瞳で吉影の背中を睨む。 「(悪魔の狗…! アイツ、よくもこの私を使い捨ての【爆弾】みたいに…! …でも、文句は後にしてやる…! 今はただ……!!)」 炎が消え失せ、片腕片足の妹紅が姿を現した。 「(貴女が命懸けで作ったこのチャンスをっ! ものにするッ!!)」 右手に火焔を集束させ、無防備な吉影の背中に向けて放った。 ―――――――フッ…… 「なぁっ!?」 完全に隙を突いて浴びせた爆炎は、唐突に急降下した吉影に呆気なく避けられた。 「ムッ……? 熱ッ!?」 突然落下する感覚を覚えた吉影は、直後頭上に熱を感じた。 見上げると、噴き上がる爆炎と、その後ろで彼を見下ろす妹紅の姿が見えた。 その手前では、穴があいた【真空バルーン】が勢いよく空気を吸い込んでいる。 「(背後で【蘇生】し、襲って来たのか… まったく気付かなかった……【グングニル】で【真空バルーン】が破られ、浮力が落ちていなかったら危なかったな。)」 吉影は【真空バルーン】を切り離し、【キラークイーン】の脚で着地した。 辺りを瞬時に見回す。 咲夜は地面に倒れ込んだまま、頭から血を流し、ピクリとも動かない。 レミリアは咲夜を助けに向かおうと、吉影に背を向け矢のごとく急降下している。 美鈴は吉影の追撃を食い止めようと、こちらに向かい飛行して来ていた。 妹紅は頭上から吉影を仕留めようと、特大の火焔を掲げ投げ落とさんとしている。 状況を把握し、吉影は行動に出た。 幸い手は四本、猫の手も足りている。 このくらい捌き切れないことはない。 ジャキッ―――― 【キラークイーン】が【M2重機関銃】を、動かない咲夜に向ける。 【ストレイ・キャット】が頭上から迫り来る火焔に備える。 吉影がリボルバー拳銃二丁を抜き、美鈴、妹紅に向ける。 爆炎が地表に落ち、銃口が煌めいた。 「ああっ……!?」 地に墜ちた咲夜を救出しようと全速力で降下していたレミリアは、背後に殺気を感じ振り返った。 吉良吉影が【重機関銃】の照準を、無抵抗のメイドに向けていた。 「(っっ!?!?)」 レミリアの心臓が跳ね上がり、彼女は急転換して地面に降りた。 銃口がマズルフラッシュで輝いた時、間一髪二人の間に割って入った。 紅い魔力の防壁を展開し、レミリアは身を挺して自分の最も寵愛する従者を庇う。 音の三倍の速度を誇る凶悪な弾丸が、毎秒十発という驚異的な連射性で襲い掛かる。 防壁に食い込んだ弾丸は、【Grip & Break down !!】の【部品(ピン)】が弾け、爆裂してガラスが割れるように綻びを拡げていく。 ギリギリと歯を喰い縛り、全身の魔力を振り絞ってレミリアは持ちこたえるが、既にボロボロの彼女は、もって数秒というところだった。 「(っ!!)」 汗が伝う彼女の顔に、驚きと希望の色が現れた。 「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――っ!!」 上空の妹紅が直下の吉影目掛け、特大の焔弾を撃ち下ろした。 近くを通り過ぎるだけで服が燃え上がるほどの強力な火炎が、吉影の脳天に迫り、 ガッシィィィ―――――ンンッ… 「…っ!?なにぃっ!?」 妹紅が両目を見開き、足下の光景を凝視する。 彼女の満身の力を込めた火焔は、吉影に到達する寸前で空中に縫い付けられ、炸裂することなく消滅した。 「(周りの空気ごと【固めた】ってのか? なるほどな…あれで私の【リザレクション】を……!!)」 と、身動ぎもせず【キラークイーン】と【ストレイ・キャット】に攻防を任せていた吉影が、ついに動いた。 ジャカッ―――― 両手に握る二丁のリボルバーの撃鉄を起こし、頭上の妹紅と正面の美鈴に向ける。 「…!」 「ちっ…!」 美鈴、妹紅は身を捻り、銃口の延長線上から身を退いた。 パンパンッ 軽い銃声が響き、二つの銃口から火花が散った。 次の瞬間、 ドグオォォ!! 「くぅっ!?」 「がはっ…!?」 美鈴の左腕、妹紅の左胸が、爆炎を噴いて弾けた。 「(な…なぜ……? 確実に避けたはず……!)」 ダメージの影響で高度を落とし、美鈴はガクリと膝を着く。 「(な…っにが……!? おかしい…! さっき撃ちまくっていた時は、全く当たらなかったのに…!)」 胸にあいた大穴から鮮烈に血を噴き出し、妹紅は力無く落下して、地面に叩きつけられた。 「(ぐ……っ! ううっ………! ま…マズイ……っ! 心臓を……っ…やられた…!!)」 おびただしい血液が流れ出し、みるみる血溜まりが広がっていく。 血流がストップし、急速に意識が薄れていく。 「(ぐ……あ…ああぁ……!! …【リザレクション】―――――――!!)」 事切れると同時に、彼女の肉体は焔と化し消滅した。 炎は揺らぎ、集束すると、人の形をかたどり、妹紅が復活する。 だが――――――― 「……ぐうっ!?」 鮮血を迸らせ、妹紅はくずおれた。 「くっ……! やはり…っ!!」 左胸に手を当てると、大量の血が泉のように溢れ出る傷が口を開いていた。 「(吉影の…『魂を破壊する【爆弾】』……っ!! 左腕や右足、脇腹と同じで……!! 『回復しない』……ッ!!!)」 心臓を丸ごと吹っ飛ばされた妹紅は、もはや数秒と意識を保っていられない。 死んだも同然だった。 倒れ込んだ妹紅は、霞がかっていく頭を、最期の力を振り絞って上げる。 死に逝く彼女を見下ろして、吉影は悠然と佇んでいた。 ギラリ、硝煙を吐き出す拳銃を突きつける吉影の双眸が、冷徹に光った。 「(………さっきの……あの爆発が………『【並行世界】からの攻撃』…っていう…ヤツだったの…か……?―――――――)」 ガクンと顔を落とし、妹紅は息絶えた。 「………………ようやっと『死んだ』か……蓬莱人……」 心臓を潰され死んだ妹紅を眺め、吉影は拳銃を下ろす。 「空砲で【空気弾】を撃ち出す【高速ステルス追尾弾】……発射後軌道を操り命中させた。 【第一の爆弾】を同時に使うために二等分して使用したから、威力に不安があったが……腕と心臓をぶっとばすには十分だったな……」 妹紅から美鈴、【キラークイーン】の猛攻を耐え忍んでいるレミリアと、視線を移していく。 「これで妹紅は無力化された。 復活した端から勝手に死んでくれるからな… 美鈴も片腕片足の満身創痍、もはや脅威ではない。 咲夜も今や倒れ伏すだけ……レミリアは転がっている部下を庇うことしかできない。 自身も下半身消失と内臓破損、両翼をもがれズタボロだ。 …だが左腕はもう回復したあたり、流石吸血鬼と言ったところか……」 と、吉影の目に、射命丸文の死体が映った。 「………そうだったな… 『殺した』んだった………完全に……」 吉影の口角がつり上がり、思わず笑みが洩れる。 「殺した瞬間は、その後の行動で手一杯であまり感じなかったが……… 【安全】で落ち着いてくると……、クク…【実感】が湧いて来るなあ~~…」 『女性を殺した』 この感覚をどれほど待ち望んでいたことだろう。 心に満ちていく幸福感に、長い溜め息を吐く。 「なんと言うか…… 気品に満ちた水というか…、例えるなら、アルプスのハープを弾く乙女が飲むような水と言うべきか… 3日間砂漠をうろついて初めて水を飲んだようだ……凄く爽やかだ…… 清々しい!」 晩夏の蒸し暑さがスッと引いた、秋風が吹く丘の上で夕陽を眺めているような、目が冴えるような清涼感。 胸一杯に空気を吸い込むと、硝煙と血の臭いが金木犀の芳香に変わる。 【M2重機関銃】の銃声と【Grip & Break down !!】の炸裂音は、オーケストラの奏でる極上のBGMに昇華した。 そう、これこそが彼の【幸福】。 究極の嗜虐 極限の略奪 至福の征服 美しい女の命を、己の手で蹂躙し、冒涜し、使い棄てる。 これ以上の贅沢などありはしない。 これぞ背徳の味、悪徳の甘美。 これこそが彼が17の夜以来、15年以上焦がれ虜にされてきた、至上の【娯楽】だった。 それに復讐の法悦が加味され、倒錯に倒錯を重ねた極上のカタルシスが、麻薬のように彼の脳を振るわせる。 「クククク……… フハハハハハハハハ………… なんて清々しい気持ちだ…! 歌でも一つ歌いたい、実に晴々とした気分だ!!」 染み渡る悦楽が、吉影の頭を隅々まで覚醒させる。 不安も嫌な思いも、纏めて吹き飛ばしてくれるようだった。 「クククククク……… 本当は口にライフルを突っ込んで股間まで撃ち抜いてやりたいところだったが…… まあいい……この【幸福】を味わえたなら、そんな小さな怨み辛みは些末なことよ…… 長かったなあ~~…この感覚を味わうまで…… 妹紅を殺しても薄味で…ちっともイイ気分にはなれなかったからな……」 フウゥゥゥ~~~……、と、食後腹鼓を打っているような満足げな吐息を溢し、再び射命丸の亡骸を一瞥する。 「―――――――【あの御方】は… 『あなたの右の頬を打つ者があったら、左の頬も差し出せ』 と仰った。 ならばわたしは、本当にそうしなければならないのか? いいや、その必要はない…… なぜなら【あの御方】自身、処刑の前に頬を打たれるところがあるが、もう一方の頬も差し出したとは書かれていないからだ。」 吉影はスッと手を挙げ、『撃ち方止め』の指示をする。 【キラークイーン】が引き金から指を離し、けたたましく続いていた銃声が止んだ。 シュウゥゥゥ……と、熱せられた銃身から湯気が立ち上った。 「……わたしは君たちに、酷い目に遭わされた。 だからわたしは君たちを、酷い目に遭わせてやるべきなんだ。」 踵を反し、振り返る。 ―――――――ドシャッ レミリアが腰から崩れ落ち、地べたに倒れ込んだ。 元々色白な顔はさらに蒼白になり、幼い小さな口は息も絶え絶えに激しく呼吸をしている。 防壁を破られかけた時、爆発に捲き込まれたのだろう。 彼女の両手は弾け飛び、煙が燻っていた。 そんなレミリアの向こうには、ピクリとも動かない咲夜の姿があった。 落下の衝撃で首を折って、もう死んでいるのかもしれない。 「お嬢様………っ!」 離れた位置で膝をつき、左腕の止血をしている美鈴が、焦燥に駆られ叫ぶ。 彼女自身も隻腕隻脚、脇腹に穴を穿たれ、傷だらけであった。 満身創痍の三人を見回して、吉影はレミリアに目を向けた。 「―――――――なあレミリア… 【強さ】というのには、3つの【U】が必要なんだ………」 射命丸を殺害したことで幸福感に満たされている吉影は、普段にもまして穏やかな口振りでレミリアに話し掛ける。 「【3つのU】だ……教えてやろう…… 1つ目はな……【Unrivaled(無敵)】だ。 2つ目は【Unknown(正体不明)】…… そして3つ目は【Untouchable(不可蝕)】だ。 いいだろう? 強さの3つの【U】だ。」 柔らかい笑顔を浮かべ、吉影は彼女に語り掛ける。 レミリア、美鈴は地べたに這いつくばりながらも、なお敵意の失せない瞳で吉影を睨んでいる。 そんな二人を見下ろして、吉影はやれやれと肩を竦める。 「……実を言うとね…君たち五人の中で、君が一番なまっちょろいんだよ…レミリア・スカーレット…」 【キラークイーン】と【ストレイ・キャット】の警戒は怠らず、彼は小馬鹿にするような笑みを浮かべ、言葉を繋ぐ。 「君の従者…十六夜咲夜は、わたしが一度敗北を喫した者と同じ『能力』を持っている… と、言っても…今では満足に使えないようだがね… 門番、美鈴は磨き抜かれた体術・技…【気功】を操り…そして唯一【スタンド】を完全に視覚出来る。 我が【キラークイーン】の天敵だ…… 写命丸の『風の【能力】』と【カメラ】は【キラークイーン】にとって脅威… 妹紅の焔の妖術と絶対の不死性、己が身を焼き攻撃を受け流し、再生の火焔で敵を巻き込もうという【覚悟】は、厄介この上ない。」 「そして、君はどうだ? 鬼に比べ貧弱なパワー、 射命丸以下のスピード、 パチュリー・ノーレッジ未満の魔力、 美鈴に対しあまりにお粗末な格闘能力、 妹紅に劣る不死性、再生力、 十六夜咲夜のそれと違い無価値な能力、 博麗霊夢とは雲泥の差の戦闘センス…… そして……このわたしに、圧倒的に劣る、【精神力】、【判断力】、【運命力】、【覚悟】。 そういった中途半端な【長所】の寄せ集めでは、我が【BITE THE DUST -Channel to 0-】にはどう足掻こうが及ばない。 いくら【再生】しようと【霧化】しようと…我が【キラークイーン】の【爆弾】と『【並行世界】からの攻撃』の前では紙切れの甲冑だ。」 立て板に水を流すように話しながらレミリアの表情を確認するが、これほど侮辱されているにも関わらず、プライド高い彼女に変化は見受けられなかった。 ただ、変わらず殺意の籠った視線を向けているだけだ。 「…断言しよう、君にわたしにとっての【危険性】は、『無い』。」 はっきりと言い切った。 流石に怒りを覚えたのか、ギリッと金属的な音がレミリアの口から溢れる。 「だが…ならば何故先程から執拗に君を狙っているのか…? …今この場にいるわたしの【敵の】中で、最も幻想郷において発言力を持つのは、君だからだ。 君がわたしに【味方】してくれたなら、あの博麗の巫女もわたしを甘く見はしまい。 君の【霧化】【変身】は魂ごと破壊する【第一の爆弾】の前では無力だが…『逃げる』ことを優先されては、いとも容易くそれを赦してしまうだろう…」 ここで吉影は、【腕時計】を確認した。 ズレを計算して、実際の時間は『19 33 56』、【六秒】経過している。 それを認識した後、彼は【キラークイーン】に【モシン・ナガン】―ボルトアクションライフル―を構えさせ、照準をレミリアの額に合わせた。 「「っ……!!」」 レミリア、美鈴の表情が強張り、身体が緊張するが、吉影は右手を振って殺意が無いことを表現する。 「だから、だ…… いいか……これが本当に最後だ。 【取引】をしよう。 【契約】が完了したなら、わたしはフランとの【契約】を破棄する。 射命丸も咲夜も、皆無事な姿で帰してやるし、今後も一切傷付けたりしない。 紅魔館と【我々】は、今後一切不干渉を保ち、レミリア、君には【人質】としてわたしの傍についていてもらう。 当然、契約違反をしない限り、互いに手出しも命令もしない……わたしの指示で、誰かにわたしの【情報】を話させたりはするがね……」 スッ―――― 吉影は右手を【腕時計】の竜頭に添え、構える。 「もしここで、再三わたしの【取引】を蹴るつもりなら…… 射命丸を葬ったのと同じ方法で、レミリア、お前を【始末】する。」 「……う…っ…!?」 レミリアの紅い目が、見開かれた。 「あれは絶対確実にお前を葬る。 【嘘】でも【ハッタリ】でもない、事実そうなのだ。 そしてッ!! 今この場にいる私の【敵】はッ!! 誰一人生きては帰さないッ!!」 吉影の声に、殺気が滲み始めた。 「君がつまらない意地を張らなければ……皆幸せになれるんだ… 皆助かるぞ……! もはや究極の選択ではないはずだ… ただ一言、了承するだけでいい……それだけだ…何のリスクも無い…… さあ、【契約】を結んでくれ。」 【キラークイーン】の指が、引き金に掛かる。 レミリアの顔から、血の気が引いていく。 殺気が萎んでいき、おずおずとレミリアは口を開いた。 「わ…私が【契約】すれば… 私が投降すれば… ほ……ほんとに…皆の【命】…は…助けてくれるの…?」 レミリアのか細い声を聴き、内心、吉影はほっとしていた。 【無敵】であるというのは気分がいいが、実際は死ぬ痛みを味わうし、ショックが強く心臓に悪い。 別段戦闘狂でもなければ、大量殺戮願望があるわけでもない彼には、これ以上闘いを続けるメリットが無いのである。 しかも、これは本来『するつもりのなかった戦闘』、ここで力を使うより、次の【本命の闘い】に温存しておく方が賢明なのは明らかだ。 「ああ、約束するとも……… わたしの【安全】と引き換えの『ギブ・アンド・テイク』だ。 さあ…【契約】してくれ。」 吉影が努めて無表情に、そう促した時だった。 「だが断る」 レミリアの口から、明確かつ残酷な【拒否】の言葉が飛び出した。 「ッ!?」 吉影は一瞬たじろいだ。 が、交渉決裂と知るや、すぐさまトドメを刺そうとする。 「【キラークイーン】ッ! 撃―――――――」 ズブシャッ―――――― 吉影の眉間から、焔が噴き出した。 口を開いたまま硬直した彼の頭は膨張し、爆炎を散らして破裂した。 『―――――――19 33 50―――――――』 「しばッ!!」 既に【六秒】以上経過していたため、瞬時に復活した吉影は、振り向き様左腕で裏拳を繰り出した。 「ぐおっ!?」 吉影の背後にいた【それ】は、身体を仰け反らせ吉影の【左腕】を避ける。 BGM C-CLAYS 『純真ベルベット』 ザッと飛び退き着地すると、【それ】――――妹紅は吉影を睨み、身構えた。 「(なぜだ…ッ? 心臓を潰されて、生きていられるはず―――――――)」 確実に仕留めたと思っていた妹紅が立ち向かって来ていることに、吉影は一瞬訝る。 が、彼女の全身を見て、すぐに納得した。 妹紅の身体は半透明で、白く光を放っていて、まるで『活気のある幽霊』のようなイメージだった。 「(【霊魂化】か…ッ!! 物質としての【肉体】がなければ、鼓動が止まっていても問題なく活動できる…!)」 【キラークイーン】の脚で跳躍し、背後からの弾幕を避けた。 空中で身を翻すと、美鈴が立ち上がり向かって来ているのが見えた。 レミリアも身体を跳ね起こすと、生え揃った両手に魔力を集中させる。 「(やれやれだ……! まだ闘わなければならないのか…!!)」 いい加減辟易しながらも、吉影は二丁拳銃を抜き、撃鉄を起こした。 「(心臓が駄目なら……ッ! 頭を吹っ飛ばすッ!!)」 ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― 「―――――――う………… ………う……うう……っ ………………ぐっ…!」 十六夜咲夜は、目を開けた。 痛い。 身体中あちこちが痛み、悲鳴を上げている。 特に頭が、割れるように痛い。 瞬きすると、目の前に赤いものが見えた。 彼女が調理中にいつも見ているもの、血であった。 「(………わ……私は… 確か、時を止めて、お嬢様達を安全なところへお運びしていて……… 途中で気を失って、……地面に落ちたんだわ…)」 と、耳に轟音が届いた。 鉛のように重い身体を懸命に動かして、顔を上げる。 「―――――――……っ!!」 咲夜は絶句した。 彼女の前方で、レミリアが倒れていたのだから。 しかも、その向こうには吉影が立ち、何やらレミリアに話している。 「(お嬢様……っ!!)」 咲夜は咄嗟に立ち上がり、吉影にナイフを突き立てようとした。 だが、落下時に打ち付けた痛みと【時止め】の疲労で、身体は全く言うことを聴いてくれない。 焦燥に駆られる咲夜の前で、【取引】が進められていく。 吉影の傍らに【ライフル】が浮き、銃口がレミリアを向いた。 きっと【キラークイーン】が構えているのだろう。 吉影は『右手を左腕の【腕時計】に当て』、静かに口を開く。 「もしここで、再三わたしの【取引】を蹴るつもりなら…… 射命丸を葬ったのと同じ方法で、レミリア、お前を【始末】する。」 「(―――――――!)」 それを見た瞬間、咲夜の脳裏を閃光のように、ある光景が駆け抜けた。 地中から飛び出した吉影を、【時の止まった世界】で迎え撃った時 円陣を組んでいた彼女達の頭上で、薬品と水をぶち撒いていた時 どちらも、吉影は『右手を【腕時計】に伸ばしていた』。 ここで、咲夜の脳内に、今まで引っ掛かっていたことが嵐のように吹き荒れた。 なぜ吉影が復活するのにタイムラグがあるのか なぜ【瞬間移動】を連発できる場合と、できない場合があったのか 【並行世界】という言葉 『未来に起こる【運命】』とその予知 戦闘が始まる前のお嬢様の『これから起こることが何もかも分かっている』ような不自然な怯え方 【左腕】の存在だけでは足りない、【懐中時計】の必要性 それらが目まぐるしく回転し、パズルのピースが組み合わさるように、一つの【仮説】を形成した。 「(もしかして……ヤツの【能力】の正体は………!)」 ドクン、と心臓が高鳴る。 「(私にもできない、【時空間操作】…っ!?)」 打ち立てた【仮説】、それは吉影の【新能力】が『時間を巻き戻す【能力】』だというものだった。 「(ヤツの【腕時計】……そして私の【懐中時計】…… ヤツの【能力】が【時】に関係していることは、想像に難くないわ…… そして、私に【認識】できず、かつ【復活】だとかが可能なのは、『時間を戻す』以外考えられない…! それなら全ての辻褄は合う…っ!! お嬢様も、あの男もっ! 【未来】を体験して来たから、正確な予知ができるのよ…! ヤツが【瞬間移動】したり、水を撒いたりしたのは……! 既に行動が終わった後に、『時をもどして』、さも【0秒】で行動したように見せ掛けていたんだわっ! 美鈴が見た【もう一人の美鈴】は、【未来】から送り込まれた美鈴で…! 【過去】に干渉したから、元の世界と変化した世界に分岐して、【並行世界】ができた…!! だから美鈴と射命丸との間で、【証言】が食い違ったのね… それならヤツがお嬢様に伝えた【能力】の詳細とも合致しているから、【嘘】は吐いていないことに……っ!!)」 思考を巡らせるにつれ、【仮説】が【確信】へと変化していく。 だが十六夜咲夜の心は、以前にもまして焦燥に駆られていた。 「(私でも物体の【動き】しか遡れないのを……この男は【自分の死】さえ遡って、『無かったこと』にできる…っ!! 射命丸が倒された時、彼女自身が離れた場所に【瞬間移動】していたのは、『移動して円陣を組んだ』という事実を『無かったこと』にされたから…ッ!! 危険よ…危険過ぎるッ! 『【過去】を変える』なんて…そんな力、神か何かでないと持ってはいけないわ…っ!!)」 その時、レミリア達があれほどまでに恐れていた【何者か】の正体が、朧気ながら理解できた。 レミリアと出逢う前、自分以外の超常の存在を知る由もなかった、【あの場所】。 彼女は毎朝、皆と一緒に祈りを捧げていた。 憐れで無力な自分達には、最後まで振り向きもしなかった、空っぽの【神様】に。 ―――――――忌まわしい記憶を振り払い、咲夜は必死に策を練る。 「(お伝えしないと…!! ヤツの【能力】の正体を…っ! ……でも…、身体が動かない…! 伝えられたとしても…! 『戻され』たら、また忘れてしまうっ! そうしたら、真っ先に口封じに殺される…! それに、どうやって倒せばいいの…? 殺しても焼き尽くしても、【復活】して向かって来る…! 左腕から【あれ】を引き摺り出そうにも…すぐに『時間を戻されて』何が起こったか分からないまま倒される…!! 何か無いの…!? 【弱点】と呼べるものは…っ!?)」 と、突然、何かが爆発する音が聴こえた。 ハッと顔を上げると、【霊魂化】した妹紅が吉影の頭を吹き飛ばしていた。 だが、吉影は瞬時に【復活】し、妹紅に裏拳で反撃する。 「(はっ!!)」 咲夜の目が【腕時計】に釘付けになった。 死ぬ直前の時間より【六秒】、秒針が遅れていた。 「(時計の秒針が…まるで【瞬間移動】のように……! ……そうよ…、そうなんだわ……! 『遡る時間』はぴったり【六秒】! 【インターバル】も【六秒】! そこにきっとあるはずよ……ヤツの【弱点】がっ!!)」 妹紅と美鈴が吉影と戦闘を始めた。 レミリアも飛び起き、吉影に攻撃しようとする。 「(あと一回……! それが限度…!!)」 身体の調子を確かめ、咲夜は最後の【時止め】を発動した。 ドオォォォォ―――――z――ン…… ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― 「ッ!?」 地面から飛び上がり、生え揃った両手で弾幕を放とうとしていたレミリアは、突然後頭部に何かが当たっているのを感じた。 吉影の攻撃に備え、【取引】の間ずっと【霧化】していた彼女の後頭部に、何かが埋まっている。 実体化し手で取り出して見ると、それは銀のナイフだった。 【柄】の方から彼女の【霧化】した頭に当たり、埋没していたのだ。 「はっ…!!」 レミリアは気付き、後ろを振り返る。 気を失った咲夜が、力無く倒れていた。 「(あの娘…時を止めて……っ! このナイフを私に渡したの…!?)」 「うおおおぉォォォ―――――――ッ!!」 「せええぇぇぇいっ!!」 妹紅と美鈴の声を聴き、レミリアは正面に向き直る。 「(このナイフをヤツの【左腕】に突きたてろってことね……! 分かったわ咲夜っ!)」 ナイフを片手に、戦いの最中へと突入して行った。 「ええぇぇぇいッ!!」 集束し硬化させた、実体化した炎の刃を、吉影に浴びせかける。 「チィッ…!」 舌打ちし、吉影は【空気の腕】で防御する。 一発当たるごとに【第一の爆弾】が解除されてしまうが、【キラークイーン】に常に触れさせているため、解除される端から再度【爆弾化】し防ぎ切る。 「せぃやァッ!」 美鈴が【気】の弾幕を放つが、【M2重機関銃】で撃墜し、さらに反撃する。 美鈴は素早く身をかわすと、回り込むように飛行して吉影の隙を窺う。 「(【復活】の度に【前の六秒】で使った弾薬は補充されるが…あまり使いすぎると弾切れになるな…! くそッ…貴様らなんぞに使う筈じゃなかったのに…!!)」 妹紅が実体化していない炎を放射してきたため、【ストレイ・キャット】で固めて防ぎ、バックステップで距離を取る。 「妹紅! 君はどうなんだ!? わたしの【取引】に応じる気は無いかッ!」 【キラークイーン】の脚で駆け出し、吉影は叫ぶ。 「君はわたしを倒せば、それで満足なのか!? わたしを殺して、そのあとどうする気だ!? 時の流れは残酷だ、やがて慧音も死ぬぞ! お前が知っているものは残らず死んで、必ず君を置いていく!! それだけじゃない! この幻想郷も、外の世界も、時が経てば確実に滅ぶッ! 【終末論】とかそんな類いではない、太陽の膨張によって、遠い未来にはこの地球は灼熱に焦がされた死の星となるのだ! 何十億年後かの話だが、その時はいつか必ず間違いなくお前に訪れる! しかし世界がそうなっても、お前は変わらずその【生き地獄】をさ迷い続けることになる!」 【M2重機関銃】を掃射し、美鈴を牽制しつつ、吉影は声を張り上げる。 「どうする? お前は何時まで生き続けるんだ? 憐れなお前は一体何時まで生き続けなければならない? だが、わたしなら! そんな絶望しかないお前の【未来】を救うことができる! 少しわたしが指で【触れる】だけだ! それだけで君は現世からも、【輪廻】からも完全に脱却できる! わたしにしかできない! 今この機を逃せば、君には二度とチャンスが巡って来ることはないぞッ! さあ、どうする…ッ!?」 「ここで生き残っても、この先生き永らえても、君の未来には苦痛しか待っていてはくれない… 『諦める』のも、勇気じゃないか…?」 鋭い光を放つ吉影の目を、妹紅は燃えるような瞳で睨み返す。 「…【諦め】なんて言葉は……随分昔に捨てた……!」 両手に焔を握り、妹紅は答えを返す。 「『死なない』っていうのはな……【寿命】が無いっていうのはな……何度でもやり直せるってことだ……! 九割九分九厘命を落とす破格の博打にも、私は何度だってこの安い命を賭けられる。 【生きる】ってことは…【諦めない】ってことだ!! そうでしょう!? 私と同じ【不死者】さんよッ!!」 ニィッと不敵に笑い、妹紅は心底楽しそうに吉影を眺める。 【絶望】を克服した、『生きる喜び』に輝く快活な目だった。 「……わたしは…【不死身】ではない… 君と【同じ】だったなら、【あの御方】はわたしに味方して下さることはなかっただろう…!」 吉影が目を細め、キッと睨み返す。 「ハハッ違いないね! …にしても、『何十億年後』云々言い出したのには笑えたよ! そんなずっとずっとずっとずっとずっとずっと先のことなんざ考えてられるかっての!! ま、そんときゃそんとき考えて……」 両手の焔が硬質化し、大きな刃物に変化する。 「【宿敵(あいつ)】のロケットにでも忍び込んでやろっかなッ!!」 両手の焔の刃を、力一杯投げつけた。 「【ストレイ・キャット】!」 さっきと同じように【空気の腕】で受け止め、爆破しようとした。 だが、 「ッ!?」 【空気の腕】に触れる寸前、焔が拡散し、吉影を包み込むように襲い掛かった! 間一髪、焔を固め彼は身を守る。 その時、 「今だッ!!」 妹紅の叫びと同時に、吉影の隙を狙って身構えていたレミリアが、銀のナイフを投擲した。 【グングニル】並みに加速された【気】を満タンにしたナイフは、【固めた炎】に視界を遮られた吉影の【左腕】目掛け、一直線に飛翔する。 ズバシャアァッ 【固まった炎】を貫通し、ナイフは中に飛び込んで行った。 「(やったのっ!?)」 レミリアの一瞬の期待は、しかし呆気なく裏切られた。 「くっ―――――――ッ!!」 無傷の吉影が姿を現し、レミリアに機銃掃射した。 「は、外したっ…!?」 【霧化】して回避し、レミリアはショックを受ける。 「(いつの間にナイフを渡したんだ……!? ナイフが回転していなければ、危なかった…)」 ナイフは槍と違い短いため、【回転】がかかりやすい。 【グングニル】と同じ要領でレミリアが投げたナイフは、【固めた炎】を貫いた際大きく軌道を逸れ、吉影の肩を掠めたのだ。 吉影はさらに【キラークイーン】に【M2重機関銃】を操らせ、美鈴の弾幕を掻い潜り走り続ける。 「はっ!」 彼の走る先を見て、美鈴は息を呑む。 「咲夜さんの方に走ってます! 人質にする気です!」 「そうはさせないわっ!」 吉影の背中を狙い、三人が一斉射撃した。 弾幕が彼の背後に迫ろうとした時、 ザッ 突如吉影はブレーキをかけ、身体を方向転換させた。 襲い来る弾幕の嵐を見据え、吉影は右手を【腕時計】に伸ばす。 「気付いてないか… ここはレミリア、お前がいた場所の真後ろ。 【BITE THE DUST -Channel to 0-】を発動したなら、わたしが妹紅に殺された瞬間、わたしはお前の背後にいることになるのだ。 そして前回の二の轍は踏まん……」 弾幕が彼の眼前に迫った時、【竜頭】に指をかける。 「どうせまた【霧化】していたんだろう? だが今度はそれが『分かっている』… 【ストレイ・キャット】で固めて、まるごと【爆弾】にしてやろうッ!」 弾幕が彼を八つ裂きにする寸前、秒針を【六秒】戻した。 ドオォォォォ―――――z――ンンン……… ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― ――――『19 34 00(二回目)』――― 「―――――――く………… …ぐ……ぅ……ッ!? ぐは…ァ……ッ!!」 【キラークイーン】の腕を振り上げたまま、吉影は硬直した。 「な…… なんだとォォォ……ッ!!!?」 時を戻し、隙だらけのレミリアを一撃で葬らんとしていた吉影は、衝撃のあまり行動を停止していた。 ―――――――彼の左胸に、【銀のナイフ】が突き刺さっていたからだ。 そう、これこそが彼女、十六夜咲夜の『最後の策』。 吉影が『時を戻し』レミリアの背後をとることを予測した咲夜は、自分の主人を囮に使い、吉影を仕留めようと計画した。 気絶覚悟で時を止め、レミリアにナイフを投げ渡した時、彼女はナイフに『ある仕掛け』を施していた。 その仕掛けとは、彼女のスペルカード『トンネルエフェクト』を応用した、『時間を遡るナイフ』だった。 承太郎がDIOの【ザ・ワールド】の影響下で初めて『【止まった時の中】を動いた』ように、 咲夜の【動き】しか遡れないはずの『時を操る程度の能力』は、『【逆転する時間】の中を動く』ことを可能にしたのだ。 ナイフの【柄】を先にしてレミリアに渡せば、あとはその後の【六秒】何をしようと、戻って来る時には自動的に【切っ先】から吉影を貫くだろう。 誰よりも深く『時間を操る』ことを探究してきた彼女だからこそ考案できた、起死回生、一撃必殺の策だった。 「はっ!?」 妹紅に頭を破壊され殺された吉影が消えた瞬間、レミリアは背後に男の驚愕の声を聴いた。 反射的に振り向く。 左胸にナイフが刺さった、吉影の姿がそこにあった。 「ええぇいっ!」 両手に溜めた魔力を、一気に解き放つ! 超至近距離からの弾幕が、吉影の胴をバラバラに粉砕した、 かに思われた時、 バイィ――――ンッ 弾幕は弾力的な物体に弾かれ、その衝撃で吉影の身体は吹き飛ばされた。 「これは……! また【空気の壁】!?」 吉影はさらにバックジャンプを繰り返し、間合いを開く。 ナイフが抜けて、地面に落ち音を立てた。 ザザザ――――ッ、と着地し、吉影は身構える。 彼の左胸からは、一滴の血も流れ出ていなかった。 「(あのナイフは……くそッ! 十六夜咲夜か… 危なかった…まさか【二度】も助けてくれるとは……奇跡としか言い様が無い……)」 彼の大事な一張羅の、穴のあいた胸ポケットからは、満月の光を反射して光物体が顔を覗かせていた。 「(壊れた腕時計……外の世界でくすねてきた同じ型のものを使って【マンダム】の起動スイッチにしていたが…… 早人の【猫草】での奇襲を防いでくれた【ジンクス】から、胸のポケットに入れておいたおかげで、ナイフを防ぐことができた… もしそれが無ければ、【ゼロ秒時点】で心臓を貫かれ、妹紅と同じように無限に死に続ける羽目になっていたところだ… お袋が護ってくれたのか、【あの御方】の御加護なのか…… とにかく、ツキが良いとかそんな次元じゃあない……! やはり【運命】はッ! このわたしに【味方】しているッ!!)」 吉影は【キラークイーン】腹部のスペースに収納されている【ストレイ・キャット】に目を落とす。 「お前もよくわたしを護ってくれた… 【外の世界】に帰ったら、高級刺身を奢ってやろう。」 そう伝えると、彼は顔を上げ、キッと目を鋭くした。 レミリア、妹紅、美鈴が、一斉に襲って来ていた。 「まだ来るか…… 【無駄】だということを教えてやるッ!!」 【キラークイーン】の脚で地面を蹴り、猛然と立ち向かって行った。 「(ヤツの左胸に刺さっていたナイフ…… あれは咲夜のもの…! でも、咲夜に背を向けていたヤツの正面側から刺さっていた…! 何が起きたの…ッ!?)」 【空気の腕】で弾幕を防ぎ、吉影が距離を開いていくのを、神経をはりつめ注視しながら、レミリアは思考を巡らせる。 ふと、彼の胸からナイフが抜け落ちた時、【あるもの】が目に入った。 「(―――――――ん?)」 ナイフの柄に、赤いもので何か書かれている。 目を凝らすと、それが何なのか見ることができた。 ――――『⑨』と、血で書かれていた。 「(―――――――……え?)」 一瞬、レミリアは唖然とする。 「(『⑨』? 『⑨』って……なに…?)」 全く意図が分からなかった。 だが、咲夜が意味の無いことを、こんな状況でするはずがない。 何かを伝えたかったのだ、レミリアに、彼女が話せなかった、何かを。 「うおおォォォォォォっ!!」 妹紅、美鈴が、吉影に飛び掛かっていく。 吉影は【キラークイーン】の脚で俊敏に駆け回りながら、【重機関銃】で迎撃する。 レミリアはモヤモヤしたものを振り払い、戦闘に加わって行った。 「せいっ!!」 妹紅の焔を【ストレイ・キャット】で固め、吉影が【重機関銃】で美鈴を狙う。 「美鈴っ!」 美鈴はギリギリそれを避け、レミリアが援護射撃する。 吉影は跳躍し、弾幕を掻い潜ると、拳銃を抜きレミリアに向けた。 咄嗟に【霧化】した瞬間、【高速空気弾】が彼女の傍で弾けたが、軽傷で済み、追撃を続ける。 「(でも……あの【血文字】、一体あの娘は何を………)」 激しい攻防戦の最中、レミリアの頭にはまだあの【血文字】が踊っていた。 ふと目を落とし、地面に落ちているナイフの柄に焦点を合わせる。 「―――――――!」 その時、彼女は気付いた。 遠目には『⑨』にしか見えなかったが、実は数字の周りの円は『矢印』だったのだ。 しかも矢印は『⑨』の下の部分、即ちこの血文字は『6を反時計周りの矢印で囲ったもの』であった。 「(『6』…? 『反時計周り』……? 『時計を逆に』………、 はっ!?!?)」 レミリアの脳内に、電撃のようにある【記憶】が甦る。 「(そうか…っ!! なんで気付かなかったのかしら……!! ヤツの【能力】は……ッ!!)」 【バイツァ・ダスト】を発動された時、時計塔を見た瞬間。 『一時間時が戻っている』現象の体験。 それらが彼女に語りかけてくるものは、一つだった。 「えぇぇぃやぁっ!!」 美鈴が渾身の弾幕を吉影の頭上に降らせる。 「【ストレイ・キャット】!」 【空気の防壁】を展開しそれを凌ぐと、吉影は【M2重機関銃】をレミリアに向けた。 その瞬間、 「【六秒】!」 レミリアの叫びに、吉影はピタと動きを止める。 「『【六秒】時間を戻す』…… それがあなたの【能力】よ…!!」 レミリアの紅い双眸が、吉影を見据える。 疑問や不安が吹っ切れた、真っ直ぐに勝機を見詰めた目だ。 「「っ!?」」 美鈴、妹紅も動きを止め、レミリアに視線を集中させる。 …はたして、吉影は口を開いた。 「―――――――理解していたのか、我が【BITE THE DUST -Channel to 0-】の能力を… フン…少しだけ誉めてやる。」 面白くなさそうに、吉影はそう言った。 「見破ったのは咲夜よ。 彼女の【覚悟】は無駄にはしない。」 レミリアが【グングニル】を構え、吉影を睨み付ける。 だが吉影は別段焦ることもなく、どうでもいいと言った風な口振りで言い放つ。 「だからどうだというのだ? 理解したからどうするというのだ! 貴様に何ができるというのだ! 間もなく『19 34 06』秒、【六秒】経過!! 時を戻せばそんな【記憶】纏めて吹き飛ばしてやれるッ!!」 そう叫ぶと、吉影はまた【重機関銃】を横薙ぎに乱射した。 三人は散開し、三方向から一斉に吉影を襲う。 だが、既に遅かった。 「忘れてもらうッ!!」 『19 34 06』、吉影が竜頭に手を伸ばした。 バザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ――――――― 「(―――――――――――――― ―――――――え……?)」 刹那の意識の中で、彼は見た。 彼の懐に仕込まれていた、大量の【紙】。 それらが何の前触れもなく、マジシャンの帽子から飛び立つ鳩のように、一斉に飛び出した。 交通事故に遭った人間が見るという、あらゆるものがスローモーションのように見える世界の中、最後に吉影が見たのは、【紙】から次々と飛び出してくる、 薬品 貯水タンク 空気弾 銃器 ロードローラー タンクローリー そして――――――― ドグオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――ッッ!! 出鱈目極まりない威力の爆発にゼロ距離で呑み込まれ四散する、自分の身体だった。 ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― ―――――――『―――19 34 00(一回目)―――』 博麗神社で吉影とレミリア達が死闘を繰り広げていたのと同時刻、人里にて勃発していた戦闘の決着が着こうとしていた。 「邪恋『実りやすいマスタースパーク』!!」 星符『ドラゴンメテオ』を遥かに上回る威力を誇る、彼女の持つスペルカード中最強のスペルが、超至近距離から迸る! 「【エニグマ】ッ!!」 輝之輔は【エニグマ】の上体を起こし、邪恋『実りやすいマスタースパーク』を迎え撃つ!! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオォォォォォォォォォォォォ――――――――ッッ!!!! 光の奔流が【エニグマ】に触れ【ファイル】されていき、鍔迫り合いのように両者一歩も退かず全身全霊を振り絞る。 一進一退を繰り返し、双方死力を尽くした精神力の格闘は、【六秒】経過したことで終了した。 ドオォォォォ―――――z――ンンン…… 吉影が博麗神社で【BITE THE DUST -Channel to 0-】を発動させたことで、時間が【六秒】巻き戻された。 『―――『19 34 00(二回目)』―――』 当然『時が戻った』ことには気付かず、二人はまた同じように【決闘】を始めた。 「邪恋『実りやすいマスタースパーク』!!」 星符『ドラゴンメテオ』を遥かに上回る威力を誇る、彼女の持つスペルカード中最強のスペルが、超至近距離から迸る! 「【エニグマ】ッ!!」 輝之輔は【エニグマ】の上体を起こし、邪恋『実りやすいマスタースパーク』を迎え撃つ!! だが、今回の勝負は、一瞬だった。 バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンッ!! 【前の六秒】で『マスタースパーク』を【ファイル】したという【運命】が発現し、『普段の倍以上のパワー』で、【エニグマ】が『実りやすいマスタースパーク』を【ファイル】した! 「(やった!勝ったッ!!)」 輝之輔が歓喜に身を震わせる! 「だめ押しだッ!! 【エニグマ】ッそいつのミニ八卦炉を奪えぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!!」 「っ――――――――!!」 魔理沙が目を見開き、腕を引こうとした。 だが、遅かった。 『実りやすいマスタースパーク』を紙にした勢いのまま、【エニグマ】がミニ八卦炉へと手を伸ばす! 「うおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」 【エニグマ】がミニ八卦炉に手を掛け、【ファイル】しようとした。 その瞬間! バチィッ! 「ぐあああッ!?」 ミニ八卦炉が謎のエネルギーを放ち、【エニグマ】が大きく仰け反った。 「【緋々色金】は永久不変ッ! 【紙】になんてできないぜッ!!」 魔理沙が叫び、ミニ八卦炉を彼の胸に押し当て、魔力を集中させる! 「し、しまっ――――――――」 【エニグマ】が仰け反り本体が生身を晒している輝之輔に向かって、『マスタースパーク』が放たれた!! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――――ッ!! 「ぐあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――」 零距離からの『マスタースパーク』が直撃し、輝之輔は滅茶苦茶なパワーで吹き飛ばされる! 「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――」 光の奔流に呑み込まれ、民家の壁を幾つも突き破り輝之輔はぶっ飛ばされる。 既に限界を超えていた【スタンドパワー】が枯渇し、すべての【紙】の封印が解除された。 ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――ッッッ!!!!!! 懐の【紙】が暴発し、輝之輔は壮絶な爆発に呑み込まれた。 ・・・・そうして、吉影が運命を変えたことで、輝之輔の敗北が早まってしまったのだった。 BGM efs 『或る従者の閉塞的結論』 ―――――――そして同時刻、博麗神社――――― ――――ズズッ… モノクロの世界の中で、肉片が動いた。 宙を飛んで集結し、人の形を形成する。 「(―――――――誰が言った言葉………だったか……… 我々はみな運命に選ばれた兵士』… え?…くそ……!)」 復活した吉良吉影は、彼にしか認識できない世界の中で、自分の【六秒】の軌跡をなぞる。 「(『だが……この世がくれた真実もある…… 運命はこのわたしに……『時を巻き戻し』……【運命】を操る能力を…授けてくれた… 間違いない………それは明かな真実だ… この世の運命は我が【キラークイーン】を無敵の頂点に選んだはずなのだ…… わたしは【兵士】ではない…!)」 【重機関銃】を振り回しては、返って来る弾丸をその銃口でキャッチしながら、吉影は考えを巡らせる。 「(だが……!! あの【暴発】は…何だ? 【前の六秒】では起こらなかったことが、なぜ今さっき起こったのだ……ッ!?)」 【キラークイーン】の脚で跳ね回り、吉影は【結論】に辿り着いた。 「(……ああ、そうか… わたしが【BITE THE DUST -Channel to 0-】を発動させたから……そのために【運命】が変わって、輝之輔が倒されたのか……)」 まだ燃え盛っている灰色の爆炎の中に飛び込み、虚像のように通過した。 「(【運命】の選別は……わたしの【能力】ではない… わたしにできるのは、ただ『時を戻し、【運命】を固定する』ことのみ…… 【吉良(きちりょう)】を選別するのは、【あの御方】の御意志……)」 なんとなく、予感はしていた。 何かを失敗したり、後悔したりした時、誰しもが一度は思うこと、 『あの時ああすればよかった』 『もし、あの頃に戻れるなら』 それらの願望を指先一つで実現できる、ただ一人の存在、吉良吉影は、しかし、その【能力】を行使する時、このような思いがいつも頭の隅に引っ掛かっていた。 『もし一つの後悔を解決したことで、それより遥かに恐ろしい【運命】に辿り着いてしまったら?』 『もし既に最善の道を選んでいたのに、過去を変えたことで、体験しなくてよかったはずの茨の道を歩くことになったら?』 超常中の超常、外法中の外法とも言える力を有してしまった彼は、その代償を恐れずにはいられなかったのだ。 そして、遂にその時が来たのではないか、そんな考えが彼の脳内で渦巻いていた。 「(もしや…… わたしは自分でも気付かないうちに、この力を『わたしの能力』だと驕っていたのか? そのことで【あの御方】のお怒りを買ってしまったのか? 丁度【あの御方】の奇跡を真似て、言葉や仕草だけ模倣し神を冒涜した、愚か者達のように…… これは…【あの御方】がわたしに下した【罰】なのか…ッ!?)」 自分一人の世界の中、暗黒舞踏を踊りながら、吉影は戦慄する。 疑心暗鬼から生まれた憶測でしかないが、そもそも自分のような【悪人】に、つい昨日まで無神論者だった男に、最後の審判で人類の罪を裁くはずの【あの御方】が味方して下さったことの方が不自然だ。 そして【運命】を操作できるのは、【あの御方】のみなのだ。 これが【あの御方】の御意志であることは、最早疑いようもなかった。 黒い疑惑の雲が彼の心に立ち込める。 「(そ…そんな…事が…あ! これは…何かの……間違いだ… こんな…ヒドイ事が… 植物のように平穏に生きたいと願う…この吉良吉影の人生に…こんな…ヒドイ事が…あっていいはずがない…)」 人外魔境の中、ただ一つの光明が己の手から溢れ落ち、吉影は絶望感に支配されそうになる。 「(だが…こんな時…忘れてはいけないのは… こんなヒドイ時にこそ…最悪の時にこそ! 『チャンス』というものは訪れるという過去からの教訓だ… 『追い詰められた時』こそ…冷静に物事に対処し『チャンス』をものにするのだ… この吉良吉影いつだってそうやって来たのだ…)」 これまで築き上げてきた、自信と誇り。 それらで折れそうな心を支え、奮い立たせる。 「(そうだ…… あの【暴発】がわたしへの【罰】だとは、なにも決まったことじゃない…! 爆発に捲き込まれ、レミリアと妹紅は大きなダメージを負っている……)」 視界の端で、爆炎に呑まれたまま停止したレミリアと妹紅の姿が見えた。 「(今日の【日付】は【外の世界】では、西暦2011年12月10日……【宇宙】が一度滅び、再び創世されてから二週間後の【皆既月食】…… だが【幻想郷】の暦では2012年4月7日土曜、4月上旬の【満月】、その翌日は【イースター(復活祭)】……ッ! 【日付】が変わった時、【あの御方】は三度(みたび)この世に【聖誕】されるはずだ……!! それまで持ちこたえればいい…!! 【あの御方】を信じろッ!! 今まで乗り越えられなかった物事(トラブル)など…)」 【六秒前】の位置に脚を置き、吉影は決意を新たにする。 「(一度だってないのだ!)」 『―――――――心が迷ったなら………キラヨシカゲ、撃つのはやめなさい。』 「(ッッ!!!!)」 突如背後から聴こえた、男の声。 聴いたことのない声だった。 しかも、まだ世界はモノクロのままだ。 この世界で動けるのは、彼以外存在しない。 『よいな…心が迷ったらだ…………撃つのはやめなさい。 【新しい道】への扉が開かれるだろう………』 まだ身動きできない吉影の後ろで、男はそう言い残し、気配が消えた。 「(なんだ……!? 確かに今背後に誰かいたッ! 幻覚とは何かが違うッ! 息遣いと体温があったッ!! 男がいたッ!! 今の男はッ!! いったいどこから来た? まさかッ!!)」 『―――19 34 06(二回目)―――』 世界に色が戻り、時間が元に戻った。 身体の自由が戻った瞬間、吉影は弾かれたように後ろを振り返る。 拳を引き絞り跳躍した、美鈴の姿があった。 「はああぁぁァァァァァァ―――――――ッ!!」 声を張り上げ、美鈴はぐっと右腕を引く。 【六秒前】の位置で、吉影が【復活】するのを待ち構えていたのだ。 【キラークイーン】の左手甲に、全身全霊を籠めた手刀を振り下ろした! ズプシャ――――――― 吉影の左手首から、血が迸った。 「ぐううおぉぉぉあァァ……!!」 吉影の苦悶の声が、満月の夜空に響いた。 「なぁっ……!?」 美鈴は驚愕の表情を浮かべ、吉影を凝視する。 空振ったのだ。 吉影が自ら【左手首】を切断したから。 「ぐっ……ううっ…!! 痛いなァ…なんて痛いんだ…… さっきから何度も、死ぬ程の痛みを味わっているのに……!! だが、これで……ッ!」 バチィンッ! 掌に穴のあいたミイラのような左手が覗き、ドクドクと血の噴き出す傷口を【空気の膜】で止血すると、【キラークイーン】右手の【重機関銃】を向けた。 「―――――――はっ!?!?」 吉影の【自爆】に捲き込まれ、ボロ雑巾のような姿で地べたに這いつくばっていたレミリアは、美鈴と吉影が至近距離で激しく撃ち合っているのを目撃した。 「(くっ……! 失敗した…ッ!?)」 美鈴が【シアーハートアタック】を倒して【遺体】を弾き出し、一斉にトドメを刺す。 その計画が失敗した今、早急に加勢しなければならない。 手をつき、起き上がろうとするが、 「うぅっ……!? 右手が……!」 爆発によって、右腕が肘まで抉りとられていた。 千切れた胴の断面からも血が流れ出て、力が出ない。 「くっ………うぅぅ……っ!! やっと…!追い詰めたのに……!」 起き上がることも、飛行することもできず、悔しさに歯軋りするレミリア。 と、彼女の目に何かが留まった。 「………あれは…っ!!」 猛然と美鈴と渡り合う吉影の背後、血塗れの【空気弾】が、美鈴から遠ざかるように上空へと昇っていく。 中には、吉影が切り落とした【左手首】が入っていた。 「あれを破壊すれば………!!」 望みをかけ、レミリアは上昇していく【空気弾】に狙いを定めた。 「ええええぇぇいッ!!」 発射炎煌めく銃口が吐き出す超音速弾を掻い潜り、美鈴は弾幕を浴びせかける。 「【ストレイ・キャット】ォッ!!」 【空気の腕】で弾幕を爆破し、残った右手でリボルバーを抜き出す。 「っ!!」 先程美鈴の左腕をもぎ取った銃が自分を狙っていることを察知すると、美鈴は俊敏な動作でその照準から外れ、左側面から斬り込んで行く。 「くッ…!!」 【空気の腕】を振るって髪針をガードし、リボルバーを美鈴に向け、撃った。 美鈴は回避するが、【部品(ピン)】が外れた【高速空気弾】が彼女の脇腹に当たり、小爆発する。 「ぐぅっ……!?」 美鈴は顔を歪めるが、怯むことなく猛攻をかける。 「(くそッ! 接近戦で、しかも片手で、反動の大きい長物は不利か…!)」 そう判断した吉影は、【キラークイーン】の脚で後方に飛び退き、 「【キラークイーン】ッ!!」 なんと【M2重機関銃】を美鈴に向かって投げつけた。 「っ!?」 意表を突いた吉影の行動に、美鈴は一瞬だが怯んだ。 その一瞬が命取りだった。 ドグオォォォォッ!! 美鈴の眼前で【重機関銃】が爆発した。 「ぐはっ…!!」 回避し切れず、美鈴の身体を爆圧が襲う。 吹き飛ばされ、残った片足で着地した。 ズザザァ――――、と踏ん張って衝撃を殺し、また追撃しようとする。 吉影も着地し距離をひらくと、 ガシャッ! 【ファイル】を解除され足下に散らばった銃の一つを蹴り上げ、【キラークイーン】にキャッチさせた。 【上下二連式ショットガン】を【キラークイーン】が構え、一斉射撃を加えようとした。 その時、 「はぁっ!!」 吉影の背後に現れた【霊魂化】した妹紅が、彼の背中に焔を浴びせた。 「なァッ!?」 吉影は咄嗟に身体を翻し、サイドステップでかわそうとした。 だが、左足を焔が直撃し、スボンが炎上する。 「ぐ……ッ!」 素早く【ストレイ・キャット】に消火させるが、妹紅が猛追しトドメを刺そうとする。 「くらえッ!」 妹紅が火炎放射で吉影を消し炭にしようと右手をかざした時、 スッ――――――― 吉影は左手を掲げ、妹紅に向けた。 「っ!!」 【あの御方】への恐怖が胸に甦り、妹紅は一瞬動きを止めた。 次の瞬間、 ブシュウゥゥゥゥ――――― 止血の【空気膜】を解除し、噴水のように勢い良く噴き出した鮮血が、妹紅に掛かった。 「うわっ!?」 血を介して【スタンド能力】が【霊魂化】した妹紅に触れ、彼女の身体に【部品(ピン)】を付けた。 血は実体を持たない妹紅の身体を透過して流れ落ち、物が『離れた』ことで【部品(ピン)】が弾け飛ぶ。 ドンドンドゥンッ!! 妹紅の身体中で小爆発が起こり、小柄な彼女を吹き飛ばした。 「(『19 34 10』、あと二秒…ッ!!)」 チラリと【腕時計】に目を落とし残り時間を確認すると、妹紅から美鈴に視線を移した。 美鈴は既に彼の左側面に回り込み、【髪針】を両手に飛び掛かって来ていた。 「うおおおおォォォォォォ―――――――ッ!!」 ショットガンとリボルバーを向け、全力で迎え撃った。 「(時間が無い……!! 【六秒】持ちこたえられたら、また『戻されて』しまう…っ! 【一撃】で決めないと……!)」 【空気弾】で覆われ浮遊する【左手首】に、レミリアは慎重に狙いを定める。 大きく息を吐き、心を落ち着けると、レミリアは右手を【左手首】に向けた。 「はぁっ!!」 レミリアの右手から、幾つもの【ミニチュアグングニル】が放たれた。 小さな紅い槍は満月の空を唸りを上げて飛翔し、まっしぐらに標的へと向かっていく。 一発目が【空気弾】に触れた、瞬間、 ボォンッ 紅い槍は爆破され、塵と消えた。 「(一発目は捨て石…二発目以降ならきっと、ヤツの【左手】をバラバラにできるっ!)」 レミリアが息を呑んで見守る最中、はたして、二発目が【空気弾】に命中した。 ドグオォォォッ! 「(えっ―――――――?)」 二発目以降の【グングニル】も、次々と【空気弾】に触れては爆ぜ、消滅した。 「なんでっ…!? ヤツの【爆弾】は一発きりのはず……… …っ!?」 その時、レミリアは気付いた。 【空気弾】から伸びる、細い【空気の糸】、その先が【キラークイーン】の右手へと続いていることに。 「(【糸】を介して常に触れているから、何度でも【爆弾】にできるの!? それじゃあ……もう…! あの【手】を破壊する方法は無いじゃない…!)」 絶望にうちひしがれ、とうに限界を超えていたレミリアは崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。 全身が悲鳴を上げている。 制限時間も間もなく過ぎようとしていた。 レミリアの心を、どうしようもない絶望感だけが支配していた。 時間が巻き戻されたなら、彼女のこんな感情も残らず吹き飛ばされてしまうのだろう。 彼女が諦めかけた、その時だった。 スパアァァ―――z―ン 突然、空中を漂っていた【左手首】が、【空気弾】ごと切断された。 【手甲】が真っ二つに切り裂かれ、上空で【シアーハートアタック】が両断された。 「~っ!?」 予想だにしなかった現象に驚き、レミリアは声にならない叫びを上げる。 背後に気配を感じ、振り返ると、そこには――――――― 「――――ハァ―――ハァ……っ な……なんとか……ゲホッ… 間に合ったみたいですね……っ」 肩で息をし、ぼろぼろの姿で立ち上がって扇を突きつける、射命丸文の姿があった。 「文……っ! な…なんで……っ!」 『なんで死んだフリしてたんだこのアマ』と続けようとしたレミリアの言葉を遮り、射命丸はニッと笑って話し始めた。 「…いえ、運良く首から掛けてたカメラが背中に回って、盾になってくれましてね……! なんとか直撃は避けて、翼と背中抉られただけで済みました……!」 言い終えると、射命丸は夜空を見上げた。 両断された吉影の左手首が血飛沫を上げて落下し、切り裂かれた【シアーハートアタック】の中から【咲夜の懐中時計】が溢れ出て落ちた。 「向こうは…どうなってますか?」 「……もう終わりそうよ。」 レミリアの視線の先、激戦の末美鈴の投げた【髪針】が吉影の左肩に刺さり、吉影が動きを止めた。 妹紅が右手に凝集させ硬質化させた焔で、彼の胸を貫いた。 「(―――――――!)」 美鈴との死闘の最中、吉影は確かに感じた。 【シアーハートアタック】が倒され、自分の【能力】が消滅する喪失感を。 「(なに……ッ!? 【第一の爆弾】の防護が…破られただとォ…ッ!?)」 思わず振り返り、そして、死んだ筈の射命丸の姿を視認した。 その時彼が見せた隙を、美鈴が見逃す筈がなかった。 「JAOOOOOOOOOOOOッッ!!!!」 声を張り上げ、美鈴は【髪針】を投擲した。 【髪針】は吉影の左肩に刺さり、膨大な【気】を流し込んで、彼の動きを止める。 「ぐうぅ…ッ!!」 筋肉が麻痺し、身動きがとれないが、気力だけで強引に【キラークイーン】を動かし、ショットガンで反撃しようとした。 その時だった。 『―――――――吉良吉影…… 心が迷ったなら………撃つのはやめなさい。 切り捨てるのだ…… 【新しい道】への扉が開かれるだろう………』 「ッ!?」 まただ。 再び彼の背後に神々しい気配が現れ、男の声が彼の耳に響いた。 「(この感じ…! この後光に照らされ輝く神聖なイメージは…ッ!! やはり…!【イエス様】……ッ!?)」 次の瞬間には、背後の気配は無くなっていた。 だが、確かに声は耳に焼き付いている。 「(『迷ったなら………撃つのはやめなさい』………)」 【あの御方】の御言葉を、頭の中で反芻する。 【霊魂化】状態の妹紅が体勢を立て直し、火矢のような速さで迫って来た。 【気】に身体を拘束され、吉影には回避できなかった。 妹紅が右手に凝集させ硬質化させた焔で、彼の胸を貫いた。 「(―――――――もう『迷わない』)」 身体を内側から焼き崩されながら、吉影は【キラークイーン】に最期の命令を下した。 【キラークイーン】がショットガンを手放し、自分の頭に触れた。 「(…………自分を【捨てる】)」 【キラークイーン】が自身の身体をまるごと【第一の爆弾】に変え、スイッチを押した。 「―――――――!?」 美鈴は、見た。 焔の槍に胸を貫かれ、即死しようとする敵の背後、 【キラークイーン】が武器を棄て、自身の頭部に触れたのを。 「(まさか………っ!?) あぶな―――――――!!」 美鈴が叫ぼうとした瞬間、 ドグオオオオォォォォォォォォォォォォ―――――――ッッ!!!! 吉影の身体が爆炎を噴き上げ爆裂した。 「えっ―――――――」 【キラークイーン】の肉体を使い捨てに起爆する、文字通り掛け値無しの【最終手段】。 これまでのどの爆発より強力に、美鈴、妹紅を捲き込み、粉砕した。 だが、【キラークイーン】が自爆を謀る直前、彼が【捨てた】ものは、爆風に煽られて無傷のまま飛んで行った。 【遺体左腕部】、【腕時計】、【マンダム】、【空気弾】に封入されたそれらは、吸血鬼すら灰塵に帰す爆心地にありながら無事であった。 パァン――――――― 『―――19 34 12―――』 【腕時計】を包んでいた【空気弾】が割れて、その衝撃で秒針が【六秒】戻った。 通常状態の【マンダム】が起動し、時間を巻き戻した。 ドオォォォォ―――――z――ンンン…… 『―――19 34 06(三回目)―――』 「―――――――はっ!?」 美鈴と妹紅が気付いた時、既に吉影は行動を起こしていた。 振り向き様に背後の美鈴に【重機関銃】を突き付け、引き金を引く。 「いぃっ!?」 なぜ自分と吉影が生きているのか、困惑する美鈴に生じた隙は、彼女の卓越した察知能力と反射神経をもってしても補い切れないものだった。 ガガガガァンッ! 銃口がカメラのフラッシュのように光を発し、銃声ががなった。 ズバアァァンッ! 「うぐっ……ッ!?」 超至近距離から発射された超音速弾が、美鈴の右腕を千切り去った。 「うおおォォォォォォッ!!」 フルオート射撃の反動を利用し、吉影は身体を反転させる。 その勢いのまま、横薙ぎにフルオートで乱射した。 「えっ!?」 気が付いたら死んだフリをしていた時のまま、地面に倒れていた射命丸は、咄嗟に扇を抜き鎌鼬で弾丸を切り裂く。 両断された銃弾は彼女の傍の地面に着弾し、爆発した。 「きゃあぁっ!?」 爆風に吹っ飛ばされ、悲鳴をあげてもんどりうって地面に叩きつけられた。 「はっ!?」 満身創痍で倒れ込んでいたレミリアは、自分に迫る鉛の豪雨に気付き、反射的に身体を【霧化】させた。 超音速弾は彼女を透過して地面に突き刺さると、爆裂した。 「あぐっ…!」 爆圧に【霧化】した身体が吹き千切られ、レミリアは苦痛に呻く。 「こ、これは……!?」 確かに自爆し、自分もろとも爆風に砕け散ったはずの吉影が五体満足で【重機関銃】を乱れ打ちしているのは、『時間を戻す能力』の結果なのだと妹紅が思い至った瞬間、 ガチンッ! 吉影がリボルバーを抜き、撃鉄を起こし、引き金を引いた。 ロクに狙いもつけず放たれた【高速空気弾】は、しかし、軌道を自在に曲げ、妹紅に命中した。 ドグオオォォォ! 【第一の爆弾】が炸裂し、【霊魂化】した妹紅の身体を抉りとった。 「ぐああぁァッ!!」 派手にぶっ飛ばされ、きりもみ回転して地べたに落ちた。 一瞬で四人を戦闘不能に陥らせ、吉影は踵を反し走り出す。 彼の目の先には、うつ伏せに倒れ動かない咲夜の姿。 「(ああっ……!)」 一直線に吉影の向かう先に気絶した従者がいることに気付き、レミリアは愕然とする。 あの男のことだ、人質なんて生易しいことには使うまい。 「(まずいわ、咲夜を【憑代(よりしろ)】にして、【バイツァ・ダスト 吉良吉影特製リワインドウォッチ】が発動してしまう…!!)」 「(またこの【一時間】も……失敗してしまった…か!)」 猛然と駆けながら、吉影は考えを巡らせる。 「(輝之輔が倒された今、【計画】は頓挫した… 恐らく親父も危険に晒されているに違いない…! 十六夜咲夜にも【バイツァ・ダスト】の存在を知られるのはリスクが高いが、やむを得ん…)」 【キラークイーン】の脚で地面を蹴り、咲夜のもとへと急ぐ。 「(咲夜を【媒体】に、【バイツァ・ダスト】を発動させる! リスクはつきまとうが、メリットもある…… 今回の【取引】は、彼女のせいで決裂した。 だが、【次の一時間】では奴は口を挟むことができない! 時が戻った後、即座に交渉に向かえば、容易くレミリアを籠絡できる…! 或いは、レミリアの『運命を操る程度の能力』を我が物にできたように、咲夜の『時間を操る程度の能力』をも手中に収めることができるかもしれない…! この『ブッ飛ばした一時間』分の時間を【須臾】にまで分解し、それをわたしのものとして使って、時間を止めたり、加速させることも可能になるかもしれないッ…!)」 咲夜の身体はすぐ目前だった。 地面を強く踏み締め、跳躍する。 「(そうだ……! 『繰り返す』度に、わたしは強くなる! 『巻き戻す』毎に、【障害】は取り除かれる…ッ! そうして全ての【不安要素】を塗り潰し、万全の準備を整えて、博麗の巫女に挑むのだ… 那由多の道の中で、【正解】がただ一つであっても…! 全ての道を残らず踏破すれば、【100パーセント】だッ! 何度間違えようと、どれだけ傷付こうと…ッ!)」 咲夜を飛び越え着地し、振り向き様に【キラークイーン】の左手を振り上げる! 「(何度だろうとッ!! やり直せばいいッ!!)」 咲夜に向かって、手を振り下ろした。 バヂバヂィッ! 【キラークイーン】の指が咲夜に触れようとする寸前、突如吉影を閃光が包み、電撃に撃たれたような衝撃が全身を駆け巡った。 「な………あッ…ッ!?」 身体を仰け反らせ、吉影は硬直する。 【キラークイーン】もその空間に縫い付けられたかのように、微動だにできない。 「えっ……?」 レミリア、美鈴、射命丸、妹紅は、目を見開いて吉影の異変を見つめる。 ―――――――クパァ 「ッ!?」 彼の眼前で空間が割け、無数の瞳が覗く悪趣味な紫の亜空が現れた。 中から腕が伸びて、咲夜の襟を掴み、続いて【キラークイーン】腹部のスペースで縮こまっていた【ストレイ・キャット】を握ると、紫の亜空間の中に引き込み呑み込んだ。 「くっ……… こ…っ、これ……ッ…は………ッ!!」 鉄の棺の中に閉じ込められたように、強烈な重圧に縛られ身動きできない吉影は、辛うじて瞳だけ動かし、【それ】をみた。 「うわあ…神社炎上中ってレベルじゃないぜ。 焼け跡すらも残ってない! こりゃ、今すぐ退散した方がいいかもな…巻き添え喰っちまう前に。」 「聖! あの男です! 【妖怪殺し】の外来人は…!」 吉影から離れた場所で空間が割け、ガヤガヤと話しながら人影が降り立つ。 魔理沙と命蓮寺の面々だ。 「まあ、酷いこと。 天人の地震騒ぎの時の比じゃないわね。 地盤や植林から修理していかないと。 いっそ、里の傍にでも移転したらどうかしら? 参拝者も増えるわよ。」 日傘を差し、金髪を夜風に靡かせて、優雅に佇む妙齢の美女。 彼女の後ろには黄金色の九本の尾を持つ女が、咲夜と【ストレイ・キャット】を抱え控えている。 「う……… うう…………う… 吉影………吉影ェェ…………」 その女性の後ろには、全身バラバラにされ、輪切りのハムのように成り果てた吉良吉廣が、半透明で妖しく紫に光る結界の中に無造作に放り込まれていた。 「(親父……ッ!!)」 ギリッと歯を軋ませ、凶悪に表情を歪める。 スッ――――――― 金髪の美女が指で空中を撫でると、空間が割け、中から【シアーハートアタック】が飛び出した。 「コッチヲミロォ~!」 美女に向かって突進しようとするが、空間の裂け目が【シアーハートアタック】を挟み、動きを封じる。 美女は人差し指と中指を立て、【シアーハートアタック】を斬るような仕草をした。 シッパアァァァ―――――――ン 空条承太郎の【スタープラチナ】の、『オラオラのラッシュ』でも砕けなかった【シアーハートアタック】が、バラバラに切り裂かれた。 ブシャァッ―― 【シアーハートアタック】のダメージがフィードバックし、左手甲がサイコロステーキのように切り刻まれ、抉れ飛んだ。 「ぐううゥ……ッ!?」 ぽっかりと穴があいた左手甲は、十字架に釘で打ち付けられた【遺体】のそれとぴったり重なっていた。 まるで【あの御方】の救済劇をなぞるように、これから吉影にも降り掛かる【受難】を予言しているかのようだ。 紅い華の如く弾けた血飛沫が指先まで飛散し、滴となって手首に伝う。 【シアーハートアタック】の体内から【咲夜の懐中時計】が落ち、開いた空間にキャッチされた。 空間は咲夜の上に繋がり、【懐中時計】は彼女の胸の上に落ちた。 「バカ言わないでよ。 ここから神社を移動なんてできないことくらい、貴女が一番分かってるでしょ?」 美女の前に歩み出た少女を視認して、吉影は愕然と表情を強張らせる。 ―――――――紅いリボン、 紅白を基調とした衣装、 どうやってくっついているのか不明な袖、 右手に握った祈祷棒、 神技『八方鬼縛陣』で吉影を拘束し、養豚場の豚を流し見るような目で、博麗霊夢が彼を睨んだ。 ED ゼッケン屋 『THE LEGEND OF HAKUREI CHANG』【ttp //m.youtube.com/watch?gl=JP hl=ja client=mv-google v=EQZpn7tzJhY】 ――――――――――――――――――――― ―――――――――――――― Magna culpa nostra(我らの罪は重く) Poena danda nobis(罰を受けねばならぬ) You can t force yourself upon me(汝の意思を強いる事はできない) And you never will(汝も左様な事はしまい) You can t keep digging in Desecrated graves(冒涜の墓を掘り続ける事はできない) No more innocence left to spill(血を滴らせる事以外に純白を示す手段は残されていない) Don t be afraid,participate and(恐れず戦列に加われ) Just give us all your trust(我らに全てを委ねよ) Your soul will be saved(さすれば汝の魂は救われん) Just honour me,(我を称えよ) I ll set you free so(自由を与えん) Get ready to join the Very last crusade(最後の聖戦に備えよ) Get ready to taste the Final victory(最後の勝利に備えよ) Ad finem temporum(終末の時に) ―――――――キャスター作『マモン平原会戦のウスター伯ヴィランデル図』 槍衾の絵の前で集った彼らは今、こうして槍衾の前で再会した。 かくして役者は全員演壇へと登り、暁の惨劇(ワルプルギス)は幕を上げる。
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「こいつがもう少し潤っていたなら……『わたし達』の運命も少しは変わっていただろうに……… なあ?妹紅………?君もそう思わないか?」 吉影が振り返る。 その視線の先、鳥居の下。 藤原妹紅は立っていた。 左手から鮮血を滴らせながら―――――― ザッ――― 妹紅が足を踏み出し、吉影に向かっていく。 ザッ――ザッ―― 幾星霜の時を永らえたとは想像だに出来ないほど若く美しい左手があるはずの手首には、脈動に合わせて血を噴き出す断面が顔を覗かせていた。 境内に大量の血痕を残しながら、妹紅は吉影に迫って行く。 ――ザッ 妹紅が、足を止めた。 「 ――――――――――川尻―――」 妹紅が顔を上げ、キッと吉影を見上げる。 「なぜ―――なぜ私を殺したッ!?」 怒り、哀しみ、失望、困惑 ――――――――――そして、得体の知れないモノへの恐怖 ―――――――――― 様々な感情が彼女の表情と声の中で複雑に渦巻いていた。 吉良吉影が、口を開く。 「『一体何故?』 満月の魔力に冒され、 理性を奪われ、 狂気の檻に囚われて、 哀れにも『大切な友人』と無理矢理に闘わせられているのだよ。 ―――――――とでもわたしが答えれば……満足かね妹紅」 「ッ………!?」 妹紅が愕然と目を見開く。 「わたしは何者にも影響されずにここに立っている。 わたしはわたしとして立っている。 『川尻浩作』ではなく、『吉良吉影』としてここに立っている。 わたしはわたしの殺意を以て ――――――この十五夜の下、お前を始末しようと思う。」 ギラリ、吉影の瞳が殺気に輝く。 ゴクッ――――― 妹紅の喉が鳴る音が聞こえるほどの、耳が痛くなるほどの静けさ。 「 ――――――――――フフ」 かと思うと、吉影は突然忍び笑いをする。 「……………なんだ………ッ!?何がおかしい……!?」 妹紅が不気味さに気圧されながらも、吉影に問い掛ける。 「フフフ…… わたしは…子供のころ…『ミロのビーナス』といって、とてもとても美しい彫像があるんだ……その像…画集で見た時だがね、あの『ミロのビーナス』の『手』の無い両腕…あれ…初めて見た時……そのさきにあった『手』はどれほど美しかったのだろうか……なんて、想像していたら………なんていうか…その…下品なのだが…フフ…欲情……しちゃってね………」 吉影の顔に浮かぶ、恍惚の表情。 ゾクッ ―――――― 妹紅の背筋を、悪寒が走り抜ける。 「『見ている』だけでは我慢出来ずに………想像の中で『手』のとこだけ切り抜いてみたんだ…そうしたら…… これ以上無いほどの『幸福感』が……わたしを満たした……… 君のは…現実に切り抜いたがね…」 吉影が感動と悦楽に身を震わせる。 「 ―――――――――― ―――――――く―――」 数秒間の沈黙のあと、妹紅が絞り出すような声で言う。 「……く………、 …狂ってる…………」 ようやく押し出した言葉を、しかし、吉影は鼻であしらう。 「『狂っている』?フン、ようやく絞り出した言葉がそれか?」 冷徹すぎる台詞に、妹紅の心はさらに締め付けられる。 「 ――――――フフフフ…その様子を見ると、本当に君は信用していたんだな、このわたしを。」 口角を上げ、吉影は笑う。 「どうやらわたしの演技力も捨てた物ではなかったようだな。 わたしの即興の『物語』の感想、今聴かせてくれないだろうか?」 「…もの……が…た……り…?」 意味が分からず、妹紅が呟く。 「覚えているだろう?わたしが君に話して聴かせた、『わたしの過去』。あれはな妹紅、『嘘』だったんだよ。」 「―――ッ!!」 妹紅の表情に滲んでいく、裏切られた喪失感と失望感。 「どうだった?ン?聴かせておくれよ、あの時思った事を、正直に。 な、わたしの即興の『出鱈目』を、わたしの『演技』を見た感想をだよ、お人好しの妹紅。 どう思った?感動したか?貰い泣きしそうだったかね? ―――――――それとも…………」 整った顔を下劣に歪め、吉影は嘲笑を浮かべる。 「『同類』………だと…、思ったのかね………?」 「ッ!!!?」 残酷な、あまりにも残酷な、吉影の言葉。千年もの時を行き永らえてきた妹紅の不屈の精神力も、軋み、音をたてて揺らいでいく。 「 ――――――お前はッ!!」 妹紅の双眸が、怒りに紅く染まる。 「お前はッ!!いったい何なんだッ!!」 静けさが支配する神社の境内に、憤怒の声が響き渡る。 「言わなかったかね?わたしはただ『趣味』に対して前向きでいるだけなんだよ。 そしてその『趣味』――『性(さが)』が……… ……端的に言えば…『人殺し』、というだけさ………」 「………ッ!!」 妹紅が、絶句する。 「『狂っている』?何を今更!!一月程言うのが遅いぞ!! 一体君はわたしをどんな人間だと思っていたのかね?私が黒衣のマントに大鎌を携えていれば良かったかな? 私は連続殺人鬼(シリアルキラー)だぞ?一体何人殺してきたと思っているのかね?殺戮と略奪を呼吸するかの様に行うドクロの男にかね?」 吉良吉影は、隠さない。 彼は『本性』を隠さない。 もはや隠す必要は無いし、無意味だからだ。 ―――――――そして何より ―――― 彼自身、ずっと望んでいたからだ、己の殺意を『打ち明ける』事を。 「 ――――――――――わかった―――」 妹紅の服が、バチバチと火花を散らす。 「お前が『そういう』男だったなら ――――――――――」 妹紅の立つ石畳が、赤く熱を発する。 「私がお前を、ここで止めてみせる!」 妹紅の瞳に、『漆黒の炎』が映り込む。何者をも凌駕する、暗い輪廻から解き放たれた人間にしか持つ事の赦されない、超越者の放つ輝きだった。 その圧倒的な力量差を目前にしても、吉影はその只中で不敵に笑う。 「よろしい!!結構だ!!ならば私を止めてみろ自称健常者!! しかし残念ながら私の敵は君などではないね。少し黙っていてくれよ『土に還る事さえできない燃え粕』。私の敵は幻想郷!!『非常識の世界』!! いや!!ここで何時も茶を飲んでいる小娘だッ!!!」 吉影も不敵に笑い、臨戦態勢に入る。 「――――――――――私は、人として生きる上で最も大切な事は『信頼』であり、最も忌むべき事は『侮辱』であると思っている。不死となった今でこそ、本当の生きる上で『価値ある事』はそれだと考えている。 だが………吉良吉影、お前は私の【信頼】を【侮辱】した。私自身にとって、最も許せない事をしたんだ。」 妹紅の髪が、燃え上がる。 「覚悟しろ……!怪我では済まさないッ!!」 妹紅の背中に、一対の翼が現れる。紅蓮の火焔が形成するそれは、まさしく鳳凰の翼、そしてそれを纏う妹紅の姿は、まさに不死鳥であった。 「…………ところで……」 吉影が懐に手を入れ、 「君から奪った『左手』だが……」 妹紅の左手を取り出し、持ち主に向けて示す。 「―――人間の魂ってのは……生きていても死んでいても、常に一つ…… たとえ、肉体を切り離されようともな…… だから、残しておいたんだ………お前の居場所を探知できるように……その代わりに、ここに来るまで何十回も出血死したがな……」 妹紅が鋭く吉影を睨む。対して吉影は妹紅に目をやることさえせず、手元の手首に目を落とす。 「素晴らしい……とてもなめらかな関節をしている……白くってカワイイ指だ…… それに、かなり時間が経っているのに、まだ温かい……この様子だと『匂う』こともないんじゃないかな?だとすれば、本当に素晴らしいよ、『君』は…………」 感心するように溜め息を吐くと、吉影は妹紅に目を向けて―― ――――――スル…… 腕に仔猫を抱くように、その頭を撫でるように、なめらかな手の甲に指を沿わせた。 「っ?」 妹紅が見ている前で、吉影は手首を愛しそうに撫で回す。 「ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン ―――――――」 スルスルと、吉影の手が妹紅の手首を弄ぶ。 指と指を絡ませ、しっとりと白い肌を、貪るように愛撫する。 「っ――!?」 妹紅の顔が赤くなる。 「ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン ――――――――――」 手首を丹念に撫で回すと、吉影は腕に抱くそれを唇に近付け ―――――――――― ペロ ―――――― 「なぁっ ――――――――――!?」 舐めた。妹紅に挑発的な視線を送りながら。 「ッ……お…お前………ッ!」 怒りと嫌悪感を滲ませ、妹紅は怒鳴る。 「このネクロフィリア(屍姦症)ッ!!」 妹紅は宙に飛び上がり、吉影に向かって飛翔する。 「この藤原妹紅、容赦せん!!」 妹紅が振り下ろした掌と共に、火炎の弾幕が放たれる。 「フンっ……来たか……」 吉影はニヤリと笑い、あれほど大事に抱いていた妹紅の手首を無造作に放る。 「シアーハートアタック!獲物だッ!」 吉影の声と同時に、 ドグオオオォォォォォォ!! 空中で手首が爆発し、塵と化した。 「ぐぅッ!?」 突然妹紅が苦痛の声を上げ、ガクリと地に落ちる。 吉影は爆風を利用して賽銭箱を飛び越え、背面跳びのように拝殿へ飛び込む。 「親父ッ今だ!!」 「任せろ吉影!」 拝殿に潜んでいた吉廣が写真から顔を出し、宙を飛ぶ息子にカメラを向け、シャッターを切った。 パシャッ! ストロボの眩い光と、機械的な作動音、それに続くように排出される一枚の写真。 吉影は空中で身を翻し、畳に着地すると、眼前に迫り来る火炎の大玉を不敵に眺める。スタンドを使用できないにも関わらず、自分には決して当たる事はないと確信しているかのように。 弾幕が拝殿に突っ込み、炸裂した。 ドオオオォォォォォォン!! 妹紅の憤怒を具現化させたような灼熱の火の球は、博麗神社の内部をお構い無しに爆砕した。火柱が瓦葺きの屋根を突き破って満月の空を紅く照らす。だが―――――――――― 「ぐっ…………う……!?」 膝を折り、血の滴る左手首を押さえ神社を見上げる妹紅の両の目が、驚愕に見開かれた。 「おいおい………あんな出鱈目な威力の弾幕を撃つなんて、どういうつもりだね?当たったら確実に死んでいたところだぞ。」 吉影は炎上する神社の中、悠然と立ち、余裕綽々と妹紅を見下ろしていた。 「『キング・クリムゾン』―――――――君の攻撃はわたしに届く事はない。」 よく見ると、火は吉影のいる拝殿には一切放たれておらず、燃えているのは拝殿の外のスペースだった。 「(親父、よくやってくれた。引き続き人里で『人質』を集めてくれ。)」 「(了解じゃ。)」 吉廣に向かって呟き、吉廣は写真の中に姿を消した。 「ぐっ……!?ぐあぁぁぁぁぁぁ……ッ!!」 左手首を押さえ、蹲り苦悶の声を上げる妹紅に、吉影は嘲るように言い放つ。 「水面にいくら石を投げ込んだとて……影をいくら踏みつけたとて……水面は消えず影は消えず……そういうものなのだそれは それは生も死も全てがペテンだ 何とも不死身で無敵で不敗で最強で馬鹿馬鹿しい――――― ―――――と、そう思っていたよ………わたしも、君もな。」 吉影の瞳は神社を焼く業火を映し紅く輝く。 「だが………この世に永久機関など無いように、君の不死身もやはり『糧』を必要とする…… それは永久不変かつ無尽蔵、そして命ある者全てが持つエネルギー、『霊魂』―――――――― 川を消したいなら、上流で【水源】をせき止めてしまえばいい。 影を消したいなら!【明かり】を消してしまえばいい。 ―――――――では、その魂を根本から消し去れば――――――――――」 妹紅が呻き、歯を食い縛り立ち上がる。想像を絶する痛みに、脳が麻痺しかかっていた。 「君の不死身の肉体も、雲散霧消する筈だ…………」 「コッチヲミロオ~」 吉影と『シアーハートアタック』の視線の先、妹紅の左手首からは、醜く焼け爛れた左手が顔を覗かせていた。 「うーん……まだ完全に『シアーハートアタック』で魂を消し飛ばす事は出来ない…か。なんとも醜くなってしまったな。せめて『彼女』とは綺麗なまま別れたかったのだがね……」 頭を掻き、吉影は残念そうに、そして吐き捨てるように呟く。 「まあいい……醜い『彼女』の姿をこれ以上見なくて済むよう……跡形も無くまるごと始末しろッ!シアーハートアタック!!」 ウィーン! 『シアーハートアタック』の落ち窪んだ双眸が妹紅の姿を捉え、 「コッチヲミロオォォォ~!」 キュラキュラとキャタピラを鳴らし、突撃していった。 「さあッ!!死に損なえッ!!」 BGM 天野月子『銀猫』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――十数分後、人里 「くっ…… (変身した上、オリジナルを操る能力……なんて厄介な能力だ……!)」 慧音はギリッと歯を食い縛り、抗おうとするも、肉体の支配権はすでに『サーフィス』に奪われており、全く力が入らない。 「(コイツは完璧なコピー…顔、骨格、体格、声、指紋、匂いまで吉影と瓜二つだった……私の力でも見抜けないわけだ…!)」 「やれッサーフィス!その女の喉笛をかっ切るんじゃァ!!」 『サーフィス』が腕を動かし、喉元に何かをあてがうような動作をした。 同時に、剣を握る慧音の手が抵抗無く彼女の喉笛に刃を近付ける。 「ぐっ…!? (マ、マズイ!) うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!」 慧音は咄嗟に弾幕を放った。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド 「っ!!」 『サーフィス』は驚いたものの、素早い身のこなしで全弾防ぎきる。だが、その防御の動きのために慧音へトドメを刺す動きが一瞬遅れた。 「えぇぇぇぇぇいっ!」 慧音は死に物狂いで弾幕を乱射する。 「ぐぅっ!?」 『クレイジー・ダイヤモンド』の投げたシャーペンを易々とキャッチできる『サーフィス』でも、至近距離で雨のような弾幕を浴びせられては受けきれない。胸ポケットの『写真』にダメージがあれば主人が死ぬ可能性もあるため、胸ポケットを庇い弾幕を浴びる。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド! 「あぐぁっ!」 『サーフィス』の眉間に弾幕が命中し、大きく後ろに仰け反った。それと同時に、慧音の肉体は呪縛から解放される。 「(! やった、動く!)」 慧音は空中で身を捻り、吉廣の放った『ビーチ・ボーイ』を避けると、落とした蓑をひっ掴み被り、姿を消した。 「くそったれがァ!」 吉廣が『ビーチ・ボーイ』を滅茶苦茶に振り回し慧音を探すが、既に逃げられていた。 「おい間田ァ!なぜ操った慧音を逃しやがった!」 『サーフィス』の胸ポケットの『写真の小窓』の向こうにいる間田敏和に、吉廣は怒りの矛先を向ける。 「い、いや、ワザとじゃない!俺はちゃんと言われた通りに殺ろうと――――――――――!」 おろおろと弁解する間田を、吉廣は怒鳴り付ける。 「ふざけるなッ!お前の『サーフィス』は痛みを感じないんじゃろう!?いくらこの木偶(デク)が傷付いても、構わず奴を始末できた筈じゃ!!」 怒り狂う吉廣に、自分の『魂』を人質に取られている間田は切羽詰まって堰をきったように言葉を吐き出す。 「ほ、本当だ!俺の『サーフィス』は操る分には良いが、逆に『相手に動かされる』と『能力』が一瞬解除されてしまう!本当なんだ、信じて――――――――――」 「なんじゃとォ!?なぜそれを言う馬鹿野郎!!」 吉廣の表情が鬼のような形相になるのを見て、間田は身を縮ませる。 「こっちの会話は奴に筒抜けじゃぞ!弱点が判れば、奴は真っ先にそこを狙って来る!なんでそんな事も分からんのじゃ!!」 がなりたてると、 「いいか!余計な事は喋るなよ!?黙って奴を見張って見つけ次第殺せ!二度目は無いぞ、いいなッ!?」 そう吐き捨て、輝之輔と共に辺りを見回す。 「いいか輝之輔…慧音は絶対に倒さねばならん……奴を逃せば『人質』をゲットする事は絶望的になる……」 ギリリと吉廣が歯軋りする。 「でも、『サーフィス』が奴に触れられて形勢は有利になったんじゃないですか?『サーフィス』はオリジナルの肉体を完璧にコピーする『スタンド』、しかも自身の破損お構い無しにパワーが振るえ、スピードも東方仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』の攻撃を見切るほど、そして『オリジナルを操る能力』―――ガラス越しでも通用するんですから奴が蓑を羽織っていようが効果はあるはず。これで奴は不用意に近づけない――――――――――」 辺りを見回しながら頭から被った蓑を払い落とす動作を繰り返す『サーフィス』を横目で見やり、輝之輔は応える。 「―――――――――確かにそれは言える。じゃが、奴がさっきまでわしらと闘っていたのは、『吉影との決着』のためじゃ。それが無くなった今、奴がこの場での戦闘を放棄して援軍を呼びに行く可能性も捨てきれん………」 緊迫した表情で、吉廣は言う。 「――――――――とにかく奴を探すんじゃ。今できる事はそれしか無い………」 吉廣が『ビーチ・ボーイ』を振り上げ、投擲しようとした時だった。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!! 頭上から襲い掛かって来た膨大な数の弾幕に、三人は驚愕と共に空を見上げた。 「ッ!!!?」 「なッ!?」 「ぐぅっ!!」 輝之輔は『エニグマ』で自分と吉廣を庇い、『サーフィス』は懐から紙を抜き『ファイルした爆発』で弾幕を打ち消す。 「サーフィス!何をやってる!?早く奴を操れ!」 「今やっている!」 『サーフィス』が上空を見上げ自分の首を締めたり蓑をひっぺがす動作をするが、何も起こらない。 「どうした!やったのか!?」 「いや、手応えが無い……おそらく逃げられた。」 『サーフィス』が顔を下ろし、吉廣にそう告げた時、 「後ろじゃサーフィス!!」 飛ばした『ビーチ・ボーイ』の糸を伝う音の振動を感知し、吉廣が叫ぶ。 「はッ!?」 『サーフィス』は咄嗟に振り向き、紙からマンホールの蓋を抜いて防御する。 ドガアァァァ!! 「ぐあっ!」 マンホールの蓋に強烈な衝撃が走り、『サーフィス』が大きく後ろに吹き飛ばされる。 ザザァーッ 着地し衝撃を殺すと、『サーフィス』は慧音を操ろうとする。 「駄目じゃ、逃げられた!」 吉廣が『ビーチ・ボーイ』に耳をあて、気配が消えた事を告げる。 「―――ッ!?」 『サーフィス』の握るマンホールの蓋を見て、輝之輔は戦慄する。 「――――――――――よ……吉廣さん…さっきあんた、奴に闘う気が無いかもと言っていましたよね………」 ブルブルと指を振るわせ、マンホールの蓋を示す。 「全然殺る気ですよ……あいつ……」 マンホールの蓋はとてつもなく強大な力で―――――それこそ化け物のような―――――殴られたように、グシャグシャにへしゃげていた。 「あいつ…本気だ……吉影の姿の時、顔面を殴られた時のパワーとはとても比較に成らない……… ―――だが」 『サーフィス』が両手で握るマンホールの蓋が、グニャリとバターのように歪み、 「それは『私』も同じだがな………」 クシャクシャと紙屑のごとく丸められ、鉄屑と化した。 それをゴミ箱に放るように軽く投げると、みるみる高く飛んでいき、 ドグシャァッ! 落下し民家の瓦屋根を突き破った。 「確かに、パワーとスピードでは互角以上……じゃが、お前も分かっておるじゃろう、奴の能力は侮れん。」 吉廣は『ビーチ・ボーイ』を振り上げ、二人に顔を向ける。 「幸い、奴の気配は『ビーチ・ボーイ』で探知できる。コイツの糸を張り巡らして、徹底的に探してやる。 二人とも、できるだけわしの近くに寄れ。バラバラの時にいきなり襲われたら、一人づつ順番に倒されとしま―――――――――」 吉廣が言葉を言い終わる直前、 「「ッ!?!?」」 吉廣、輝之輔と『サーフィス』の間に、突如壁が出現した。 「えっ!?」 「なぁッ!?」 ハッと気付いた時、吉廣と輝之輔は既にどこかの部屋の中にいた。 「こ、ここは…民家の中!?また奴の『能力』か!? マズイ、『サーフィス』と分断されたッ!」 吉廣と輝之輔は自分達のいる部屋を見回す。 「エニグマッ!」 『サーフィス』のいた方向の壁を紙に変え、バリバリと破り取り、穴を穿とうとする。だが―――――――――― 「――――――ッ!?」 確かに引きちぎり、人一人楽々通り抜けられる穴を開けた筈の壁は、何事も無かったかのようにまっ平らな表面を涼しげに向けていた。 「お、親父さん…………」 輝之輔が身体を振るわせ、吉廣を見る。 「こ、これって……… かな~りピンチなんじゃ………」 輝之輔の目に、怯えの色が広がる。 二人は冷や汗を吹き出させながら、部屋の中をキョロキョロと見渡す。 見えざる敵は何時どこから襲って来るだろうか、 彼女はここにあるどんな物も透過し、必殺の拳を叩き込むことができる、 背後の壁、頭上の天井、足下の床、全てに敵が潜んでいる気がし、ますます彼らの恐怖心を掻き立てる。 二人は今、『狩る側』から『狩られる側』に立たされた自分達の状況を、底知れぬ恐怖と共に痛感していた。 「――――――――――『この世をば 我がよとぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば』―――――――――― 君の一族のある男が詠った歌だ………」 吉良吉影は、灼熱の業火が染める拝殿の只中、そこが夕日の照らすのどかな丘だとでも言うように、いたって気楽な調子で話し掛ける。 「馬鹿な男だ……完全な不死を手に入れた君にすら、永遠の栄光など掴めなかったというのに……… ――――――ところで――――」 吉影は拝殿の外を見やり、のんびりとした口調で言葉を投げ掛ける。 「君は月齢に例えると今どのくらいだね……? 既望(きぼう)?立待月(たちまちづき)?居待月(いまちづき)辺りかな……?」 ドサッ 息を荒げ、妹紅が片膝を着く。 「ハァ――――――ハァ―――ハァ―……… ………ぐッ……! (な……なぜだ………!?ヤツのいる部屋だけ、いくら攻撃しても燃え移らない……!煙にまかれてもいない…まるであそこだけ空間を飛び越えているかのように……!!)」 吉影を怒りに染まった目で睨み付ける妹紅の左手、右足首は、完全に消失していた。焼け爛れた肉と骨が覗く断面からは、脈動と共に鮮血が迸る。 「――――――――――が………は………!?」 血を失い、妹紅の身体は力無く地面に倒れ伏す。 「チャンスだ!やれッシアーハートアタック!!」 吉影の命令と同時に、『シアーハートアタック』が妹紅に向かって突っ込んでいく。 「コッチヲミロォ~」 動けない妹紅の頭を吹き飛ばそうと、髑髏の爆弾戦車が迫る。 「――――――――――ぐぅっ……!」 妹紅は闇に堕ちようとする意識をギリギリ繋ぎ止め、最期の力を振り絞る。 「うおおおおおおおぉぉぉぉ――――――――――!!」 ドグオオオオオオオオォォォォ!! 妹紅の身体が爆裂し、塵と化した。『シアーハートアタック』に爆炎が直撃し、爆発するが、一切ダメージも無く元気一杯に駆け回る。 シュウウウウウゥゥゥゥ―――――――――― 「――――――――――『リザレクション』…」 燃え盛る爆炎の中から、妹紅が蘇生した。だが―――――――――― 「ぐっ………う……!? (くそっ…………やはり………!)」 吹き飛んだ彼女の左手、右足首は、失われたまま修復されることはなかった。 「フフフ………だいぶコツを掴んできたようだ。魂を残さず爆破するコツを。」 吉影が邪悪な笑みを浮かべ、妹紅を見下ろす。 「さあ『シアーハートアタック』!そいつを爆殺しろ!!」 ウィ~~ン 「コッチヲミロォ~!」 『シアーハートアタック』がギャルギャルとキャタピラを回転させ、妹紅に襲い掛かる。 妹紅は残った左足で跳躍し、炎の翼で空を叩き後退すると、 「せえぇぇぇぇい!」 火炎の弾幕を扇状に乱れ撃ちした。 ドグオオオオオオオオォォォォ!! 弾幕に突っ込み、『シアーハートアタック』が爆発する。 バシィッ! 「あぐっ!?」 爆炎が妹紅の肩を掠め、衝撃で大きく体勢を崩す。 「(かすっただけでこの威力……!畜生、なんだこの『見えない爆弾』は…ッ!)」 爆発の起こった場所を睨み、妹紅は思考を巡らせる。 「(だが……この『スタンド爆弾』、いくつか見抜く『パターン』がある……)」 妹紅は気を集中させ、全身から熱を放出した。周囲の温度が急激に上昇する。 ドグオオオオオオオオォォォォ!! 先刻爆発が起きた地点ゆり手前で、再び爆発が起こった。 「(一つ、この『空飛ぶ爆弾』は『熱』に反応して爆発する。)」 妹紅は爆発の起こった場所からさらに距離をとり、今度は両腕を広げ温度の異なる炎弾を放った。 ドグオオオオオオオオォォォォ!! 右手から放った炎弾の近くで、爆発が起こる。 「(二つ、『爆弾』は『温度の高い物』を優先して追撃する。)」 妹紅は炎の翼を消すと、再度熱を放出し、周囲の気温を加熱させる。 ドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオォォォォ!! 『見えない爆弾』が連続爆発しながら、妹紅に接近して来る。 「(そして―――――――三つ、この『爆弾』は何度でも爆発する………どれだけ焼かれようが、『標的』を完全に殺害するまで………… だが、熱と焔の妖術は私の十八番………パターンが分かれば、避ける事は容易い!)」 「でえぇい!」 妹紅は特大の火炎球を作ると、 「コレでも食ってなッ!!」 鉛直上方に撃ち上げた。 「コッチヲミロォ~」 当然、『シアーハートアタック』は炎球を追って空へと昇り、炎に突っ込み爆発する。 「(よし、予想通り……!)」 『シアーハートアタック』の爆炎を確認すると、妹紅は上空に無数の火の玉を放った。火の玉はバラバラに飛び交い、ピタッと止まって鬼火のように宙を漂う。 「これで『空飛ぶ爆弾』は無力化した…… そしてお前の『スタンド』はッ!お前を倒せば撃破できるッ!」 妹紅は宙を蹴り、果敢に吉影に向かっていく。 「うおおおおおおおおおお――――――――ッ!!」 空中で身を翻し、吉影の顔面にドロップキックを叩き込もうと肉薄する! ドガアアァァァ! 「なッ――――――――!?」 流星のように放たれた妹紅の蹴りは、吉影に届かず、拝殿に入る寸前で見えない壁に阻まれた。 ニヤリ、妹紅の僅か半歩先で、吉影が不敵な笑みを浮かべる。 「せぇいッ!!」 一瞬怯んだが、すぐさまビリビリと痛む左足を蹴り上げ、回転力を利用して身を捻り、満身の力を籠め右拳を繰り出す。 ドガァッ! 今度は手応えがあった。見えない壁を突き破り、吉影のいる拝殿に侵入できたかと思われた。だが―――――――― 「っ!?」 妹紅の右腕は、亜空間に呑まれたかのように、拝殿との境界を境にスッパリと切断されていた。だが、痛みは全く無い。慌てて腕を引くと、右手は元通りくっついている。動かしてみるが、全く支障は無い。 「……………………」 目と鼻の先、余裕綽々て嘲笑い見下ろす吉影の瞳を睨み返し、右手に火の玉を握る。 「ふんっ!」 先程殴り付けた場所に向けて、火の玉を投げつける。火の玉は拝殿に入ると、やはり消えた。 ドオォォン―――― 近くで聞こえた爆発音に、妹紅はハッと吉影の背後を見やる。 ガラララ―――――――― 向かい側の壁が、炎を上げてガラガラと崩れ落ちていた。 「くっ……………!?」 妹紅は拝殿の中へと手を伸ばした。先刻と同じく、手首が消える。 「っ………………」 案の定、右手は向かいの壁の穴から出ていた。指を曲げようと思うと、離れた手の指が曲がった。 「(やはり…………ッ空間を飛び越えて…………!)」 ギリリ……妹紅が歯軋りする前で、吉影は口角を吊り上げて笑う。 「無駄だよ妹紅………君がいくら私を殴り付けようと、いくら高温で焼き付くそうと…………全て私のいるこの部屋を飛び越え、私には届かない………」 自分を凶悪な目付きで見上げる妹紅を、彼は嘲笑う。 「そして―――――――そろそろ『時間』じゃないかな?君は………」 「――――――――うッ………!?」 悪寒に襲われ、妹紅の身体がグラリと揺れる。 「ぐ………う……っ……?(うっ……き、気分が………)」 「フハハハ――――――――長年味わった事がなかったから、忘れたか?君は動脈をやられているんだ、一、二分もすれば動けなくなるのは当たり前だろう…………」 霞む頭を支え、妹紅はフラフラとしながらも立ち続ける。 吉影は感心したように口笛を吹く。 「それほどの出血で、あれだけ暴れたというのに……… やはり君の生命力には目を見張るものがある…… ――――――――だが…………… 忘れたかね?わたしの『シアーハートアタック』はまだ君を標的にしている事をッ!!」 「はっ!?」 妹紅は咄嗟に振り返り、高く跳躍すると、熱のバリアを展開する。 ドグオオオオォォォォォォォ!! 一瞬前まで妹紅が立っていた場所で、大爆発が巻き起こった。賽銭箱が砕け散り、木片が四散する。 「(な、なぜ私を?まだ囮の火の玉は空中に残っている!)」 妹紅は『シアーハートアタック』が今向かって来ているであろう場所を睨み、また巨大な炎弾を作りあげる。 「でえぇぇいっ!」 炎弾を上空に打ち上げ、『シアーハートアタック』を引き離そうとした。だが―――――――― ドグオオオオォォォォォォォ!! 「えっ――――――――」 妹紅の3メートル手前で、『シアーハートアタック』が爆発した。 バシン! 「ぐああぁぁぁぁ――――――――!」 爆炎から身を守ろうと交差された妹紅の左腕が、肘まで抉り取られる。 さらに爆風が襲い掛かり、彼女の身体を吹き飛ばした。 「(な………なぜ……?ヤツは温度の高い物を追っていく筈…………なのに………)」 風に舞う木の葉のように吹き飛ばされながら、薄れゆく意識の中妹紅は考えていた。 上空から聞こえる『シアーハートアタック』の爆発音を聞き、吉影はニヤリとほくそ笑む。 「妹紅………君の観察眼、恐れ入ったよ……『スタンド』も見えないのに『シアーハートアタック』の『弱点』に気付いたのだからな………」 「だが――――――――確かに、『シアーハートアタック』の知能は低い………標的が誰だろうと関係なく、ひたすら温度の高い物に突っ込んでいくだけの、怪力馬鹿だ。 しかし!『シアーハートアタック』の成長性はAクラス!加えてこの『満月』、わたしの『スタンド』に力を与えてくれている……」 「『シアーハートアタック』は………『学習』したのだ。『獲物』以外に無闇に突進しても、『無駄』だという事をな………」 ウィン! キュラキュラとキャタピラで空を掴み、『シアーハートアタック』が地面に倒れ伏す妹紅に狙いを定めた。 「今ノ爆発ハ人間ジャネエ~!!」 ギュゥゥ――ン! ギャルギャルとキャタピラを軋ませて、『シアーハートアタック』は妹紅に向かって行った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!」 吉廣が『ビーチ・ボーイ』を滅茶苦茶に振り回し、部屋中に糸を撒き散らす。だが、既に遅かった。 「ッ!!」 糸の振動を感じ取り、吉廣は自分達が既に慧音の射程に入っている事を悟った。 「輝之輔ェェ――――!!真正面じゃァッ!」 姿を消した慧音は『ビーチ・ボーイ』の糸を潜り抜け、二人に迫る。 「うああああぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!」 輝之輔は咄嗟に胸ポケットから紙を抜き広げる。 「イエローキャブだァァァァァァ――――ッ!!」 吉廣の写真をひっ掴み、紙から出てきたタクシーに飛び込むと、輝之輔はアクセルを踏み込んだ。 エンジンがけたたましく唸りを上げ、猛スピードで走り出す。 ドガアッ! 【見えない何か】にぶつかり、強烈な衝撃と共にボンネットがへこみ、後輪が一瞬浮き上がったが、構わずアクセル全開で家の中を滅茶苦茶に走り抜ける。 「うおおおおおおおああああぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!」 壁に激突し大穴をぶち開け、タクシーは部屋を出ると、そのまま脇目も振らず直進し続ける。 幾つもの壁をぶち破り、家具を轢き倒し、瓦礫を踏み越え、輝之輔は追跡して来る慧音から離れようとする。 フロントガラスは跡形も無く砕け散り、ボンネットは無惨に捲れ上がっているが、降り注ぐ瓦礫の雨を『エニグマ』で防御する。 「て、輝之輔!こっちは駄目じゃ!『サーフィス』から離れて行っておる!!」 「しょうがないじゃないですかそんな事考える時間なんて無かったんですからッ!」 『ビーチ・ボーイ』を後方に伸ばし慧音を探す吉廣に怒鳴り、輝之輔はアクセルを踏み込んだ。 ドガアァァァンン!! 最後の壁を破り、車体が半分ほど外に出た。 「外だ!早く逃げるぞッ!」 「駄目です!瓦礫に乗り上げたかなんかで、後輪が空回りしてます!!」 輝之輔が叫ぶ。 ピクン――――――― 『ビーチ・ボーイ』の糸が揺れ、吉廣は怒鳴った。 「まずい!奴が来たぞ!タクシーのすぐ後ろじゃ!」 ガシャアァン! 言い終わる直前、後部のフロントガラスが砕けた。 「吉廣さん!タンクをッ!」 輝之輔の叫び声を聞き、吉廣は『ビーチ・ボーイ』の針をガソリンタンクに引っ掻け、引き裂いた。 ドグオオオオォォォォォォ!! ガソリンに引火、爆発が起こり、タクシー内部は爆炎に包まれる。 「うおおおおおおおおおおおおお――――――――!!」 輝之輔は吉廣の写真を掴み、タクシーから吹き飛ばされた。『エニグマ』で爆炎を紙に変えて身を守る。 地面が迫ってきて、激突する瞬間、 ボスッ 紙に変え持っていたエアバックをクッションに衝撃を殺し、ゴロゴロ転がった後飛び起きる。 「――――――――今さらじゃが………お前の『スタンド』、便利過ぎる能力じゃな………」 「ヘへ……今ごろ気付いたんですか…?」 吉廣は『ビーチ・ボーイ』を、輝之輔はサブマシンガンを構え辺りを警戒する。 「あいつ、まだ無事ですね………殺ったなら『能力』は解除されているはずだ……… けど、咄嗟でしたから逃げることだけ考えていましたが、『サーフィス』から離れたのはマズかった。もしかして奴は先に『サーフィス』を殺るつもりじゃ………」 「…いや、それは恐らくない。『サーフィス』はあくまでアフターケア、『計画』の要はわしとお前じゃ。どちらかが倒されれば『人質』は解放されてしまう……奴もそれを分かっておるはずじゃ。」 吉廣が『ビーチ・ボーイ』の糸を伸ばし、探知網を広げていた時だった。 「ッ!!」 『ビーチ・ボーイ』が慧音の気配を探知した。 「こっちじゃ!来るぞッ!」 輝之輔は慧音のいる方向を向き、サブマシンガンの引き金に指をかける。 「うおおおおおおおォォォォォォ――――――――ッ!!」 引き金を引き、撃ちまくった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ドサッ 息も絶え絶えに、妹紅はくずおれ膝を着く。 「ハァ――――――ハァ―――ハァ―……… ………ぐッ……!」 彼女の左腕は肩まで千切れ飛び、グシャグシャに崩れていた。脇腹には向こう側の景色が見えるほど大きな穴があき、クズグズと焼け爛れた臓物が顔を覗かせている。 「ぐっ……………… うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」 朦朧とする意識を覚醒させ、自ら全身を焼き尽くす。爆炎が吹き上がり、火焔が凝集し、妹紅は灰の中から甦る。 「っ―――――くそっ―――!」 剥き出しになり血を噴き出す肩の傷口を押さえ、妹紅は歯軋りする。 「(傷が多すぎる……出血が酷い………!生きていられる時間も短くなってきた………このままでは不利になる一方だ………)」 右掌から炎を放ち、大きな傷口を焼き閉じる。 「――――――――――――――――」 妹紅の睨む先、吉良吉影がこちらを悠然と眺める。観覧席から見下ろすように。高みの見物だと言うように。 「うおおおおぉぉぉッ!」 残る左足で跳躍し、妹紅は吉影に向かって突撃する。 「うああああァァァァァァ!!」 巨大な炎の弾幕を乱れ撃ちする。弾幕は拝殿内へ入ると爆裂し、吉影の姿は爆炎に包まれた。 ゴオオオォォォォォォォォォ―――――――― 爆炎が治まり、拝殿内が見えるようになった。 やはり、吉影は平然と立っていた。 「うらああああァァァ!」 妹紅は一対の鳳凰の翼を纏い、拝殿内に突進する。 ドガラアァァァァ! 空間を飛び越え、向かいの壁をぶち破っただけだった。 「無駄無駄ァ………君がどんな攻撃をしようと、わたしを脅かすなんて事は出来ないんだよ………」 振り返ると、吉影が彼女を嘲笑うように眺めていた。 「――――――――――――――――――――――――」 無言で、妹紅は床に炎を放つ。だが、炎は拝殿内に入ると途切れ、向かいの床に燃え移った。 「だから言っているだろう……?無駄だとね。床も含めわたしのいる部屋は異空間に隔離されているんだ、わたしのところには届かない――――――――」 ドガアァッ! 妹紅の拳が炎上する床を叩き壊し、妹紅は床下に消えた。 「ッ――――――――?」 妹紅を探し吉影は辺りを見渡す。と、その時、 ドガアアァァァッ! 吉影の足下の床が砕け、妹紅の深紅の双眸が吉影を見上げた。 「なっ――――――――」 妹紅が焔の翼を広げ、飛翔した。 ドオオオオォォォォォォ!! 「―――――――――――――――― ――――――――ッ!?」 妹紅の上半身は天井を突き破り、屋根裏に出ただけだった。 「だめだめだめだめだめだめだめ!全然駄目だ妹紅………」 吉影が妹紅の顔を見上げ、嘲笑する。 「言ったろう?床も異空間の中にあると………」 吉影の足下には、床に開いた穴があった。しかし彼は当然のように『穴の上』を歩いている。 「床が抜ければわたしは落ちて来る………そう考えていたんだろうが、それはハズレだ。 わたしはこの拝殿の中にいるんじゃない、切り取られた空間内にいるんだよ。そしてこの空間からは、わたし自身出る事は出来ない。『能力』を解除しない限りね――――――――」 ドグオオオオォォォォォォ!! 天井が爆発し、空間を飛び越えた衝撃が床を崩落させる。 妹紅が下半身を屋根裏に引き上げ、全身から火焔を噴出させる。迸る業火が拝殿を包み、壁が、床が、天井が崩壊した。 ザッ――― 妹紅は屋根から飛び降りると、拝殿を振り返る。 「――――――――っ………!」 揺らめく炎の中、完全に灰と化した拝殿跡で、吉影は空に立ち冷酷な視線を妹紅に向けていた。 「無駄だと言っているのが分からないかね?わたしのいるこの場所には、『害悪』は入ってこれない。互いに姿が見え会話もしているが、熱線や毒音波は全て遮断される。煙にまかれたり、一酸化炭素中毒にもなりはしない。わたしは誰にも倒せない。」 吉影の瞳がギラリと輝く。 「………何故無駄な攻撃を繰り返す? 君の『信頼』を裏切った私が憎いか?それとも、わたしのやろうとしている事が何なのか分かったからか?」 血が足りず、妹紅は右膝を折る。だが、その両目は濁る事なく吉影を映していた。 「さあね……お前のやろうとしている事は詳しく分からないが、良くない事だって事だけは分かるな…… ――――――――だが……私がここにいる理由はその事じゃない………私がお前を止めようとする訳は――――――――」 妹紅は一度大きく呼吸し、吉影を見詰めた。 「――――――――『思い出』……のためさ……」 妹紅の言葉を聞き、吉影は怪訝な表情を浮かべる。 「長い時間永らえると………『思い出』がかけがえのない物になるんだ………そいつは物や記録じゃなく、永遠を生きる私と共に寄り添っていてくれる……… 『過去の栄光』とか悪い言われ方をするけれど、過去になった時間は、感情は、栄光は、もはや誰にも奪えない永遠に救い出される…」 「確かに、お前のように豹変しちまったヤツは何度も見たよ………折角助けてあげたのに、私の身体を気味悪がって、追い立てられた事も何度もあった……その度に、私は誰よりも孤独なんだと思い込んだもんだよ…… でも、今は違う。私には『親友』ができて、仲間ができた。人を護る『仕事』と、仕事をする『喜び』を知った。生きている事は素晴らしい事なんだと、やっと前向きに歩き出す事が出来たんだ。 これから何があっても――――――――素晴らしい『思い出』だけは色褪せずに、私と一緒に息づいていてくれる。」 ガッ 妹紅は満身の力を籠め、立ち上がった。吉影は驚き、息を呑む。 「私は、お前との『思い出』を嘘にしたくない。幻想郷は私が動かなくても大丈夫だ。だが!今私とお前の『思い出』を護れるのは、私しかいない!」 妹紅の両目には、力強い光が灯っていた。 妹紅の背に、不死鳥の翼が顕れた。炎の翼で力強く空を叩き、飛び上がる。 「私とお前の『思い出』は!私が決着をつけるッ!!」 吉影を見据え、妹紅が叫ぶ。 「――――――――フン、くだらない………」 鼻を鳴らし、吉影は妹紅を睨み付ける。 「頭か心臓だ……今度はそこを確実にぶっ飛ばす!甦生した端から勝手に死に続けるようにな!!」 ギャルギャルギャルギャル―――――――― 『シアーハートアタック』が吉影の足下から現れ、妹紅に狙いを定める。 「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!」 「やれッ!!『シアーハートアタック』ッ!!」 妹紅が飛翔し、『シアーハートアタック』が迎え撃った。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うおおおおおォォォォォォォォ――――――――!!」 『ビーチ・ボーイ』の糸が乱れ舞い、銃弾が鉛の嵐のように吹き荒ぶ。 「輝之輔ッそっちに行ったぞッ!!」 吉廣が輝之輔に向かって叫ぶ。 「『エニグマ』!」 弾倉が空になったサブマシンガンを『エニグマ』に放り、もう一丁のサブマシンガンを構え、やたらめったら撃つ。 「うおおおおお当たれ畜生ォォォォ!!」 後退しながら撃ち続けるが、突然背中を何かに押し返された。 「なッ!?」 後ろを振り向くが、何も無かった。だが、肘を突いてみると確かに何かがあった。 「(これはっ…見えない壁!?し、しまった―――!)」 慧音は確実に目前まで迫って来ていた。退路は無い。 「うわああああぁぁぁぁ!!」 輝之輔は紙を抜くと、前方に向かって広げる。 ゴオオオオオオオオオオンン―――――――― 「(――――っ!?)」 輝之輔に迫り、彼の顎にぶちこむべく拳をぐっと引き絞っていた慧音は、紙から飛び出してきた巨大な物体にぶつかった。 「(な…なんだこれは?外の世界の機械か―――― ――――ッ!!)」 気付いた時には、既に遅かった。暴食のマシンの口に飛び込んだ慧音に、極悪のギロチン刃が振り下ろされた。 グショォアァァ!! 「ゴミ収集車だァァァァァァァァ――――――――ッ!!」 圧縮板式ゴミ収集車の前方に立つ輝之輔が、会心の叫びをあげる。 「真っ二つに挽き潰されてしまえぇぇぇぇぇぇッ!!」 ゴオオオオオオオオオンン―――――――― だが、肉が潰れ骨が砕ける音が聞こえる事は、なかった。 ドゴオオオオォォォォォォン!! 轟音と共に、車体が大きく揺れた。続いて、圧縮板を駆動させる機械が悲鳴をあげる。 「なぁ―――――――ッ!?ま、まさか………!」 ドオオオオォォォォォォン!! 箱形容器前部と運転席後部の壁をぶち破り、ステルス状態の慧音が飛び出る。 「し、しまっ――――――――」 ガシャアァン! フロントガラスが叩き割られ、見えない手が輝之輔に伸びる。 「輝之輔ぇぇぇ――――――――ッ!」 「(はっ!)」 吉廣の声に慧音が上を見上げると、『ビーチ・ボーイ』の糸が迫って来ていた。 「(くっ!)」 バックジャンプで糸を避けると、糸は輝之輔の襟を引っ掛け、彼を吉廣のいる屋根の上へ引き揚げた。 「(糸の先に針の代わりに写真が付いている……何を仕掛けた…?)」 慧音は糸の先が何処にあるのか調べようと、巻物に目を落とした。 その瞬間、吉廣が老獪な笑みを浮かべる。 「(今、奴の姿はわしには見えん……じゃが、奴がいくら『過去』を知る事が出来ても、読心術や未来予知はできまい!)」 ――バサ――バサ――バサ―― 「っ!」 物音に反応し慧音が顔をあげると、彼女を取り囲むように大量の写真が空中から現れた。 「(『歴史を創る程度の能力』………確かに恐ろしい能力じゃ。しかし、その力にも弱点はある。それは、お前自身も巻物を読まない限り『歴史』を知る事はできないという事じゃ。つまり、『巻物を読む機会』を奪ってしまえば、奴に行動を読まれる事は無い!)」 吉廣は狡猾に笑う。 「(輝之輔がゴミ収集車で視界を遮っている間、写真を設置し写真空間内に巻き込んで隠しておいた……爆弾紙を数珠繋ぎにした『ビーチ・ボーイ』を通しておいてな!!)」 吉廣は包丁を握り、『ビーチ・ボーイ』の糸に振り下ろした。 切断エネルギーが糸を伝わり、写真空間内の爆弾紙が引き裂かれる。 ドグオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!! 写真から爆炎が吹き出し、慧音に襲い掛かる。 「くっ……!」 咄嗟の判断で、慧音は屈みボムを放つ。 ボムは爆炎を消滅させ、彼女を防御した。 しかし、吉廣の顔から笑みが消える事は無かった。 「(やはり『見えておらん』………な!爆弾仕掛けの写真はただの陽動にすぎん、わしの仕掛けた『本命』は――――――――!)」 ドグオオオオォォォォォォ!! 「ッ―――!?」 慧音の足下、半径5、6メートルの地面が、一瞬にして爆炎と共に吹き飛んだ。 「ケェェェェケケケケケ!かかりおったわい馬鹿め!!」 地面に裏向きに落ちている写真を見下ろし、吉廣は会心の笑い声をあげる。 「お前の足下には、最後に糸を通した写真から出した『ビーチ・ボーイ』の針と糸がビッシリ張り巡らしてあるんじゃよぉぉ!さっきの爆発のエネルギーも、全部お前の立っている地面に返ってくる!そしてッ!」 ヒュンヒュンヒュンヒュン! 土煙の中、地中から『ビーチ・ボーイ』の糸が飛び出し、滅茶苦茶に暴れ回る。 「一網打尽の一本釣りじゃァァァァ――――――――ッ!!」 もうもうと立ち込める土埃の中、『ビーチ・ボーイ』の糸の飛び交う音が聞こえる。 ズバシャァ! 「むッ!」 手応えを感じ、吉廣はリールを巻き上げる。 「や、やりましたか!?」 輝之輔が期待を籠めた声で問うが、吉廣は舌打ちし首を振る。 「いいや、コレだけじゃ。」 引き上げた『ビーチ・ボーイ』の針には、蓑が引っ掛かっていただけだった。 「奴め、わしが爆破して開けた穴から地下水路を通って逃げたらしい………『ビーチ・ボーイ』でも探せない水路でな………」 「…………で、でも、蓑が無くなったって事は、奴はもう姿は消せないんでしょう?それだけでも大成果と言って良いんじゃ…」 「どうかな……?奴は身体を覆える物さえあれば姿を隠せる……カーテンでもテーブルクロスでもな………」 吉廣は苦虫を噛み潰したような表情で、『ビーチ・ボーイ』の糸を周囲に広げる。 「わしとお前を囲うように、『ビーチ・ボーイ』の糸を広げておく……これで奴も気安く接近出来まい……… ―――それと―――――」 ドゴオォォン! 二人がタクシーに乗って飛び出して来た家の屋根瓦が砕け散り、『サーフィス』が飛び出てきた。 「ふんっ!!」 『サーフィス』はひとっ跳びで通りを越え、二人のいる屋根に着地した。 「お前もじゃ『サーフィス』、『探知網』の中に入って、辺りを見張っておれ。」 『サーフィス』を加えた三人は、背を合わせて辺りの通りを見下ろし、慧音の姿を探す。 「ッ! そこだ!いたぞッ!」 「「ッ!!」」 声に二人が振り向くと、『サーフィス』の示す方向、狭い路地から顔を出し慧音が此方を睨んでいた。 「ええいっ!」 『サーフィス』が慧音の行動を縛り、慧音は路地から引き摺り出される。 「うおおおおおおおおォォォォォォォォ――――――――ッ!!」 ジャキン! サブマシンガンの照準を慧音に定め、輝之輔が引き金を引いた! ズダダダン! 銃口から吐き出された銃弾は、身動きできない慧音の喉笛、左胸骨を貫通した。 「やったッ!!奴を殺った――――――――」 輝之輔の歓喜の声は、直後響いた破壊音により、ぬか喜びに萎びていった。 慧音の身体が、パリィィ――ンという甲高い音と共に砕け散った。 「――――――――え?えっ!?」 輝之輔が呆けた声をあげ、吉廣は地面に散らばる反射物の破片を見て舌打ちする。 「鏡じゃ………奴の『歴史を創る程度の能力』で、鏡面に自分の像を投影し、ダミーとしていたんじゃ!」 三人は再び背を寄せ、強張った顔で周囲を見回す。 「………………陽動に気をとられている隙をついて襲撃…………とかじゃないみたいですね……」 輝之輔が安堵の溜め息を吐く。だが、吉廣の表情はより険しいものになっていた。 「おかしい………奴なら今の隙をついて、わしらを叩きのめす事は容易かったはずじゃ……それを奴はしなかった。」 吉廣はぶつぶつと疑惑を口にしていく。 「………………ッ! まさか奴は、妖怪退治屋や命蓮寺の連中に増援を求めにいったのか?さっきのダミーは『サーフィス』をここに縛り付け、撹乱作戦を封じ、さらにわしらの注意を逸らすため………?」 吉廣の表情が、鬼気迫るものへと変貌していく。 「あ…あの……?親父…さん……?」 見かねた輝之輔がおどおどと顔を覗き込む。 「それはたぶん無いと思いますよ…?奴は僕たち二人を倒せばいい、でも増援を呼んでいる間に僕たちに逃げられたら、形勢はこちらに――――――――」 ギロォ 吉廣の眼(まなこ)に睨まれ、ビグッと輝之輔は萎縮する。 「『逃げられたら』じゃとォォッ!?奴はわしらが何処に逃げても、その足跡を辿れるんじゃぞ!わしの写真間ジャンプが使えるならまだしも、それを封じられ、『人質』も自由にできん!追い詰められているのはわしらの方じゃッ!!」 物凄い剣幕で怒鳴り散らし、吉廣は『ビーチ・ボーイ』の竿を握る。 「息子の邪魔は………絶対にさせんぞ………ッ!」 吉廣は『ビーチ・ボーイ』を振り上げ、 「どこじゃあああああああああァァァァァァァァァァァァ――――――――ッッ!!!!」 糸を滅茶苦茶に広げ、周囲を探り倒し始めた。 「ッ!?親父さん!?なにやってるんですかッ!?『探知網』が無くなったら――――――――!!」 輝之輔が『ビーチ・ボーイ』に手を伸ばし、吉廣を止めようとした、瞬間だった。 グオン! 三人の乗っていた『実在しない家の屋根』を透過し、慧音が彼らのど真ん中に現れた。 ドガアァァッ!! 反応する隙も無く『サーフィス』を粉砕し、輝之輔に足払いをかけ踏みつける。 「うあっ!?」 「あぐぁッ!!」 一瞬のうちに二人を無力化し、慧音は息つく間もなく吉廣に剣を突き出した! 「ッ!?――――――――」 吉廣の両目が見開かれ、剣の切っ先が眉間に迫る! ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――剣の切っ先は、吉廣の額一センチ手前で止まっていた。 「――――――――ケケケケ…………!さすがじゃな、気付きおったか……!」 吉廣は勝利が確定したように、愉悦の笑いを浮かべ慧音を見下ろす。慧音は剣を突きつけたまま、ギリギリと歯を食い縛り彼を憎悪を込めた瞳で睨む。 「そうじゃ………お前の仕掛けたダミーの目的は、確かに陽動……じゃが、隙を作り奇襲するためでも、援軍を呼ぶためでもない事は分かっておった………! ………その本当の目的は………わしらの注意を、『あるモノ』から逸らすためじゃった………」 『ビーチ・ボーイ』で鏡のあった場所を示し、吉廣はニタニタと笑う。 「あちらに注意を引き付けたいという事は……その反対側から目を離させたいという事……… そして鏡の反対、こちらの方向にあるのは……ッ!!」 ビシィ! 吉廣が『ビーチ・ボーイ』を振り上げ、鏡の反対側、大きな屋敷を差す。 「御阿礼の子の屋敷じゃァァァァ――――――――ケケケケケケェェェェ――――――――ッ!」 吉廣は腹の底から沸き上がる愉悦を笑いに変え吐き出す。 「フフフ…………フフフハハハ…………!フハハハハハハハハハハハハ…………―――――ッ!!」 慧音の足の下から這い出し、輝之輔が哄笑する。 「さすが名家は格が違う……屋敷の位置は過去から現在までちっとも変わっちゃいない! あんたと交戦する前、僕と親父さんは御阿礼の子をさらおうと、屋敷内に『釣糸』を垂らした………でも捕まるのは女中ばかりで、肝心の稗田阿求はかからなかった。いち早く襲撃に気付き、隠し部屋か何処かに逃げ込んだんだろう……その時は他にも『人質』にする価値のある人間はいくらでもいたから引き揚げたが、それが今ここで役にたつとはなぁぁぁ………!」 腹が捩れるほど輝之輔は笑い、立ち上がる。 「親父さんの考えをすぐに察した僕は、親父さんの茶番に付き合った……焦って逆上したふりをして稗田阿求を探していた吉廣さんの『ビーチ・ボーイ』に、『エニグマ』で触れて『紙化エネルギー』を伝えて、阿求の屋敷を端から端まで紙に変えてやった!そうすれば………」 ニィッと口角を歪め、輝之輔はこの上なく愉快な気分で笑う。 「彼女も心底驚くだろうな………驚いて、怯えてくれるだろうな……!?そして、あんたが『歴史』を『上書き』するまでの一瞬のその心拍数の増加を、『ビーチ・ボーイ』で逃さず探知し、針を引っ掛ける………!」 「そうやってわしらは起死回生の逆転の切り札を手に入れた!さあッ!こいつを見ろッ!」 グンッ! 吉廣が『ビーチ・ボーイ』を振った! 「きゃあああああああぁぁぁぁぁっ!?」 バリバリと紙の裂ける音のあと、一人の少女が『ビーチ・ボーイ』の針に釣られ、引きずり出される。 「稗田の御子!」 慧音が彼女を見て叫ぶ。 阿求は恐怖に駆られた目で彼女を見上げる。 「け……慧音……先生……っ」 先代たちの記憶を継承し転生しているとはいえ、記憶は幻想郷縁起に関する一部しか受け継がれていない、年相応の少女。阿求の声は恐れに震えていた。が、聡明な彼女はすぐになんのために自分が引きずり出されたのか理解し、怯えを押し殺し彼女に言う。 「慧音、私なら…大丈夫です。私は死んでも転生できます。だから、そいつらが何をしようとしても耳を貸してはいけません!貴女は里の人間を――――――――」 ブゥン! 「ひぃっ!?」 『ビーチ・ボーイ』の竿が唸り、阿求の身体が宙に釣り上げられる。 「嘘を吐くな小娘…!キサマの転生には数年にわたる準備が必要だという事はすでに知っとるわい!!」 吉廣は輝之輔をちらりと見やった。輝之輔はニヤリと笑い、『エニグマ』の親指を立てる。阿求の【恐怖のサイン】を発見したという合図だ。 「良いか半獣………その得物を捨てて、『糸』に腕を掛けろ。少しでも妙な動きしてみやがれ………コイツの臓物引きずり出して順番に並べてやる。」 吉廣が『ビーチ・ボーイ』をしならせ、脅す。 「っ――――――」 慧音は吉廣から剣の切っ先を遠ざけると、剣から手を離した。 「『エニグマ』」 すかさず『エニグマ』が剣を紙に変え、輝之輔が懐に仕舞い込む。 「うらァ!!」 ドムッ! 輝之輔の拳が慧音の腹にめり込み、鈍い音が響いた。 「――――――ッッ!? かはっ………!!」 打撃の瞬間、内臓を直に殴られたような衝撃が彼女の腹部を駆け抜けた。 胃を鐘突で圧迫されたかのように、吐き気が込み上げる。 「うっ……!? うげ…ぁ…ッ!えぇぇぇぇ……!!」 ビタビタ……… ビチャチャァ…… 口を開き、胃から押し戻され喉に上って来たモノが溢れ出す。 彼女の夕食の残骸が滴り、粘っこい液体が地面に叩きつけられる不快な音が鳴った。 飛沫が輝之輔の靴に掛かったが、触れる寸前に【エニグマ】が【ファイル】して主人を汚れから保護する。 「ううっ……! うえぇ……!!ゲホッ…ゲホッ…! かはっ――――――」 苦悶に喘ぎ、慧音は激しく咳き込む。 反吐のエグい臭いが鼻を突く。 殴られた腹はまだジンジンと疼き、衝撃が浸透して内臓を締め上げていた。 「(なっ…なんだ……!?この少年……!【満月の夜】の私を、【半獣状態】の私を……!【素手】で……!)」 目の前の痩せっぽっちな少年の、華奢な腕からは想像も出来ないような威力だった。 目尻に涙を滲ませ、苦しげな表情で、しかし【敵意】は微塵も曲げていない目付きで輝之輔を睨む。 「……【皮膚】が刺激を受けた時……【筋肉】は本能的にその力から身を守ろうと反応してくる……… だが!【皮膚】までだ………『【皮膚】まで』なら!【皮膚】を支配できたなら【筋肉】は異常事態が起こっていると気づかない………我が【エニグマ】は【刺激】を【筋肉】に悟らせない、だから痩せっぽっちの僕の腕力でも、半妖のお前に通用するんだ……」 【腹筋への電気信号】を封じた【紙】が、パラリと地面に落ちた。 「…クククク……ッ、良ィ~い眼で睨んでくれるじゃないか……背筋がゾクゾク震えてくるぞ……! ロリ妖怪共の哭き声にも丁度飽きてきた頃だ、そろそろ趣向を変えてグラマラスな女も【コレクション】に加えてやるとするかなァ~………」 ニタニタと下卑た笑みを浮かべ、輝之輔は舌なめずりをする。 「おい輝之輔、あまり痛め付けるんじゃないぞ!そいつも立派な【人質】じゃ、活きの良いに越したことはない。」 ニヤニヤと口角を吊り上げて、吉廣は輝之輔を諭す。 「ヤダなぁ~分かってますよ親父さん、ちょっとからかってやっただけですって~」 二人してゲラゲラと高笑いする。 「――――――――――――――――――――――――」 慧音が『ビーチ・ボーイ』の糸に触れようとするのを見て、阿求は叫ぶ。 「慧音!どうして………っ!? 駄目です、貴女は私一人なんかより、里の人々を助けなくては――――――――!」 「――――――――――――――――阿求、君が転生の準備を終えていつでも旅立てるのだとしても、私はこうしているだろう………」 拳を震わせ、慧音は吉廣を睨んだまま言う。 「――――――――私は、妹紅が死んでショックを受けなかった事なんて一度もない。一回の死を語らずに、永遠の生を語る事なんてできないからだ。 一を軽んじる者に、全を重んずる事はできない。一人の命を見捨てる者に、百人を護る資格はないんだ。」 スッ―――――――― 慧音の右手のひらに、『糸』が掛かった。 「輝之輔ッやれ!!」 「合点承知ィッ!」 輝之輔は飛び上がると、懐から抜いた紙を広げた。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――――――― 紙はパタパタと大きく広がり、中から巨大な鉄骨が姿を現した。 「『スーパーフライ』だぁぁぁァァァァッ!!」 全高約38メートルの送電鉄塔が、慧音を閉じ込めるように出現した。 「―――――――――――――――― …………………ん…?ここは………?」 鉄塔の中にいた男、鋼田一豊大は、キョロキョロと辺りを見回す。 「――――――――ヒィッ!?」 輝之輔を見た瞬間、彼の表情はマスク越しでも分かるほど恐怖に歪む。 「『エニグマ』!」 『エニグマ』で彼を紙に変え、輝之輔は懐に突っ込んだ。 「その鉄塔から出ようとしない方が良いぞ、出た部位は全て金属に変化する。」 吉廣がドスの効いた声で言う。 「お前を引きずり出して金属に変えてから『エニグマ』で紙にしちまう前に…… 『能力』を解除して貰おうか……?」 輝之輔の言葉に、慧音は殺気を剥き出しにしながらも『能力』を解除した。 里の様子は、一瞬で変化した。吉廣達が乗っていた家は消え失せ、稗田の屋敷はペシャンコの紙になった。 「やった、これで『計画』が実行できますね!」 「ああ、とっとと二人とも紙にして、吉影のところに向かうぞ。」 と、輝之輔は慧音を眺めて、あることに気付いた。 「ん………?」 慧音の手には、巻物は握られていなかった。 「おいお前ッ!巻物は何処に――――――――」 吉廣は息子の様子を見ようと、自分の入っている写真を覗いた。そして―――――――― 「なッ――――――――」 吉廣の表情が、一変した。 「なんじゃとおおおおオオオォォォォォォォォォ――――――――ッッ!?!?!?」 吉廣の絶叫が、人里に響き渡った。 ――――――――博麗神社拝殿内で、吉影の姿を写した写真。その中に、撮影した時にはいなかった人影が写っていた。 派手な紫の洋服、なびく金髪、掲げた日傘。写真に写り込んだ人影は、写真空間内を歩き、吉影の像に歩み寄る。 「こ、この女、まさか白玉楼にいた………」 金髪の少女の後ろ姿に、吉廣は見覚えがあった。 少女は吉影の像の傍らに立つと、人差し指と中指をたて、像に向かって何かを切り裂く素振りをした。 シッパアアァァァ――――――――ン 吉影の像が、バラバラに切り刻まれた。 「吉影ェェェェェェェェェェェェ――――――――ッ!!」 絶叫し、『アトム・ハート・ファーザー』を解除した。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 「―――――――――――――――― ――――――――はッ………!?」 妹紅と『シアーハートアタック』が激突するのを隔離空間から眺めていた吉影は、一瞬身体が宙に浮く感覚を覚えた。 「なッ――――――――!?!?」 突然足下が消え去り、彼は落下してうつ伏せに地面に叩きつけられた。 ドグオオォォォォォォォォォ!! 流れ弾が吉影の頭上、寸前まで彼がいた場所を掠めていく。 「ぐあッ……あああ…ッ!? (あ、熱いッ…!)」 一瞬掠めただけで、火傷を負うほどの高温。『写真の空間』にいた時、微塵も感じなかった威力だ。 「(な……何故…!?なぜ『アトム・ハート・ファーザー』が解除された!?)」 だが、考えている時間は無かった。 「はッ!」 弾幕を乱射し『シアーハートアタック』を押し切ろうとしていた妹紅が、吉影の異常に気付いた。 「(地面に倒れている……!まさか、『結界』が解除された?)」 ドグオオォォォォォォォォォ!! 目前で起こった大爆発から『シアーハートアタック』の位置を把握し、妹紅は吉影に向かって急降下する。 「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!」 彼の脳天を狙い、矢のように蹴りを放った。 「はッ!?」 頭上から迫る、妹紅の蹴り。吉影は咄嗟に手元の紙を開く。 ドガアアァァッ! 大鎚のごとき妹紅の踵が、吉影の脳天に叩き込まれた! 「……………………………っ!?」 妹紅の踵は、吉影の頭の手前で止まっていた。 「ギャアァァァァァス!!」 吉影の手の上で『ストレイ・キャット』が咆哮する。 「ストレイ・キャットォッ!」 ガシィ! 妹紅の蹴りを受け止めた『空気弾』を足枷に変形させ、彼女の足を空中に固定する。 「(私の蹴りを受け止めた?なんだ…?) ふんっ!」 足から焔が吹き出し、『空気弾』が燃え上がる。 「ぐうッ!?」 吉影は飛び起きると、妹紅から距離をとり『空気弾』を撃たせる。 「(あの妙な植物、何かを撃った!火の光を反射して、うっすらと輪郭が分かる……!)」 妹紅は焔の弾幕を撃ち、『空気弾』を焼き払う。 「『ストレイ・キャット』!!」 襲い来る炎を、『真空の壁』で防ぐ。 「くっ……………!」 炎自体は防げても、熱は彼の身体を焼く。 『奥の手』を使わなければ、と懐に手を入れる。 「フランッ!こいつの『目』を奪え――――――――」 懐から写真を抜き吉影がフランに命令した、その瞬間! バサバサバサバサ―――――――― フランの部屋と繋がっている写真から、大量の本が飛び出した。 「なッ――――――――!?」 本は吉影を取り囲み、独りでにページは捲られる。 「ッ!?」 一瞬にして、吉影は身動きが取れなくなった。全身の筋肉と神経が麻痺し、微動だにできない。それは、美鈴の一撃を受けた時の感覚と酷似していた。 「ギャアァァァァァス!?」 「コッチヲミロォー!」 『ストレイ・キャット』と『シアーハートアタック』も、突如襲った感覚に喚く。 「ケホっ…ケホっ……『対スタンド使い拘束術式』………効果覿面ね。」 写真から聞こえてきた、少女の声。立ち込める煙に苦しそうに咳をするその声は、フランのものではなかった。 「(こ………これは……まさか………ッ!?)」 ザッ―――――――― 背後に誰かが着地する音。吉影が目を向け、妹紅が振り返る。 「ぐ………………うっ……………ッ!?」 吉影の両目が見開かれ、表情が強張る。 「―――――――――――――――――――――――― ――――――――二度目の今晩はね……………『川尻浩作』――――――――?」 炎で紅く染まった境内。 紅魔館の主、レミリア・スカーレットが、二人の従者を従え、吉影を睨んでいた。 ED SYNC ART S 『銀のめぐり』 ――――――――――――――――――――――――――――― 「うおおおおォォォォォォォォォォォォ――――――――!!」 阿求にかけた『ビーチ・ボーイ』の針を外し、吉廣は『ビーチ・ボーイ』を輝之輔に投げ渡す。 「お、親父さん!?な、何が――――――――!?」 慌てて『ビーチ・ボーイ』をキャッチし、輝之輔は吉廣に問う。 「説明する時間が無い!いいか、わしはこれから写真の中で『侵入者』と闘う!お前はどうにかして半獣を始末しろッ!!」 切羽詰まった様子でそう怒鳴ると、吉廣は写真の中へ姿を消した。 「えッ!?ちょ、ちょっと親父さん!?」 写真に入ろうとするが、吉廣がブロックしているため入れない。 グンッ! 「うおあぁッ!?」 『ビーチ・ボーイ』を引っ張られ、輝之輔は慌てて踏み止まる。 「じょ、冗談じゃないぞ…………………!!」 慧音が『ビーチ・ボーイ』の糸を掴み、手繰り寄せる。 「うおおおおああああァァァァァァァァ――――――――――――――――」 半獣の腕力で引っ張られ、輝之輔は地面に靴で溝を刻みながら引き摺られていった。
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【作品名】どうぶつの森シリーズ 【ジャンル】ゲーム 【名前】主人公男 【属性】動物の森にひっこしてきた人間 【大きさ】二頭身の人間相応 【攻撃力】 黄金のスコップ:いくら振り回しても住人に傷一つつけられず、突き刺しても石に弾かれるスコップ。 黄金のオノ:何千回と石に叩きつけても壊れない頑丈なオノ。太い木を数回で切り倒すことができる。 黄金のパチンコ:3発の球を上空に放つ。雲の近くを飛ぶUFOでさえも正確に打ち落とすこともできるが、威力はたぶんパチンコ相応。 【防御力】 黄金のオノを浴びせられてもなぜか生きている程度。 人間相応。 【素早さ】 ハチの大群にギリギリで追いつかれてしまう程度。女より男の方が、わずかに素早い。 【特殊能力】落とし穴のタネといわれる道具を10個ほど所持、スコップを使って小さな落とし穴を作成できる。 【長所】落とし穴、食料あり 【短所】戦闘能力皆無 【戦法】距離を離して落とし穴を作り、そこに落とす vol.8 447 :格無しさん:2007/10/23(火) 23 04 23 主人公男(どうぶつの森)考察 ○成歩堂~プレスリー 斧で斬殺勝ち ×前原圭一 自転車でぶっ飛ばされた後にバットで撲殺負け △ケシカス 倒せないが倒されない ○夜神~みのもんた 斧で斬殺勝ち ×キョン 撲殺負け ×五代 轢殺負け ×関 タロット負け ×桐野 天啓負け キョン>主人公男(どうぶつの森)>みのもんた